97 その13 ~魔族侵攻再び その6~

冷凍攻撃が失敗に終わり、退却して来たミナ、イオナ、ミクの3人娘たち。そして新たな力を得て再出動する3人娘たち…だが、予想外のトラブルが…渡した武器の素材が低品質の鋼鉄だったせいで高温を武器にする溶岩の巨人の放つ熱で微妙だが歪んでしまったのだ。弾を撃つも、多少だがばら撒いてしまい高熱で溶解した弾丸はその本来の機能を発揮できずに溶け崩れてしまう…そして特攻を決意するミク。止めるミナにイオナ。要は、「遠くから撃つから弾がばらけてしまうなら、接近して撃てばいい」と判断したのだ。自らの危険を顧みず…

ザックはレムに命令する。

「あの3人を無事帰還させろ」…と。

そしてレムは命令を受けて頷く。

「畏まりました」…と。

━━━━━━━━━━━━━━━


- レム、出陣 -


新たな力…とはいえ、設計そのものは前作と大して変わらない。素材が熱にも圧力にも斬撃にも強い素材…アダマンタイトだ。木製部分は耐熱耐圧保護も掛けてある。錬金術で成形した為、一切通常の金属加工はしておらず、創造した後はストレージ内で組み立てしたのみである。一応、1発だけストレージ内で試射はしてあるがそれで十分だろう。


レムは第2世代ライフルと予備弾数10発入りの小袋を受け取り、肩に銃を抱え、小袋を腰のベルトに装着して出陣した。ライフルは後込め式の中折れ式であり、同時に装填できるのは2発。ショットシェルの種別は「スラッグ弾」と呼ばれる物で、普通のライフル弾より遥かに大きい…先に渡した物は同じライフルでも口径5.56mmと小さい物で、中~長距離を狙って撃てる物だ。今回のライフルはショットガンと呼ばれる種類だと得られた知識からわかるが…


(何故か射程距離は長いんだよな…)


知識から得られた情報に依ると、有効射程距離は50mも無いらしいが…実際に出来上がったこれ・・は…最大1000mに及ぶ。何故か?…それは。


「風魔法」


これに尽きる。実際の銃身から射出された先にも、真空の…弾丸の通り道を形成し、弾丸の空気抵抗をほぼゼロにして…しかも真空の通り道を作ることにより最初に設定した射線通りに弾丸を導き…目標までブレ無く命中させる。その上…発射には火薬ではなく圧縮した空気を爆発膨張させて圧し出し、ついでに質量を0にして想定以上の加速力を発揮させて…目標に着弾する寸前に質量を0から100倍くらいまで増加させるという…目標に着弾だけでなく、寧ろあの「溶岩の巨人」を弾丸だけでぶち倒すのが目標といってもいいかも知れない…


そんなの無理だろ?


そう…相手の大きさや質量を考えても、その彼我の質量差を考えれば無理だと考える方が自然だろう。最初のライフル弾よりは重い弾丸ではあるが、せいぜい弾頭は4倍より少し重いくらいだ。


そして…ザックは壁の映像を見る。そこにはレムからの視点映像が映っており、今まさに駆けて行こうとしていたミクと止めようと必死に縋っているミナとイオナの姿が映っていた。



- レムに怒られる3人娘 -


「イーカーセーテーっ!!」


「「ダメぇ~っ!!!」」


そんなやり取りの中、飽きれた様子のレムが到着する。後ろでシャーリーが小隊の隊員たちの残骸を集めて文字通り飛び回っているが…(苦笑)


「はぁ…マスターが心配される訳です…」


溜息を吐きつつ、コントでもやってるかのような3人娘の背後を取り…


「あなたたち…何をしてるんですか?」


と、地獄の底から聞こえるような声を響かせる。


「「「ぴっ!?」」」


1オクターブ高い声で叫び、そして油の切れた人形のように、


ぎぎ・ぎ・・・


と後ろを振り返る。


「「「な…レむさマっ!?」」」


音声出力機構…要は人間でいう喉だが…の調子が悪いのか、所々高音混じりで…要は声がバグっていたw


「下がりなさい。思考コアが機能低下を起こしているようです。このままでは全滅必至ですよ?」


人間でいえば恐慌を起こして正確な判断を下せないといっているようだ。レムは動かない3人を暫く見ていたが、やがてはぁと溜息を吐き…仕方なく上位命令を伝える。


「マスターの命を伝えます…「至急、撤収しなさい」…以上」


ぴしっと停止していた3人娘はガタガタと体を震わせ、そして…


「「「サー、イエッサー!」」」


と返し、シャーリーが持っているアイテムボックスを受け取ると、どたばたと帰還するのだった…


「あ…支給された武器を忘れてってるし…」


「あ~…しょうがないわね」


と、シャーリーが持つには大き過ぎるライフルを持ち上げるとアイテムボックスに収納する。


「後でお仕置きね…」


ニヤソ、と口角を上げるレムに、


「あーあ…可哀そうにw」


と、にししと笑うシャーリー。取り敢えずレムをフォローすべく、上空へと翔け上がると周辺マップデータを伝え始める。



- レム、マグマ・ゴーレムと相対する -


『デカブツは変わらず前進中だよ…』


『…了解』


次の瞬間、立っていた場所が爆発したかのようになってクレーターを作り…レムは風となっていた。まっすぐ進むのではなく、右に左にとジグザグに移動して様子を見る(攻撃を受けたのではなく、踏み込んだ蹴り脚の異常な膂力で地面が爆発したように見えるだけ)


(…攻撃して来ないわね?)


残り…約400m。尚も加速するレム。ジャンプすると対空時間を用いて狙いを付けやすいが…それは相手も同じように狙いが付け易くなるということだ。安易に選択するべきではないだろう…


(ん?)


サイクロプスめいた一つ目が僅かに明るくなっている。これは…


(攻撃の合図か…今!)


どっ!


発射音。次の瞬間にはレムはその場には居なかった。シャーリーの空からの目で見ていればわかるのだが…溶岩の巨人の目から溶岩弾が発射された瞬間にレムが低い弾道でジャンプし、地面に着弾する頃には溶岩弾の影響圏外へと移動済みだったのだ。


(ふむ…暫くはこれで回避できそうね…)


レムはチラと後方を確認してから呟く。そして回避行動を取りつつ赤いデカブツへと駆ける…


(マスター…新たな力、感謝します…)


そっと胸に手を添えて感謝するレム。その胸には例のネックレスがあった。防御能力を大幅に増強すると共に、精神系の攻撃を反射するネックレスだが…レムの物には更に追加機能がある。それは…


◎移動速度上昇

◎感応速度上昇

◎反応速度上昇


の3つが追加されている。限定条件下であれば、上記3つの追加機能を発揮するというものだ。限定条件というのは、


◎地面、或いは土精霊の影響下にある場所に居ること


勿論、地面から少しでも離れる…例えばジャンプするなどして離れた途端に効果が失われてしまうと使い辛い為、10秒以内…若しくはそれまで地に足を付けていた時間以内なら地面から離れていても効果を維持する…とした(最大10秒というのは変化無し)


尚、「移動速度上昇」読んで字の如く…地上移動速度を上昇。最大時速150km/hまで加速しながら走れる…ということだ。初速でも当人の最大速度の2倍となる。レムは人間と然して変わらない速度でしか走れなかった為、かなりの移動速度アップを期待できるだろう…人間から見れば、だが。


「感応速度上昇」は例えば的が攻撃をしてから如何に早く感じ取るか。感知する速度が上昇する…といった種類の能力だ。受けてしまうと致死に至る種類の攻撃を如何に素早く察知できるかで生死を分けることがある為、その能力は高いに越したことは無いだろう。


「反応速度上昇」は文字通り、何かに反応する速度を上昇する能力だ。この3つの能力を効率良く運用できれば…攻撃を察知し、体の反応を上げた状態で素早く攻撃を回避する…どれ1つとして欠ければ回避行動は成功しないだろう…



(…とはいっても。空気抵抗が強いとどうにもね)


時速30km/hを超えると空気抵抗が大きくなり、途端に自転車などの空気抵抗を考えて作られてない乗り物は速度を上げ難くなるということは誰しも体験したことがあるだろう。走っている自動車の窓から手を出すと後ろに持っていかれそうになる…それが空気抵抗で感じられる空気だ。速い速度で移動すると初めて空気という物は思ったよりも重い物だと実感できるということに気付くものだ。


びゅんびゅん…


振る手が、腕が空気抵抗で重く感じられる。ゴーレムの体躯の為、人間と違って最初に空気抵抗で痛むまなこに痛みは感じられないが…これが航空機が出す速度に達するとそろそろゴーグルを着用しないと繊細な感覚器官である眼球に損傷を出しかねないだろう。尤も、まだ時速150km/hにも達してないので問題無いだろうが…


「しっ…」


何度目かの溶岩弾を感知して回避するが、回避先にも飛来する赤い砲弾がある。


(…ちっ!…学習したのか?)


タイミング的に着地と同時に着弾しそうだが…レムには通用しない。


「土壁!」


ずももも…と小さめだが頑丈そうな土壁が伸びる。そしてそれに足を添えて…跳躍する。


どぱあっ!


土壁より手前で着弾して爆発する溶岩弾。既にレムは土壁を足台にして早めの回避をして溶岩の巨人へと接近している…その彼我の距離は残り200mを割っていた。背中に背負っているライフル…否、ショットガンの必中距離内だ。そして先程溶岩弾を射出したばかりですぐに撃つにはクールタイム中で無理だろう。仮に撃てたとしてもこちらを撃破できる程のエネルギー量は期待できない…


「土壁生成…」


唯の土壁ではなく、人が1~2人が籠れる程度の大きさの箱状の部屋が形成される。正面にはショットガンの銃身が通る横一文字の溝が空いている。通常なら人間が外を見えるようにもっと大きい穴が必要だが、銃身が出ていればそこからの情報で狙いが付けられる性質上…最低限の穴しか開いてなくても問題は無い。


「照準…セット。距離、風向き、問題無し…」


銃身にショットシェルがセットされている確認をしてから…トリガーを引くレム。


「ファイヤッ!」


どんっ!


ショットガンの銃身内部を真空で形成されるレールを成す。スラッグ弾の質量がほぼゼロとなると同時に魔石が生成する圧縮空気を爆発させて弾かれたように銃身へと躍り出る。真空のレールをライフリングされたかのように回転をし始めるスラッグ弾。通常のショットガンにはライフリングされてないのであり得ないのだが…そして銃身から射出されたスラッグ弾は外にも形成されている真空のレールを通じてどんどん加速して行く…


「ぐっ…」


発射した閃光に目を顰めるレム。次からはこれ・・を使うことがあればサングラスが必要だなと思いつつ…そんなことを考えてる間にスラッグ弾は溶岩の巨人の腹…丁度コアがあるだろう位置へと到着しようとしていた。人間でいえば鳩尾の辺りだろうか?…そしてスラッグ弾の質量が戻り…否、元の100倍の重さになった頃…着弾した。明らかに有り得ない光量と共に…


ぐああっ・・・!


ぱあああっ・・・!!


「え…」


思わず目を瞑って、それでも足りないと両腕を使って目を保護するレム。上空では余りにも眩しくてシャーリーが絶叫を上げていた…!


『ちょおっ!?…目が!目がぁ~~~!!!』


某大佐みたいな台詞を吐いて目を覆ってるだろうシャーリー。流石に墜落は免れたようだが暫くは視力は戻らないかも知れない…合掌。



ひゅるる…ぽて。


レムの創った土壁の小屋の天井に緩く軟着陸するシャーリー。まだ視力が戻らないらしく、


『ねー…レムぅー…目ぇ貸して?』


と念話を飛ばして来た。


「こっちもまだ完全じゃないけど…」


と、視覚を共有する。ややノイズが乗っている視界にシャーリーは文句もいえず…だが。


『外に出ても大丈夫そうだね?』


「そうだね…土壁解除」


ばらばらと崩れ落ちる土壁に足元が崩れて落ちるシャーリー。


「うぉい!…危ないジャマイカ!!」


「あ、悪い」


レムの頭上にダイブするシャーリー。気にせず頭頂部で受けるレム。そして…


「ふわぁ~…マスターの創る武器って怖いねぇ~…」


「まぁ…な。だが、これは人間には扱えないから…大丈夫だろう」


自らの右肩を見ながら話すレム。その右肩は…ストックを支えていたのだが、余りにも大きい衝撃で…肩にめり込んで右腕の付け根がもげかけていた…痛みを感じてしまう躯体でなくて良かったと安堵する一方、もう少し強化して貰えないかなと考えているレム。


「うわぁ…で、本命の弾の効果は?」


「ん~…」


溶岩の巨人…マグマ・ゴーレムは腹から爆発四散したかのような状況になっていたが、復活する様子が無いことから機能しているのだろう。あの手のゴーレムの場合、コアが残っていれば復活する可能性が高いのだが…


「コアに何かめり込んでいる。あれが発射した弾丸だと思う」


「ほほー…」


だが、映像からは解析も鑑定もできないのではっきりしたことはいえないシャーリー。現状ではシャーリーの目が死んでるも同然なので何ともいえないのだ…


「うーん…一旦戻って修復して貰ってからかな?」


「…了解」


シャーリーの意見に否は無く、少しだけフラ付きながらレムは荒れたマウンテリバーへと帰投を開始するのであった…


━━━━━━━━━━━━━━━

ザック  「レム!シャーリー!大丈夫かっ!?」

レムたちの状態を見て慌てるザック。

レム   「もーまんたい」

シャーリー「まぁ~、あたしが失明。レムが右肩中破程度?」

大慌てで診察の後、単純に耐久値再生デュラビリティ・リペアーを掛けないで修復を開始するザック

3人娘たち(何なの?…この態度の差は…)←単純に耐久値再生デュラビリティ・リペアーを掛けられたらしいw

ナル   (若いわね…これが古参と新米の差よ!)

※単に一緒にいる時間(愛着度)の差だと思う


備考:マグマ・ゴーレムは別動隊に回収させて、慎重に封印処置を施された模様。一応襲って来た魔族側の兵器…ということで、責任者(領主)に譲渡?される予定

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