39 その3 ~寝たきりのザック、1年の苦節は…(寝てるから感じなかった!)~
長い期間(凡そ1年余り)の眠り姫状態…否、植物人間状態から復帰するザック。あの女神と話していた時間は1時間に満たなかった筈だが、現実世界では1年余の時間が経過していたのだった!…そして目覚めたザックを再びあの世に押し戻しそうになるレムだが、辛うじて再三の目覚めを果たした(苦笑)
意識を失っていた間、何があったかを訊くザックだが寝かされていた部屋も屋敷の一室ではないことから何かあったんだろうと推測する…そこへドアにノック音が…果たして、誰が訪ねて来たのだろうか?
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- 予想通り!…というか何というか… -
「失礼します…はっ!?」
ドアが開かれていく。
ぎぃぃ…
「だ…」
「だ?」
「旦那様あああっ!!!」
それは…予想通りというか何というか、矢張りナルが立っていた…というか、飛び込んで来た!
「うわっ…ちょっ…まっ」
どばふっ!
以前見た記憶より盛った豊かな胸が目の前に飛び込んできて…そのまま窒息させようとぎゅーぎゅーと…頭は両の腕でがっちり固定されており、ザックから見れば窒息死させる気満々にしか見えなかったのだった…
・
・
「…はっ!?」
再四の目覚め…いやもういいや…と思いつつ、目を覚ますザック。
「しっ…失礼しましたぁっ!!」
見れば、ナルとナル部下が揃って土下座していた…
「え、なにこれ…」
部屋の中を埋め尽くす…という程ではないが、10名余の見た目殆ど変わらない従者ゴーレムたちが土下座を敢行していた。各々の服装は以前は軍隊みたいに揃いの服だったがそれぞれが何処かで調達したのだろう…荒事でもこなして破損したのだろうか?…ぱっと見には一般人が適当に集められたかのようだった。但し、顔だけ見れば同じ顔が揃っている為、注意深く見れば奇異には見えるだろう(髪型を変えたり化粧をしてるから、よく見ないとわからないだろうが…)
「旦那様を亡き者にしかけた罪!…どんな罰でも甘んじて受けるしょぞ「いいから」ん…へ?」
放置しておくとそのまま自害でもしそうな勢いだったので、途中で割り込むザック。どうも感情が高ぶると暴走するのはレムもシャーリーもナルも似たような者だった。人間並みの思考能力を持たせると感情が伴い、暴走しそうになるのはわかるし難しいものだなと思ったが、そもそも人間だって感情が高ぶると何をするかわからないものだから、それが普通なのかもな…と考え直すザック。
「いいから…確かに死にそうになったのは事実だけどね」
と、苦笑いを浮かべるザック。ま、そうなったらそうなったで他の誰かが止めればいいだけだ…本当に止めようとしたかは何故か育っている胸のせいで見えなかったけどなっ!
「で、ですからっ!「まぁ待て」…っ!…はい」
視線だけをレムとシャーリーに向けると、心得たとばかりに頷くレムとシャーリー。
「暴走したら止めるから安心して!」…とシャーリー。
こくこくと頷くレム。ふんす!…と鼻息荒く、腕を捲り上げて力こぶを作ってるが…基本、筋肉らしきものが無いゴーレムハンドなのでぴくりとも動いてないが(苦笑)(筋肉が盛り上がらないという意味で)
「わ…わかりましたわ」
という訳で、折角初期従者ゴーレム3人娘が揃っているので寝てた間の出来事を教えてもらうことにしたのだった…
- マウンテリバー・魔族侵攻事変について… -
結局、ちゃんと擦り合わせをしてなかったのか、結構バラバラな情報を次々と押し込まれて脳みそがオーバーヒートしそうになったので、
「もちょっと整理してから教えてくれ…」
と、溜息混じりにダメ出しをしてから1週間。ザックは鈍った体のリハビリをしながら過ごしていた。矢張り、寝かされていたのはマウンテリバーサイドにあった小屋の一室(安宿ではなかった)で、屋敷を追い出されたものの、侵攻を防いだ実績は無視できないとのことで与えられたモノだったようだ。
「はぁ…1年も経てばだいぶ復興も進んだようだなぁ…」
小屋は壁に近いかなり
「ま、小屋の中に居れば暖かいから問題は無い…か」
暖炉は無いが暖房の魔導具でも設置してあるのだろう。室内の空気は暖かく、やや乾燥しているが水を入れたタライでも置いておけば問題は無い。そんなことを考えて、無理しない程度にストレッチを小屋の外で行っていると声を掛けられる。
「マスター!」
声の主は…シャーリーだ。レムも
「おかえり、2人とも…」
とはいえ、まだ昼前だ。今日は半ドンだっただろうか?…と思いながら飛び込んで来るシャーリーを顔で受け止めて手を添える。危ないから止めてくれといってるがさっぱり聞いてくれないシャーリーにレムが苦笑いでたしなめる。毎度のことながら、流石に目に飛び込まれたら困るので僕も注意するが…
・
・
「報告内容の整理が終わりました!」とシャーリー。
「ナルも来たそうだった。けど、彼女には私たちより重要な仕事があるので置いてきた」とレム。
「あ、そ、そう…」
苦笑いで返事するが…まぁ報告するなら1人でも構わないし。ちなみにシャーリーは空を飛べる自前の能力を生かした壁の上からの監視作業。レムは土属性魔法の能力を生かした壁補修作業と復興支援…という仕事を割り振られていた。流石に1日中扱き使われることはなく、空いた時間は僕の看護に使えるし、夜はちゃんと休憩に使うことを認められていた。
「で?」
慌てて取り出した紙を…手渡さないで読みだすレムたち…何で渡してくれないのか理解に苦しむが…まぁ1年も放置していた手前、何もいわずに聞くことにした…うん、内容は兎も角、一所懸命に説明してくれる彼女たちはかわいい。
・
・
「ふむ…」
順序立てて纏めるとこうだ。
◎侵攻の最後で僕が倒れるも、魔族の侵攻はパタッと止む
◎過労で倒れたんだろうと、最初の1週間程は屋敷で看護していたが…長期に渡って寝込んだままとなると態度が急変するマウンテリバーの重鎮たち…
◎月に1度の頻度で問い合わせが来るようになり、半年程経過した時点で「北の守護の任を解除」すると唐突に突きつけられる
◎レムとシャーリー、ナルは引き続き同じ任務を継続するように通達され、関係者一同も取り敢えず現状維持と通達される
◎結局、北の守護のトップであるザックのみ放逐された形になり、それに抵抗したレム・シャーリー。「マスターを看護する者が居ないまま放逐することは死ぬことを意味する」と抗った形だ
◎ザックが死ねばゴーレムたちが体を維持できずに崩れると、秘密の一部を渋々知らせて看護を続行させることを承諾させるレムたち…その繋がりで現在の小屋の建つ土地を借り受け、小屋を建てたという
◎本来なら領主かギルドでザックの身体を管理させ…という所だが、一定期間の間に最低1回は傍に居ないと体が…と嘘800を並べ立ててレムたちが看護すると言質を取った…ということらしい(ナル部下たちは例外(汎用コアの為)ともいってたが…)…普通のゴーレムは嘘とか狡賢い考えなんて思いつかないし信用したんだろうな…
◎以上、後半の半年は看護と割り当てられた仕事を繰り返す毎日で、特に変わったことは無いらしい…
「あ~…ご苦労だった、ね…」
他に何かいおうと思ったが、思い当たる慰労の言葉が見つからず、当たり障りない言葉しか口に出せなかった。
「ううん…苦労なんて思ったことはないよ?」
「同意。こうして再び言葉を交わせただけで満足…」
シャーリーとレムが感涙しながら…また抱き着いて来る。シャーリーは頬に頬ずりしてくるし、レムはレムで体全体で抱き着いて来るし…こっ
バタァーンッ!
と、全力でドアが開け放たれる!
「もしやと思って来てみれば…旦那様っ!!」
と、2人が抱き着いていた意味もわからずにシャーリーとレムを強引に引き離し、ナルがザックに抱き着いて叫ぶw
「な…なんなんだ…」
「さ、さぁ…」
唯単に抱き着きに来たのか?…と困惑するシャーリーとレムだったw(ギャグマンガかっ!)
- ナルを含めて続行すること -
「な、成程…そういう事情でしたのね」
抱き着いていた経緯を説明要求されたのでザックが順序立てて説明。下手に2人が説明しても納得して貰えないと判断した為だ。
「ま、そういう訳だ。ナルにも苦労を掛けた」
「い、いえ!…旦那様の為ですもの…わたくしの努力なんて…」
とは口でそういってるものの、再び抱き着いてきそうな勢いだった。ので、少しだけ引くザックだったが(苦笑)
「まぁ…寝たきり老人ならず、寝たきり子供がいきなり復帰した所で前と同じ状況には戻らないよね…そういえば」
「はい?」
「ここの家賃とか生活費は?」
流石に借地なら借地費などかかるだろう。寝ている間でも色々とお金は掛かるだろうし…
「えーっとね…」
シャーリーとレムの回答…
結局、北の守護には領主が兼務することとなり、代行として執事の補佐が居を構え、実行部隊としてダークエルフたちを使おうとしたが命令には従わないが第2の故郷として住むことを認めるならばと、ノースリバーサイドの巡回と防衛を自らの意思で行うと契約を交わしたらしい。
屋敷の貯蓄はそのまま代行が引き継いで運用しているらしい。屋敷の管理として使用人の奴隷たちがそのまま引き続き残り、給与を幾ら貰っているかは不明だが一応貰っているとのことだ。レムたちは会うことはほぼ無くなり、偶にシャーリーが上空を飛んでいる時に見掛ける程度だそうだがその表情に影が無いことからそれ程扱いが悪いということはないだろうとのことだ。
ザックの資産はそのままという訳にはいかず、一旦探索者ギルドに預かりとなり。毎月僅かづつ必要最低限の生活費を引き出せる状況…ということだ。所謂引退探索者の年金扱いになったようなものだが、実態はザックの預入金と取り上げたお金でギルドの復興費として運用されてるんじゃないか?…と2人は推測しているとのこと。尤も、ザックのストレージに入っていたお金は本人にしか取り出せないので財布に入っていた僅かな額の金銭しか取り上げられてない訳だが…
マロンとモンブランは…冒険者ギルドで働いているらしい。そして自らの生活費を稼ぐと同時にザックの元へ金銭を貢いでいるらしい。尤も、モンブランは週に1回は足繁く通わされているらしいが…レムとシャーリーの嘘の影響もあってだがw…マロンはゴーレムじゃないのでそう何度も足を運ばず、せいぜい月に1回程お金を持ってフラっと現れてはザックの様子を見てから、またフラっと消えるを繰り返していた。後はモンブランに丸投げしている訳だが…多くを語らないのでよくわからないらしい。
最後に…土地は借地だが実質貰ったようなもので。最初に金貨で10枚払った後は特に要求はされてない。半年後にまた金貨10枚を要求されるかもだが、それまでは何も払わなくてもいいだろう…ということだ。また、小屋はナル部下たちが木材を運んで建てた
ナルの回答…
ノースリバーサイドは前と変わらず。ダークエルフたちが第2の故郷として居を構え、土地の巡回といざという時の防衛任務に就く代わりに構築した集落に住むことを黙認して貰い、手出ししないことを契約に盛り込んで締結した…との話だ(ザックというトップが居なくなった状況で、自分たちで考えて話を通したとか何とか…)
ダークエルフたちができない壁の修繕はナルたちが引き受ける。表向きの修繕作業はナル部下でもできる為だ。スキルが無い人間でも可能な作業として、ひびが見つかれば修繕の為にひび割れを埋めて表面を塗料を塗りたくって補強をする…程度だが。やらないよりはマシだろう。穴が開いてれば同様に石や岩石で大まかに埋めた後に土で隙間を埋め、表面を…と作業する。これは壁の外側も同様に埋め・塗る必要があるが…外側はもっと強化する必要がある。場合によってはレムを呼ぶ必要があるだろう。
ナル部下たちは引き続きマウンテリバーサイドの復興事業に従事していた。だが、タダ働きを強要されてとある時期からストライキをしていたが、衛兵たちと衝突事件が発生しかけた…。ナルがいうには躯体本体は破損するようなことは無かったが、衣類は普通に破損する為に時が経つにつれてみっともないメンバーが増えて来た。だが、タダ働きをしている為に替えの衣類が必要になっても買うこともできず…ザックが健在の間はすぐに替えの衣類を支給されていたのに…ということだ。ナル本人はザック手ずから生成した上等品で耐久力も半端ない為に恐らくは半永久的に…ザックが死に至った後でもかなりの期間はその姿を保つだろうと思われる。
「…で、結局給料は貰ってるのか?」
「え…えぇ、まぁ…」
その返事で何となく察した。食べる必要は無いゴーレムだからと法外に安い給料で働かされてるんだな、と。知らない人は知らないのだが…休む間に自然回復する魔力なんてのは人間だけだ。ゴーレムには1日1つ、魔力カプセルが必要なのだ。若しくは他人から譲渡されれば回復はする。そしてそれとは別途休憩が必要だ。1日24時間、無料で働き続ける便利な道具ではないのだ。品質が最低限のクレイゴーレムやロックゴーレムなら躯体の素材が脆い為、メンテを怠ればすぐに崩れてしまうのだ…
「魔力カプセルはどうしてるんだ?」
「それが…」
支給されている賃金を集めて魔力カプセルを作り出せる魔法使いに頼んでいるが、品質が悪くて1日分の魔力を得るのに2つ必要と。だが魔力カプセルを購入する為に消費できる賃金は多くても全員分には不足している…依って、外回りや復興支援に回るフル稼働組と、内勤で消費魔力を抑えるエコ組とで別れているらしい…
「確かに、消費魔力を抑えるなら体を動かさなけばいいしな…」
尤も、慣れてなければ指先の稼働だけでもそれなりに消費魔力は多くなる。動きがこなれてきて慣れてくれば、制御も容易くなって消費魔力も抑えられるが…最初は大変だったろうと内心涙するザック。
「それはいわない約束ですよ?」
「え…先回りされるし」
「何をいつも苦労を掛けるねごっこしてるんです?」
ナルとイチャコラしてるように見えたシャーリーに突っ込まれる。横でレムの目が据わってて怖い…
「はぁ…」
ザックはストレージにため込んでいた魔力カプセルを取り出す。
どさどさどさ…
1袋1000個程入っている物が3袋だ。1日1個消費として30人なら大体100日はもたせられる。カプセルの大きさを改良して前の物より容量は減ったが内包している魔力量は同じ…という訳で、同じ袋でも入る数は大幅にアップした。尚、人間が飲んでも意味が無いのは前の物と同様だ。
「これ…はっ!?」
「ご苦労賃って訳じゃないが…暫くはもつだろ?」
「は…は、はい!有難う御座います!!」
ナルはその目に涙を浮かべ…背後の部下に手渡す。恭しく受け取ったナル部下は…魔力が足りないのか、少し重いその袋を持ったままよろめき…遠隔で魔力を充填すると姿勢が元に戻ったが…一礼して出て行く。その様子を悔しい…と今にも別の意味で涙を流しそうになってるナルに、ザックは両手で握手をして、
「また苦労を掛けると思うけど…宜しくね?」
と、手をにぎにぎしつつ魔力を充填する。
「い、いえ!…勿体ないお言葉、です…」
そしてフルチャージし終えると、目に見える程に魔力光を放ちながら、ナルはフンス!と鼻息も荒く…一礼をしてから部屋を飛び出し、ナル部下たちも慌てて立ち上がってそれぞれにペコペコとお辞儀をしてから追いかけるのであった…
「…台風みたいだね」
「…同意」
━━━━━━━━━━━━━━━
ザック 「オツカレ」
シャーリー「ホントニ…」
レム 「…」
※そしてザックは疲れたといい残し、その日は昼前にも関わらず何故か夕焼けの空と化していて…心象風景?…3人揃ってベッドに入って雑魚寝するのであったマル
備考:様々な貯蓄は奪われた形(建前上、移譲したという形)で、残っているのはザックのストレージ内の財産のみ。装備品も保管するという建前で奪われている(どーせ寝たきりなら使わないだろ?…ということで)返却を希望しても復興費として売却して無いといわれるだけで戻っては来ないだろう!
探索者ギルド預け入れ金:
なし(復興費として徴収された状態だが、ランク剥奪した上に未所属となっているので返却の望みは薄い)
ストレージ内のお金:
金貨277枚、銀貨1020枚、銅貨781枚
財布内のお金:
なし(財布毎没収状態)
屋敷の備蓄額:
守護を解除され、領主の執事補佐が後任に就いている為、不明。恐らく全ては必要最低限の額を除いて領主の元に徴収されていると思われる(ミスリルインゴット毎)
ザックの探索者ランク:
剥奪状態(未所属)
本日の収穫:
毎月、不定期にマロンから生活費が入れられている。その時々でバラツキがあるが…大体は金貨1枚前後。だが、徴税と称して領主の館から来たと称したゴロツキから税金を巻き上げる者が存在する。最初こそレムたちは支払っていたが、毎月取るのも変だということで調べると…。無論、そのゴロツキ共はそれからは撃退したが払った金は戻って来ない…それが現実!(ひでえw)
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