148 その33 ~遠い地からの侵略 その21~

砂漠の町「バザー」に派遣された第1~3砲撃隊から届く応援要請。少し待てとマスターことザックは待ったを掛けるが事態は急を要すると再び応援要請が届く。ザックは準備していた護る力を急ぎ完成させる…否、急いだからこそ、その武器は搭乗者のスペックに左右されることとなったが…これが搭乗者の組み合わせに依ってはトンデモ性能となるのだが…今はまだ秘めた力ということで!

※どちらにせよ、この世界ではオーバースペックとなります…(苦笑)

━━━━━━━━━━━━━━


- 漆黒の巨神、降り立つ -


「ほええ~…」


シャーリーは乗り込んだ瞬間に座っている座席の肘掛けをぺしぺし叩いて興奮していた…泣いたカラスがもう笑った?


「これは…見たこともない様式の椅子…ですね?」


レムは肘掛けのある椅子には座ったことがないのだろう。まぁ、肘掛け付きの椅子なんか、領主様の椅子や王都の高官の働く執務席、王様の玉座くらいにしかないだろう…と思う。王様の玉座なんて絵でしか見たことないけど…


「じゃ、肘掛けの先に付いてる玉に触れててくれる?」


「「なんで(何故)?」」


「搭乗してる人の魔力の補助を受けられるんだ。何なら、僕が許可すると戦闘に参加できるけど…どうする?」


「「触る!」」


2人共、自ら進んで玉を…「漆黒の巨神」の補助制御コアに触れる。通常は僅かに魔力を供給して貰うだけのコアだけど、主操縦者が許可を出せば限定的だけど巨神を操る制御コアとなる。一度に1人しか制御権を得られないけど、使い方に依っては主操縦者の補佐をする副操縦者という使い方もできる…と思う。一応、そういう仕様になってるんだけど…


(最初の出撃じゃあそこまでは無理だろうね…)


取り敢えず、タイムリミットも迫っていることだし…


「じゃあ出る。シディは宜しくね?」


『え?ちょっ!…マスター!?』


と、艦橋のナル統括体が慌てふためいているけどスルーしてふわっと浮く巨神。


「そーいやこの子の名前は?」


「急いでたからね…まだ」


「じゃああたしが付けてもいーい?」


シャーリーがそういうので、レムに視線を向けると(コクピット内で振り向くのは難しいのでサブモニターに映る2人を見て会話している)


「…いいんじゃない?」


と、割とサバサバした様子だ。なので、


「いいってさ」


と、まるでレムがいいといったからいいよと許可を出すと、


「ちょっ!…まるで私がダメっていったらダメってことぉっ!?」


と、初めて慌てるレム。悪戯が成功したかのような笑顔に益々慌てるレムだが…


「あはははw…じゃーねー…」


と腕を組むシャーリーに、レムは邪魔をしちゃ悪いと思ったのか静かになる。


「…おっきくて黒い守護神だから…」


コンソールに向かって命名するシャーリーに、初めて反応する巨神の思考コア。


〈マスター…シャーリー様…レム様…御名前有難う御座います…〉


「いや…私は何も…」


「いーんじゃない?…感謝の気持ちは気持ちよく受け取っておけば!」


そんなレムとシャーリーに微笑ましい気持ちになるが…戦場はヤヴァイらしいからな。


「じゃあ、生まれたばかりで悪いが…」


〈イエス、マスター…御心のままに…〉


「じゃあ…行くぞ。ブラック・ゴーディアン」


黒い守護神…本来ならブラック・ガード・ゴッド…なんて取ってつけたような名前だが、それじゃ格好悪いと考えたのだろう。一応念話テレパシーで相談されたんだけど…


『なら、守護者ってガーディアンっていうんだけど、神様のゴッドと合成してゴーディアンとかどうだ?』


と提案してみたら良かったようで…黒い守護神って意味で「ブラック・ゴーディアン」と相成った訳だ。



「マスターから連絡…シディの天宮の間に浮いている新型ゴーレムは「ブラック・ゴーディアン黒い守護神」と…呼称するとのことです」


「新型?」


「はい!」


艦橋スタッフからナルに伝えられた。この場で新たな戦力が追加されるのは喜ばしいことなのだろうが…


(…これから始まる争いに戦力が増えるのは歓迎することなんでしょう)


何となく湧き上がる不安があるが…目前の争いを抑えるには必要なことだと抑え込み、ナルは艦橋スタッフに了解したと伝え、シディに新しい備品登録を指示し、発進の許可を下すのだった…



- 「BG」発進す -


「了解した。略式名称「BGビージー」発進する!」


全高15mの漆黒のゴーレムが音も無く浮遊し…十分な距離を空けてから微速前進していた所から一瞬で姿を消した。


「「「…は?」」」


艦橋スタッフ全員(ナル含む)から呆けた声が漏れる…


「BGの現在位置はっ!?」


「…えと」


わたわたと余り慣れてないコンソールを操作してBGの現在位置を補足する艦橋スタッフ。


「居ました!…その…バザーの上空を微速前進しています…」


「はぁ?…嘘でしょ!?」


全高15mクラスのゴーレムが浮いて飛んでるだけでも信じられないのに、今度は瞬間移動だと!?…と、ナルが脳みそが(ありませんw)オーバーヒートしそうになっていた。


「転移魔法…?」


「いえ…少なくとも、転移魔法の魔方陣も魔力光も認められていません!」


「じゃ、じゃあ…超加速?」


「…移動方法は未知の方法を使ったとしか…少なくとも、魔法を使った訳でもないようです」


普通に移動すれば、移動経路に空気の乱れが発生する。だが…それも無かった。唯、魔力の塊が消えた位置と到着した場にあり…今は消えつつある…というだけだ。


「まさか…いや、そんな訳は…」


そんな呟きを漏らす艦橋スタッフが居たので何を考えたか吐かせると…


「ワームホール?」


何それ?…と、聞き慣れない単語の意味を問い質すナル。


「いえ…今、その…頭に浮かんだのですが…もう消えてしまいました」


「は?…消えたって…ゴーレムの記憶はそんな簡単に…って、あら?」


スタッフとナルが顔を見合わせて目をぱちくりと…


「今、何について話してたのかしら?」


「…わかりません」


他のスタッフに訊いてもさっぱりだった。唯…メモをとっていた紙には書き殴ってあった「ワームホール」という単語だけが存在を主張していたのだが…書いた本人にも何のことだか全くわからないということしかわからなかった…


※ワーム型の蟲が掘った穴。現代では宇宙に開けられた次元を跨ぐ穴を示すことも多いが、SF小説やアニメなどで描かれてるだけで本当にあるかどうかは解明されていない



「っとぉ…びっくりした」


「えっと…さっきまでシディの上に居たわよね?」


「現在位置「バザー」の直上…って、一瞬で5kmを移動!?」


5km先に見えていたバザーの壁が、今は周囲にある。真下は人気ひとけの少ない砂漠の町「バザー」だ。おそらくは殆どの民は避難したんだろう…地上の建物はそれ程頑丈に見えないから地下倉庫とかだろうか?


「逃げ遅れた人が、まだ避難してる途中のようね…」


「じゃあ、壁の中には奴らを招き入れる訳には…」


「いかないよな?」


BGをゆっくりと正面の門に向けて移動させる…勿論、空中をゆっくりと微速前進でだ。無音で動いているから現実味が無いとは思うが…真下に影を落として少ないながら気付かれたようだ…けど15mもの巨体の為に畏怖してるのか、声に出してはいないようだ。


「…いました。今は地竜との戦闘に入ったようです」


「あ…ヤオNo.080ちゃんが!?」


「急げ。あの竜を跳ね返すぞ!」


〈イエス、サー!〉


再びBGは一瞬にして消え去り、そして今まさに絶体絶命である砲撃隊の前に…壁の如く立ち塞がった状態で立つ。そして…


「マスター!私が!!」


「頼む」


制御権がレムに移り、ザックは防御の制御をレムに移譲する。BGは大きな盾を両腕に持つ姿と成り…襲い来る地竜たちをその盾で受け止め…弾く!!


が・・・ごぉぉぉんんっっ!!


〈〈〈GiEEEEEEE!?〉〉〉


吹き飛ぶ地竜たち。その数5頭…先頭の2頭に巻き込まれる形で直ぐ後ろに迫っていた3頭は巻き込まれて転がって吹き飛んで行った!


「お~…巻き込まれて憤死する小型中型の魔物も一杯居るね!」


シャーリーのいう通り、地竜が吹き飛び、転がった余波で後方に待機していた魔物たちが割を食らっていたw…手を抜いているからそうなるんだろうと思ったが、よく考えれば魔物たちを操作していた人間の指示に従っただけだろう…何しろ、予想外の戦力が横入りした訳だし…先に潰そうと考えるのは戦略的におかしい訳ではない。


「ここから薙ぎ払っても…あっちの軍の上官?…に影響は?」


「んと…2kmくらい先に人間の反応があるみたい」


「じゃあ2km以内なら問題は無さそうだな…」


一応、1.5kmくらいに射程を設定する。何を?…勿論、長射程武装の有効射程距離をだ。


「じゃあBG…薙ぎ払え!」


〈イエス、サー…〉


一応、外に居る味方に警告を発するBG。


〈付近の味方に告ぐ…私は識別名称「ブラック・ガーディアン」…通称「BG」だ。マスターの部下である同志に告ぐ…これから長射程武装を発射する…余波で怪我をする可能性がある。速やかに壁の向こう側に下がるか、障壁を展開して耐えるように…繰り返す………〉


まだまだ言葉使いが固いが、軍隊ならば合格点かも知れない。そして、障壁がまともに働く個体を除いてバザーの外壁の向こう側に退避した今、壁から魔物たちを殲滅しながら距離を取ったBGは…


〈殲滅黒糸…発射〉


と、静かに宣言し…頭を左に向ける。そこは左の魔物たちが存在する端だ…それから細い、細い糸のような黒い線を発した。額にある黒い点から…そして、


ズバン!


と、左から右へと薙ぎ払うかのように首を巡らす。停まった位置は右の魔物が存在する端だ。そして殲滅黒糸の放出を止めた。


ぱたぱたぱたぱた・・・


左から右へ。まるでドミノ倒しのように魔物たちが倒れて逝く…小型も中型も大型も等しく…


「え?…普通、同じ高さで攻撃が当たったら、大型って足に当たるよな?」


だが、皆等しく急所を狙って撃ち抜かれているようで…右端までの魔物が倒れ伏すまでそれなりの時間は掛ったが、いちいち戦って倒すよりは圧倒的に短時間だろう。


「「「え…と」」」


何といったらいいか困ったが、取り敢えず人間の死体は無さそうだし、倒れているのは魔物だけなので、


「よ、よくやったBG…僕の誇りだよ!」


と、取り敢えず褒めたのだった。



- 神聖ドラゴニア帝国軍サイド -


「まさかあんな奥の手を隠しておったとはな…」


「道理で抵抗するわけです。恐らく、敵国と繋がっているのでしょう…膿をひり出すなら今ですぞ!」


「うむ!…出し惜しみしてる場合ではないな…地竜を前に!」


「ははぁ~っ!!」


軍を預かる上官は部下に煽られて決断をする。それがどういう結果を導くかも知らずに…


〈〈〈GuAooooo!!!〉〉〉


地竜が10頭、地響きを立てながら駆けだす。今まではのんびりと進軍していたのだが、ドラゴンテイマーの指示を受けた今、手抜きをするつもりはない。受けた命令は…


「進軍し、壁を崩し、町と人間を蹂躙せよ」


だ。普段押さえつけられている欝憤うっぷんを晴らそうと、竜たちは我こそはと全速力で巨体を進ませる…



壁が見えてくる。


さあ、この巨体で圧し潰し、尻尾で吹き飛ばしてくれる!


そう思い描いていたのだが…邪魔者が現れる。そういえば雑兵たちが次々と潰されていると聞く…


そうか。こいつらが邪魔をするか…抵抗もしない虫を潰すだけの仕事も面白くない…


そう考えた竜たちは必死になって戦っている少しだけ強い虫に対し、味方とも思ってないゴブリンやコボルド、オークやオーガをも巻き込んで尻尾の攻撃を加える…そして


〈GuEEEEEE!?〉


一斉に加えられる反撃の法撃に地竜たちは今まで上げたこともない悲鳴を上げる。中には怒りの怒号を上げた個体も居るかも知れないが…


信じられない!…我らの鱗を砕く攻撃などっ!?


地竜の防御の要の鱗が法撃に依って砕かれ、中の肉まで貫通している。


地竜たちの鱗は固い。上等な防具の素材に使われているのも頷けるだろう…だが、物理的な攻撃で歯が立つことは稀だ。余程の腕前をもつ剣士か…単分子カッターともいえる鋭い刀で切り裂ける侍か…否、この国には侍は存在しない。もっと東方の島国にしか存在しないだろう…


或いは、強力な魔法攻撃であれば…


まさか…あの豆鉄砲は…魔砲なのかっ!?


地竜たちは気付く。強力な魔砲ならば、鱗を貫く攻撃のも頷ける…だが、あれはかなりの魔力を消耗する為、そう繰り返して撃てるものでもない。


〈GuRaaaaaa!!!〉


間断なく攻めろ!


魔力を浪費させろ!!


そう仲間に吠え、休ませることなく攻め立てる地竜たち。


味方である大型以下の魔物も関係無く暴れる地竜に応戦する砲撃隊…だが、急に攻撃激化し、休む間も与えられずじり貧となる砲撃隊。そして…


「きゃあああっ!?」


ついに被弾して吹き飛ばされる砲撃隊のゴーレム娘。


サシャNo.034!?」


小隊長のロゼNo.060が叫ぶ。吹き飛んでゴロゴロと転がっているサシャを拾い上げ、後方へと砂上を滑るロゼを庇うようにヤオがカバーに入るが…サシャを吹き飛ばした地竜が1頭追加し…2頭が迫っている。


(あ…終わったかも…)


迫りくる、見上げんばかりの巨体に体が震える。命無きこの身だが…怖いと普通に思えるんだなぁ~…なんて考えているヤオ。生れ落ちてそう長い期間が経った訳でもなく、走馬灯が流れる程に思い出も記憶も無いゴーレム娘は、最期にこう思った。


(…もっとマスターと触れ合いたかったなぁ…。レムさんたちが羨まし…)


そして、目の前に現れる黒い立派な2本の脚がそそり立っていた…


「…え?」


そして、


が・・・ごぉぉぉんんっっ!!


〈〈〈GiEEEEEEE!?〉〉〉


あっさりとその逞しい2本の腕に掲げられた2つの巨大な盾で、あっさりと受け止められた地竜たちは…次の瞬間には吹き飛ばされて転がっていき…後方のおかわりの地竜すら吹っ飛ばしていた…


「…えぇ~っ!?」


余りにもあっさり窮地を脱した今…あの想いは墓場まで絶対に胸の内に秘して逝こう…恥ずか死過ぎるっ!!


そして…僅かな間を空けて発せられた言葉に、ヤオは顔を引き攣らせる…それは。


〈付近の味方に告ぐ…私は識別名称「ブラック・ガーディアン」…通称「BG」だ。マスターの部下である同志に告ぐ…これから長射程武装を発射する…余波で怪我をする可能性がある。速やかに壁の向こう側に下がるか、障壁を展開して耐えるように…繰り返す………〉


矢張りマスターの創った、新たな兵器なのだろう。だが、聞こえた内容に聞き間違えがなければ…広範囲攻撃を開始すると。どの程度の影響があるか…この場に居るだけで問題が無いか…頭の中がグチャグチャになってきてどうしようということしか考えられなくなった時。


「ヤオ!…急いで!!」


ガシィ!…と、へたり込んでいた私の両腕をがっしりと掴む2人の両腕が視界に入った瞬間…


しゅぱあああああっっっ!!


っと、バックダッシュをかますミクNo.039とロゼ。それを追うサシャ。


「急げ!」


壁の上では他の砲撃隊のゴーレム娘たちが待ち構えていた。


「行くぞ!」


「はい!」


助走で加速したミクとロゼ。サシャもヤオの体を掴み…


「「「べっ!!」」」


3人が


ぐ…


と体を沈み込ませ、跳ねる!


「うわぁっ!?」


4人の体は壁の頂上まで浮き上がり…そして


がしぃっ!!


と、延ばされた手と手が4人の体や艤装を掴み…引き寄せて抱き寄せる!!


「「「ヤオ隊長ぉ~!!」」」


部下の小隊員が一斉に抱き着くが、ここに居ては危ないかも知れないと場所を移動しろとロゼが忠告する。


「は、はい!」


外壁の上はかなり分厚く…数mも下がれば輻射熱も避けられるかもと内側まで下がるゴーレム娘たち。


ぱしゅぅ~んっ………


その時、そんな気が抜けた音が聞こえ…静かになった。


「…どうなったの?」


「見てみよっか?」


ミクとミナNo.037がそろそろと壁の上を立って歩くと…


「あ…」


「うそ…」


と呟いている。一体何が…と思い、残る全員も見にいく。腰が抜けた私は…しまらないが肩を貸して貰って移動する(ロゼにね)


「…全部、倒れている?」


遠目にもわかる。命を感じさせない空気を感じる…


「死んでいる…」


「みたいだね…」


まさに、死屍累々とはこのことだ。


広大な砂漠の上に、魔物の死体の絨毯が広がっていた…もし、冒険者ギルドにこの死体全てを届ければ冒険者ギルドそのものが支払う報酬やら素材代金だけで潰せる程の量といえるだろう…それは兎も角。


「これで…この国と敵対することになっちゃったねぇ…」


「どうするんでしょう?…マスター」


「さあ…」


━━━━━━━━━━━━━━━

かなりの大群ではあるが、軍部の所有しているほんの一部。これからも押し寄せる可能性が…


備考:アホな頭を潰せば解決?(怖いわボケ!)

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