43 その4 ~予兆…? その4~

以前、ゴーレム馬を無理やりにでも買い取ろうとしていた某子爵が、今回はナル部下のゴーレム娘に隷属魔法を掛けてお持ち帰りしようとしていた!

そんな犯罪者に堕ちた某子爵なおっさんのナル部下との出会いから前話の最後の顛末までを覗き見してみよう…え?おっさんの話なんて詰まんない?…まぁまぁ…(強引w)

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- 話の始まりは気分転換からだった… -


「はぁ…全く以て煩わしい…」


これが子爵のやる仕事といえるのか…そう思った我は気分転換にと、また彼のゴーレムと出会えるかと思いマウンテリバーへと足を延ばしていた。何、不足した物資を運ぶという下賤な仕事のついでで寄るのだ…誰にも文句はいわせん。


「うむ…これで全部だ」


下人も何も付けず、護衛の冒険者数人のみを付けての旅だったが、値段相応の働きを示すのだから文句はいえん。唯…全員男なので潤いという物が皆無な為、そこだけは不満であったが…


「じゃ、旦那。戻りは明日だったな?」


「あぁ。流石に復興中の此処で仕入れるモノも無いしな。今日はご苦労だった」


と、各々別の宿へ戻る。御者は自分の宿のうまやへと馬車を移動させて馬車と馬の世話をして貰う…といってもどちらもゴーレムの為、予め仕込んである命令を忠実に実行するだけだが。


「さて…我も宿に泊まって休むだけだが…復興中のマウンテリバーを見て回っても詰まらぬしなぁ…って、おお?」


おっさん子爵の視線の先には…見目麗しい少女が歩いていた。だが、普通の人間には見えない…それもその筈だ…彼女はゴーレムだからだ。ぱっと見には普通の人間に見えるが…おっさん子爵にははっきりわかった…(あれは…ゴーレムだ!)…と。


「ふっ…偶には外に出てみるのもいいのう…」


まだ散歩に行くかどうか考えようとしてた所で偶然発見しただけなのだが、そんなことは知らんと歩き出すおっさん子爵。そして声を掛ける…


「そこな平民!…こっちを見よ!!」


「ふぇっ!?…ど…どなたですか?」


いきなり声を掛けられて振り向くナル部下。仮にレラと呼ぼう(ちなみに個体識別名は番号で呼ばれるか番号をモジった名前だが味気無いので)


「うむ…つい、見目麗しい姿に感動してな…近う寄れ、赦す!」


普通の町娘なら、それだけで爵位を持つ自分に感動して近寄ってくるものだが…今は部下も連れていない上に王都ではない。一目見るだけでわかるとは思ってはいないから短気は損気だ。近寄って来るまでは我慢の子だ。


「え…と、知らない人に付いてっちゃダメっていわれてますので…」


じりじりと離れる方向へと摺り足で動き出すレラ。ひとまず距離を置き、一定距離を離れたらダッシュで逃げ出す算段だろう。それに野生?の勘で気付いたおっさん子爵。レラが走り出す前に見事な前ダッシュで飛びついて腕を掴み、空いた腕で顎を掴んで顔をこちらに向け…


〈隷属魔法〉


を無詠唱で発動させる。主に視線を合わせないと発動しない最低レベルの魔法だったので顔を寄せるまで接近しないと有効ではない。そして完全に隷属するまで時間が掛かるのが欠点だった…


「いやっ!」


うっかり硬直したレラは何かが体に侵入してくる気配を覚えて強引に腕と顎を掴んだ手を振り解く。そして脱兎の如く逃走を開始したのだった…


「ちっ…まぁいい。完全支配まで時間が掛かるだけだからな…」


おっさん子爵はゆるりと…逃げて行った道順を辿り、歩き出す。


「何、一本道だからな…逃げられんぞ?…くっくっくっ…」


その目には狂気が血走っていたが…周囲のマウンテリバーの民たちは見て見ぬ振りをしていた訳ではない。



「あのおっさん、死んだな…」


「あぁ…誰に手を出したのか…知らないんだろうな」


「とばっちり食いたくなきゃついてくんじゃねーぞ?」



と、散々な評価だがw…だが、それだけにおっさん子爵の未来はほぼ確定されたという訳だ…



- レラの逃走先…それは -


「はぁっはぁっはぁっ…」


彼女はゴーレムだ。だから息はしてないし走ったからといって息切れすることもない。だが、人間との共存をするゴーレムとして必要な反射行動だ。見た目だけなら見目麗しい少女なのだから…平然としていれば違和感を感じる者が多くなるだろう…だから、この「息切れしてしゃがみ込んで暫く息を整える」という行動には意味はある。但し、敵性生物などと相対したり戦っている時はその限りではないが…


「あれ、レラどした?」


レラと同系統の…要はナル部下の半数程が集まっていた。前方には統括体のナルとマスター…マスターの側近であるレムとシャーリーも居た。よく見れば南東のどん詰まりである此処は…


「マスターのお住まい…いつの間に…」


首を傾げてこちらを見る同僚の姿を他所よそに、つい知らず知らずの内にマスターの住む場所まで逃げて来たと気付くレラ。これでは余計なトラブルを持ち込んでしまったのでは?…と内心焦り出す。


「何かあった?」


同僚が心配して声を掛けてくるが、その声に反応したのはレラの更に後方からだった…



「これは…何をしてるのかね?」


いきなり腕を掴み、顎を掴んでキスをしようとした小太りのおっさんだ!(おっさん「違うわ!」)


「…誰?」


思わず問うマスター・ザック。側近のレムとナル統括体も知らないと首を振る。索敵隊長のシャーリーもくるんとひっくり返りながら


「誰?…このおっさん」


と呟いていた…(器用よね、あれ…)


「ふんっ…この俺を知らぬとはとんだモグリだな…」


(いや…多分誰も知らないんじゃないかなぁ?…だって見たことないし!)


と、踏ん反り返るおっさん。見た感じ、ローブ姿に杖を持った軽装布装備からして魔術師ぽい見た目だが…


「我のゴーレムをそそのかすとは…どんな卑怯な手を使ったの知らんが…」


(誰が誰のゴーレムよっ!…って…さっきの…魔法?…やばい、かも…体の、支配を、始めて…いるっ!?)


「ねぇ…何いってんの?この人…」


「さぁ…」


謎のおっさんの戯言たわごとにシャーリーとレムがぽそぽそと話しているが…丸聞こえだが…レラにとってはそれどころではない。段々と体と意思の自由をむしばみ始めているこの魔法とやらが…


「…」


ナルが足がたしたしとイラつくようにビートを刻んでいる。どんな効果があったのかわからないが、最後に響いた、


たんっ!…


という音と共に、レラの体と精神が開放される。まるで、解呪の呪文の如く…だ。


「あ…」


そして、ナル部下と警備ゴーレムの何体かが思い出したかのようにぽそっと声を漏らす。ちなみに、解呪されたレラも同時に呟いているが誰にもその声は届いていない。


「むぅ…仲間の元へ逃げ出すとは面倒なことを…」


おっさん子爵が10数名が集まっている場所にレラが逃げたことに、やや面食らっていたが…


「だが…そろそろ効きだした頃だろう…さぁ!」


と気を取り直して朗々と演説をしだす。


「もう一度いう。我のゴーレムをどうそそのかしたかは知らんが…返して貰うぞ?」


…と、自信満々に語るおっさん子爵。ようやく呪縛から抜け出たレラは…何で解けたかはわからないが…じりじりと仲間の元へと歩み寄り、心配して声掛けて来た同僚に身を託す。


「はぁ…誰が誰のゴーレムと?」


ザックが誰とはなしに訊いてみる。そしてナルが間髪入れずに


「はぁ…何度も申し上げた通り、わたくしたちは貴方のモノではありません!…此処におわす「ザック」様の…だん…マスターの創造物であり、わたくしたちの全てはマスターのモノなのです!」


ナルの恥ずかしい宣言と同時に全員が「うんうん」と頷いている。


「はっ…またそれか。恥ずかしがりおって…まぁいい。さ、帰るから支度を手伝いなさい!」


手近なゴーレム娘(ナル部下の1人…レラだがw)を掴んで引き摺って行こうとするおっさん。


「いやっ!…離して下さい!!」


…と叫ぶが、見た目は兎も角…一般人と同程度の力で引っ張られている為…筋力が制限されて町娘程度の抗う力しか出なく、ずるずると引っ張られ始める。


「こらぁっ!…その手を放しなさい!!」


ナルが激高してずかずかと歩み寄る。そこにマスターが静かに歩み…走り寄り、見た目に依らない力で以て魔術師の腕を掴む。


「はい、申し訳ないですが…誘拐犯として現行犯逮捕となっちゃいますが…宜しいでしょうか?」


「なっ!?…我を誰だと思っている!!」


(((知らないけど…)))


ゴーレム娘たちの心の中の声が一致した瞬間だった…w



このままでは埒があかないと判断したおっさん子爵。強引にゴーレム娘の手を引いて連れ去ろうとずかずかと歩き出す。呆気に取られていたナルたちだったが、


「ちょちょっと!…引き止めなさい、お前たち!」


ナルが慌てて叫ぶと動き出す防衛・警備ゴーレムたち。


「お待ちください。魔術師殿」


ナル部下…レラを拘束している腕とは反対側の腕を持ち声を掛ける警備ゴーレム。困惑顔で持てる力を発揮できずに引き摺られているレラが「助かった!」…と警備ゴーレムを見る。


「なんじゃ、お前には用は無いぞ?」


おっさん子爵が振り返って上から目線で警備ゴーレムに低い怒声を浴びせる。だが、人間ではない警備ゴーレムに効く筈もなく…平然とした声色で彼?彼女?…はこう続ける。


「ザック様所有のゴーレムを連れ去ることは法に違反しています。どうかその手を放して下さい」


…と。


「は?…我のゴーレムをどうこうしようが関係が無かろうが?」


おっさん子爵はさも当然のようにそうのたまった。警備ゴーレムはその拘束されているレラからとある気配が高じていることに気付く。人間でいえば怒の気配。腕を掴んでいればその腕が熱を帯びているので気付く筈だが…当のおっさんは気付くどころか…


(あ…やば…)


レラから怒気がメラメラと立ち昇っている様を目撃した警備ゴーレムが危険レベルを引き上げて早口で警告する。


「貴方の身に危害が迫っています。その手を離した方が無難だと申し上げます…」


だが、おっさんはそんなことは知ったことかと怒鳴る。


「…うるさい!…ぐちゃぐちゃ抜かすと…お前も隷属するか?おぉっ!?」


そのやり取りを最初から見聞きしていた全員はこう思っていた…


(((自ら罪をバラシてどーすんだ…)))


視界の隅に居た記録用魔導具をそっと手の中に入れてこちらに向けていたゴーレムが腰砕けになって崩れ落ちていた…笑いを堪えながらw


おっさんは警備ゴーレムに向けて隷属魔法を目から発し、その隙を狙ってナル部下がぐるん!と体を回して立ち上がり…指をチョキにして


ぶす!


っと…おっさんの目に攻撃したのだった!


「ぎゃああああっ!?」


すぽんっ!


…とすぐ引き抜いたのだが、目を抑えたおっさんの手の隙間から血がだらだらと…


「「「あ…やっちゃった…」」」


呆気に取られたゴーレム娘一同と、

冷静に犯人確保に走る防衛・警備ゴーレム一同と、


「あ~…しょ~がね~なぁ~…」


と、マスターがストレージからポーションを取り出して傍に居た警備ゴーレム手渡す。


「…マスター、これは?」


「あのおっさんに使ってあげて?…目に直接掛けた方が効きはいいと思うよ?」


「わかりました。有難う御座います!」


受け取った警備ゴーレムは仲間に話してから痛がるおっさんの目蓋を無理に開いて


ばしゃっ!


とぶっ掛けた。


「ぎゃ…痛い痛い…何をす………ぎゃああああああああああっっっ!!!???」


指ぶす!…をされた時より更に大きい悲鳴が上がった。ゴーレムには効能が無いし痛覚というものが無いからわかんないけど…きっと物凄く痛いんだよね…。心が痛いのと体が痛いのとどっちが痛いのかわからないけど…ね。



- マウンテリバーから王都へ送還 -


「一体我が何をしたっ!?」


そう叫んでいるのは王都の某子爵殿だ。


「いや、普通に他人所有のゴーレムを奪うだなんて…普通に泥棒だって、子供でもわかると思いますぜ?」


包帯で顔を…まぁ目元だけだが。ぐるぐる巻きになったこの男は、自分が正しいと信じて頑として罪を認めてないという…。


「本来なら爵位剥奪の上に牢屋へぶち込む所ですが…元辺境伯さまの酌量で王都に送り返すだけで済んだんですぜ?」


辺境伯といえば公爵と同等の爵位だ。今は諸所の事情で爵位は剥奪されているが、別に本人が悪さをしたからという訳じゃない…まぁ、その辺は色々と面倒だから説明は…するつもりもないし、大体何で説明せにゃあかんのだ…(謎)


「ぐぅ…何故我の持ち物を持って帰ることがいかんのだっ!?」


「またいってる…」


「あれって本当のことか?」


「いや…勝手にほざいてるだけだよ」


「居るんだよな…自分が持ってないモノを欲しがる奴が…子供かよ?」


「はいはい、雑談はそこまでだ。馬車の用意はできたか?」


「はっ!…ザック元辺境伯殿の計らいで…」


「よし、じゃあ頼んだ」


…という訳で、王都までの馬車と馬をザックから提供を受け、御者のみ衛兵たちから1名だけを出すだけで済むこととなった。流石に罪人を平民の御者に任せる訳にはいかなかったのだ。


そして…おっさん子爵は王都に返送されて罪状を重ねた結果…王都から許可なく出ることはできなくなり、仕事で必要なモノは上司を介してのみ取り寄せることのみとなり、自宅である邸宅から出ることも未許可では不可となったのであった…(このおっさんの仕事はゴーレムの研究。依って、知らないゴーレムを見かけたら自宅に持って帰ってバラしたりして研究することに余念がなかったのである…それを知らされたレラは恐怖にコアが一時不能になって復帰するまで1週間くらい掛ったとか…桑原桑原)


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ゴーレムからしたらバラバラ殺人事件の首謀者と大して変わりませんな(苦笑)


備考:おっさん子爵側とレラ(仮名)から見た事件の描写でした!

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