23 その6 ~マウンテリバー、魔族の侵攻を受ける!…その6~

ザックの擁する唯一の軍…もとい、戦闘専門であるツーマンアーミーたるダークエルフゴーレムのザンガとサフラン。元々は伝令兵に偽装させて穏便にダークエルフの里の…帝王ジェンドゥと皇女リコの民…を撤退させるべく創造したゴーレムであったが、いつの間にかザックの配下として色々やっていたようだった。ダークエルフたちとの中継ぎや、輸送任務、ノースリバーサイドやマウンテリバーサイドの周辺偵察任務など、色々やってくれているらしい…ゴーレムだけあって疲労知らず(体は、だが。精神的には余りこき使うと疲労はするが(苦笑))で中々のブラック香ばしい勤務環境だが…

そんな彼彼女の活躍は表には出ないが、侵攻されたマウンテリバーの町で暴れる魔物たちの何割かは撃退したという話しだ。それを証明するモノとして、アイテムボックスには大量のドロップ品や、死体が残っていた場合はそれも入っていた。2人は冒険者でも探索者でもなかったが、両ギルドでその功績を称えてか討伐実績を鑑みて中堅ランクであるCを与えられていた(一応試験はした模様)

ま、それはそれとして労奴の如き、馬車馬のように働かされるのは変わらないが…(苦笑)

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- 復興 -


「建材、此処に置いて行きますね?」


「おお、ありがとなっ!!」


6人乗りの馬車…ではなく、大型の幌付き荷馬車がガタガタと音を立てて走って来て止まり、中から女性ダークエルフが木小屋ログハウスを建てていた町民に声を掛ける。声を掛けられた町民たちは感謝の大声を返し、再び作業に戻り…女性ダークエルフが頷くと、同じ御者台に座っていた男性ダークエルフが飛び降りて荷下ろしの作業を開始する。


「じゃ、どんどん降ろしてくれ」


「おっけー」


中に居た何者かに話し掛けると、高い声の返事があり…ひょいひょいと投げて寄こされる。どうやら中に居たのは女性のようだが渡される建材はそんなに軽い物ではない。


「ちょちょ!…勘弁してくれ。そんなに持てね~っての!」


「あはは!ごめんねっ?」


ちなみに、渡された丸太はどう見ても荷馬車に収まる長さではない。男性ダークエルフはそんな丸太を2本両肩に担ぐと、地面にやや深めの足跡を刻み付けながら作業場へと歩き出すのだった…



- ザック邸 -


「復興部隊は活躍してるって?」


ザックが疲れた顔をしながら執事のコナンの報告を受けていた。あの侵攻劇から凡そ1箇月が経過し、控えめに密か?に進めていた復興作戦だが…



「もう侵攻はないだろ?…大々的に復興を始めてもいいんじゃないか?」


という領主代理の冒険者・探索者ギルドの両ギルド長の打診により、密かに増産していた復興部隊用の荷役ゴーレムの教育も終わっていたので、地下大倉庫に木材と…何処から調達したのか石材も貯め込んでいた。


「わかりました。では、建材をそちらに送ろうと思いますが…一遍に運び込んで置ける場所ってありますか?」


「あぁ…元町役場の跡地がある。そこに運ぶか、要請があった建築現場に直接運んで貰えれば構わない」



…という話し合いが以前行われ、先程コナンからの報告で成果を確認したという訳だ。


建材を運ぶにしても時間50年が経過して劣化してるように見える石橋は、1度に多くの荷馬車が通ると落ちそうだ。だが、耐久値再生デュラビリティ・リペアーで修繕したことで建造直後に近い状態まで戻っている。それでも「気分的には怖い…」ということで、1度に通る馬車は4つまでとした。往路に2台。復路に2台ということだ。


また、マウンテリバーサイドに入るには貴族街ということもあり、普通は入街証明などが必須となるのだが(北のお屋敷であるザック邸の使用人は全員専用の入街証明書を携帯させている)復興用建材を運ぶ荷馬車とその作業員に関しては一時入場を許可する為に特別許可証が発行されていた。それはマウンテリバーサイドの殆どの場所に見せるだけで進入許可を得られる特別な物だ。


(…ま、輸送人員は反逆しようもない僕が創造したゴーレムなんだけどね…)


通常、ゴーレム命の無い下僕は創造できる者が限られており存在する国家は僅か。しかも巨人サイズが殆どであり、体を動かすのも鈍重でその拳を振るうにしても見てから避けることは難しくないが(加速魔法などで加速してから避けるのは難しいかも知れない)その破壊力は重量に比例してかなりの物らしい…が、運用は難しいので防衛任務に使われることが殆どだという話だ(そもそも内包魔力が遠征に耐えられる程には貯められないらしい。が、建造した国の中なら僅かづつ充填しながら運用は可能なので拠点防衛向きといえるそうだ)恐らくは国を守護する結界から魔力充填してるんじゃないか?…と推測される(あくまで推測であり説明されて知ったことではない)


弱点は動力コアを破壊か制御コアを破壊。若しくは両方を破壊。大抵は攻撃も難しい体内にある為、物理攻撃で削るのは問題外で魔法による一点集中に依る破壊かオーバーキル気味の全体攻撃だが…1体だけなら兎も角、複数体存在してた場合は徒労を感じるだろう…


他国のゴーレムはこれくらいにして、マウンテリバーのゴーレムはザックの創造した個体以外には存在しない。ましてや人間サイズとか妖精サイズのゴーレムなどはこの世界には…人類の版図には存在しないだろう…恐らくは(尤も、そんな国家機密はザックが知っている訳ではなく、自分の創造したゴーレムがトンでも性能の国家機密クラスの存在とは知らないのはいうまでもないだろう…唯、まぁ、「他人にいい触らすとヤヴァイかもな?」くらいの自覚しかないし、ダークエルフの帝王と皇女には「絶対我(私)ら以外には知られないように…」と釘をさされているがw 尚、奴隷たる使用人たちには既に既知の事実であるが、秘密は他言無用と誓約にあるので問題は無いと思われる)


そんなこんなでゴーレムの人足が…実態は元案内人ゴーレム29人と元伝令役ダークエルフゴーレム2人の計31名がフル稼働して復興用建材を運んでいた。ダークエルフ組は周囲警戒の為に時々抜けて出払うが問題は無い。疲労で休憩が必要な人間と違って、彼女らはほぼ休憩を必要としないのだから。


「ま、それでもゴーレムとバレちゃうのは不味いよな…」


という訳で、昼休憩以外にも数時間に1度は休むように伝えてある。その間、熱を持った関節やコアの冷却に充てればいい訳だ。お屋敷ザック邸に戻っていれば、各メンテにその時間を当てることも可能な訳だし…



- 警戒中…ザンガ・サフラン組 -


「…このまま連中、引っ込んでればいいんだけどなぁ…」


「そうね」


「先日の…ジャケット弾だっけ?…まさかあんな強力な武器があるとはなぁ…この俺でもびっくりだぜ…」


「そうね」


「しかし、ゴーレムの俺たちでもレベルアップとやらができるとは…って、さっきから「そうね」しか返事が無いんだけど?」


「そうね」


歩きながらの偵察中にザンガが暇を持て余してサフランに話し掛け、上の空で返事をしていたサフランに途端に口を噤むザンガ。


「そうねそうねって、それしかいえないのか?」


「そうね」


キレそうになるザンガ。だが、仲間内での争いはご法度はっとである。口喧嘩や軽いじゃれ合いくらいは目を瞑って貰えるが…今は偵察中でいつ戦闘に入るか不明な微妙なのもあり、ザンガは黙ることにした。つまり、


(クッソ…敵が出てきたらギッタンギッタンにしてる…覚えとけよ!)


と、思考コアが少々不穏な意思で塗り固められていたw


「…!」


サフランが唐突に歩みを止める。そして、


「伏せて!」


と、小声でザンガに叫んでその背中…もとい、首根っこを掴んで強引に地面に音を立てないように抑え込む!


『ぐはっ!…何すんだ、痛ってぇな!?』


ザンガが念話で文句をいうと、


『静かにして!』


と同じく念話で返されて口も思考コアも手で塞がれたかのように黙り込むザンガ。そして、サフランが見ている先…視線を辿って行くと、その原因がかなりの距離を隔てた先にあるのがわかった。


(あれは…まさか連中、こんな所に…)


此処はマウンテリバーの町の外。距離にして北に5km程進んだ所だ。ノースリバーサイドとマウンテリバーサイドを隔てる深い峡谷が伸びた先でもある…詰まりは断崖絶壁が此処に来ても続いているのだが…


(ここら辺は殆ど人が来ない場所だし、拠点を造るには絶好の…か)


視線の先は凡そ1km程離れており、この辺は森の中で、辛うじて木々の隙間を縫って視線が通る。そんな場所。森の匂いが濃いか、こちらが風下のお陰か…視線の先の連中には気付かれていないようだ。


(尤も、ゴーレムの俺らには生き物の匂いなんて殆ど無いんだけどな…)


あるとすれば着ている装備に僅かに匂いが付着してる程度。それも森の匂いで殆ど感じなくなるだろうし、後は…魔力くらいだろうか。尤も、森の中には天然の魔素が豊富で常に漂っているので探知は難しいだろうし、元よりコアから洩れる魔力なんて魔法でも行使しない限りは限りなく薄い。


(強大な大型のゴーレムだとわからんけどなぁ…)


といってもお目にかかったことのないゴーレムのことを考えてもしょうがないので、俺もサフランの凝視してる連中の様子を…ってあれ?


『情報の収集完了。撤退するわよ、ザンガ!』


『ちょおっ!?…早っ!!』


既にその場から足音を消しつつ撤退開始しているサフランを見て、ザンガは驚愕を覚えつつも後を慌てて追うのであった…なるべく音を出さないようにして!w


━━━━━━━━━━━━━━━

ザンガがヘマをして気付かれたかって?…伊達に1kmも離れてないのでバレてませんが、勘のいい魔物が様子を見に来ましたが、既に撤退して居なくなってるので結果的に偵察行動はバレてません(匂いを残さないゴーレム兵なのもいい結果を残したってことで!)

他、マウンテリバーの領主から復興資金を下賜された…領主本人は外に出られないということで部下から受け渡されたっていう…まだ嫁さんのアレが尾を引いてるのかなぁ?



備考:魔物たちが第2次侵攻を起こすべく、拠点建造と兵力集中してる情報をザンガ&サフラン偵察兵が持ち帰った!(コロコロ役職名が変わる2人でありましたw)


探索者ギルド預け入れ金:

 金貨712枚、銀貨802枚、銅貨1667枚(尚、両替を希望しなければ貨幣単位で加算される一方となる)

ストレージ内のお金:

 金貨277枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(ゴーレム部隊へ充当金支出)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

総額(両替した場合の額):

 金貨1010枚 銀貨25枚 銅貨28枚

屋敷の備蓄額:

 金貨2480枚、銀貨851枚、銅貨714枚(マロン&ゴーレム部隊から充当、使用人の給与支払い、雑費支出、マウンテリバー復興資金を充当)

 ミスリルインゴット30kg(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 給与として各使用人に支払い(6週間分、合計銀貨210枚×6=銀貨1,260枚(奴隷の使用人))

 ゴーレムたちに一時金(町で全く買い物しないのも変なので、適当に買って来いと小遣いを与えた…復興部隊31名に1日辺り銅貨50枚×31名×4週間(28日)=銅貨43,400枚

 他、食材やら細々とした支出:金貨3枚、銀貨118枚、銅貨386枚

ザックの探索者ランク:

 ランクB

本日の収穫:

 此処6週間のマロンの狩って来た魔物のドロップ品や死体からの素材の収益合計(多種多様に渡っているので詳細を書くと…なので省略。マロンは銀貨・銅貨の分を自分の収益として懐に収めているので金貨以上のみ記載…金貨1,168枚。

 ザンガ&サフラン部隊の先日の討伐分の収益。こちらも特に金銭を使うあては無いので全部収めて下さいといわれたが、その収益の一部をゴーレム部隊の小遣いに充てることで還元。依って、ザンガ&サフラン部隊の収益の半分を共用資金としてそこから小遣いや消耗品代に充て、残り半分をお屋敷の備蓄額に充てることとした

 →総収益:金貨38枚、銀貨1206枚、銅貨381枚

  屋敷備蓄額へ充当:金貨19枚、銀貨605枚

  ゴーレム部隊共用資金:金貨19枚、銀貨601枚、銅貨381枚

  小遣いでの支出:銅貨43,400枚(銀貨434枚相当)

  部隊の消耗品支出:金貨1枚、銀貨3枚、銅貨200枚

  ザックからの充当金:金貨5枚

  残高:金貨23枚、銀貨164枚、銅貨181枚

 マウンテリバーから復興補助金として下肢された資金:金貨300枚→取り敢えず屋敷の備蓄額として充当

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