134 その19 ~遠い地からの侵略 その7~

大型水棲魔物の急襲に依り、無人だった砂浜は黄色い声を上げる阿鼻叫喚の渦に叩き込まれた。悲鳴を上げるのはザックの従者ゴーレムと僅かな生ある者だけであり、犠牲になったのはゴーレム娘だけだったのだ…

だが、マロンとモンブランはサヨリとジェリコ皇女を護りつつ生き延びており、イワンは仮死状態(一時機能停止機能を用いたらしい)で難を逃れていた。

ザックを含めた総勢9名は転移魔方陣で急ぎ脱出し、辛くもこの窮地を脱したのだった…

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- ホッと一息も束の間…? -


「はぁ…疲れた」


ザックは探知魔法で周囲を警戒していたが、取り敢えず敵性生物が居ないことを確認すると、ホッと安堵の息を吐く。一応、敵意のある人間も対象に含めていたが、その反応も無いことは確認済みだ。


(ん~…それでもサヨリとジェリコ皇女が居るしな…この人数じゃ何かあった時…不安だ)


ジェリコ皇女はダークエルフの皇女だ。それなりに魔法を扱えるとはいえ…実際に戦闘に使えるかというと甚だ疑問だ。本人も矢面に立ったことはないといってたし、基本後方で護られる立場だろう。


サヨリは250体のゴーレム娘の疑似魂から蘇生した…何故か生身の人間に近い、種別としてはフレッシュゴーレムになるのだろうか?…唯、魂そのものは人間に限りなく近い。何処か懐かしい存在の匂いを感じるが…基本、ちょっとだけ体が頑丈な人間として扱った方がいいだろう。


マロンは…モンブランと一緒に周囲を警戒してくれている。傍から見てると、長年連れ添った夫婦(但し、モンブランが尻に敷かれている奴w)に見えなくもない…まぁ、見た目は若いんだけど(教えてくれなかったけど20代前半くらい?)


モンブランはマロンの容姿に沿った似たような見た目で創ってある…まぁ、マロンに近い実力を持たせたゴーレム青年…つまり、僕の創ったゴーレムにして唯一の性別男性型って訳だw(女性型は何故か大人しい者からはっちゃけた者まで結構幅があるんだけど(わざわざそうなるように設定したつもりはない)モンブランに関しては…マロンに頭が上がらない…というと弱々しい性格に見えるけど、普通に好青年な性格をしてると思う。最初でこそ、よくわかんなかったんだけどね…


(環境が性格を形作るって奴かなぁ?)


まぁ、それはいいとして…


「すぐ此処を移動しよう。結構離れたし水棲生物だからすぐには追って来ないだろうけど…」


と、ゴーレム馬車を取り出す。勿論、例の8人乗り奴だ。


「…わかった。俺が御者をやろう」


「なら、横で前と左右を監視する」


モンブランとマロンが御者台を占拠してイチャコラと…否、御者と監視員を名乗り出てくれるという。ザックは頷いてから


「頼んだ」


というと、


「ならば、私が馬車の天井に上がって後方を監視しよう」


イワンNo.011が名乗り出る。小隊長だからなのか、張り合ってるのかは知らないが…それも助かるのでそちらにも頷く。


「では、善は急げです。皆さん乗って下さい」


統括体ナルがふわりと微笑みながら馬車のドアを開いて乗車を促す。一応、この中で一番身分が上…という訳で僕が乗れと視線で促されるんだけど…


「レディー・ファーストってことで」


と、皇女であるジェリコを先に、次いでサヨリの手を引っ張って乗せる。


(まぁ、レディー・ファーストというより弱者・ファーストなんだけどね…)


ちなみにこの中で魔法や魔術を使わなければ最強はマロン、次いでモンブランとレム。かなり落ちてイワン、名前の判明してないゴーレム娘。シャーリーは魔法を使わないと飛ぶことすらできないので最下位となる。僕?…魔法を使わないと何もできない子供に何を期待してんの?(膂力ではサヨリにもジェリコにも負けるっての!…はぁ…orz)



取り敢えず全員が乗った後(ザックは結局最後に乗り込み、狭苦しい馬車の中で流動的に座席が変わって落ち着かないっていう…)、行き先はモンブランの探知任せで安全そうな場所を探りながら進んで貰った。それでも未知の大陸な訳で…ミラシア大陸と環境が違うのか生息している生態系も違う為か…


『あ~…すまん大将』


「どした?…モンブラン」


『厄介そうなのに補足された』


「あ~…こっちにも聞こえてるよ」


現在、絶賛…巨大な生き物らしい足音に追いかけられてる。


どっがぁんっ!…どっがぁんっ!…どっがぁんっ!


地響きを伴う足音と振動音が重なって、この馬車も大揺れに揺れている。まだ後方確認の小窓を見ても木々で隠れていてその姿を視認できないんだけど…


え?…何故木々が林立している林?だか森?で馬車が駆けていられるかって?…それはね…


(木、ひとつひとつが巨大過ぎるし、普通のスケールで見た場合は…この辺って疎らな林地帯なんだろうな…)


木の大きさが…見上げるとその先が見えないし、枝が横に伸びてる部分が此処から100m以上先だし、間隔が4~500m以上。そして…木の幹の長さも半端ない。単純に今通り過ぎた木なんだけど…どう見ても200mはあるよね?周囲の長さにすると、えーっと…200m×円周率≒200m×3.1415926として、大体628mちょっとだ(面倒だから小数点以下切り捨てで)


要は、あの木1本1本が人間の大人300人ちょっとが手を繋いでようやく端と端の人が手を繋げるってことで…どれくらい大きいかわかるでしょ?


まぁ、そんな余裕があり過ぎる木と木の間を疾走してるんだけど…追いかけてる巨大生物もそれなりにでかいので…木にぶつかりながら追いかけて…あ、見えた。


「きょう…りゅう?」


見え隠れする大きい生物はパッと見、ドラゴンみたいな2足歩行の2本の腕を持ち、翼が無い陸上生物に見える。翼をもたない色が黒ずんだレッドドラゴンといえば似てるだろうか?…勿論、あの立派な鱗を持って無いので防御力は思ったより低そうだけど…そして脳裏を過った名前は


恐竜きょうりゅう


という言葉だった。人が恐れる竜みたいな生物だから名付けられたのかな?


〈アンギャ~~~!!!〉


どうもこちらの方がネイティブっぽい発音をしてるように聞こえる。土着生物って奴?…最初に遭遇したのは何処か別の場所から召喚でもして無理やり居着かせたかのような感じがしたんだよね…


「…って、今はそんな検証してる場合じゃないか」


ふと、後ろを見ればチラホラと木の影から姿を見えるような距離に迫っている。こちらは木々を避けながら緩い蛇行での回避で済んでいるが、矢張り地面は舗装された路面ではないのでそれ程速度を稼げている訳ではない。時折小石を踏んでは跳ねてるし…


「はぁ…疲れてるからあんま魔力消費したくないんだけどなぁ…」


まず、ウォーター水生成で大量に広範囲に水浸しにし直後に温めるウォームを反転操作して水を凍結する。温めるウォームは分子運動で空気を温める生活魔法なんだけど、その逆…分子運動を操作して冷やすことができる…つまり。


びきびきびき…


〈ギャウッ!?〉


つるっ………ずでぇぇぇんんんっっっ!!!


(良し、今だっ!)


「追加で…ウォーター水生成!!」


いつもより多めに魔力を投入して…凍結した地面に滑った恐竜?に水をおっ被せる。


温めるウォーム、改め…冷やすコールド!…あ~んど、そよ風ウィンド!!」


びゅおおおお~~~!!!


冷えた風が何処からか吹き始め、


びき…びき…ビキビキビキ…


と、恐竜の体表が凍り始める。


「こ…こんな!?」


ジェリコ皇女が驚いて見ていると、


「ふむ、あるじならこれくらい造作もない」


と、まるで我がことのように踏ん反り返るマロン。ちなみに馬車は一定の距離を保って停車している。


「…体温の低下を確認。氷が解除されないならこのまま永眠かな?」


モンブランが肩越しに後ろを見ていてそう呟く。


「じゃあ…」


追い打ちとして「ウォーター水生成」と「冷やすコールド」と「そよ風ウィンド」を順番に唱え、更に氷漬けになる恐竜。


「…マスターストップ。そいつ、もう命の灯が消えてる」


モンブランの声に、窓から上半身を乗り出して生活魔法をぶっぱしていたザックは


「あ、そう?」


と、魔法の行使を中断する。


「確認してくるね?」


シャーリーはザックが退いた窓から飛び出し、恐竜の傍に飛んで行って暫く上をくるくる回っていた。


『だいじょーぶ。このドラゴン、もう死んでるよ!』


いやドラゴンじゃないんだが…と思ったがまぁいいかとスルー。全長約5~6mの恐竜らしき爬虫類は、凍り付いてると地面とくっついているので下面だけ溶かして切り離した後…ストレージに仕舞ってゲットされるのであった!


━━━━━━━━━━━━━━━

巨大化したラプトルみたいな巨大爬虫類です。特にブレス吐いたりなどの特殊能力は無く、ガタイがでかいだけの爬虫類で獲物を見つけると追いかけて捕食します。魔力は無くもないですが巨大な体を維持する為に肉体と骨格の強化だけみたいです。


備考:冷凍保存されたお肉と骨は、後でスタッフたちで美味しく頂きました(どこぞの番組風後付け解説w)

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