06 その2 ~マロン・激闘!~

マウンテリバーに迫り来る怪しげな雲…否、嵐。その正体は積乱雲だが一般的には眼下に起きている激しい雨と雷を含めて嵐と呼称している。そして密かに迫り来るダンジョンの中の脅威…マロン唯一人だけがその脅威を視認するが発見されてしまい意図せず戦闘へと突入してしまう。その頃のザックは不審な雲を見ていたが、執事に促されて屋敷へと引っ込むのであった…

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- マウンテリバー・ダンジョン 第5階層 -


〈GUaUU!〉『逃がすな殺せ!』


マロンには魔物の言葉はわからないが(翻訳の魔道具でもあれば別だろうが…)剣呑な雰囲気から


(これは…ヤバイな…)


と感じていた。足を止めたら最期、雲霞の如く数で押されて殺され、全身を引き裂かれて喰われそうだと…


(仕方ない…疲れるから嫌だが背に腹は代えられない!)


と、素早く動きながら攻撃を躱しつつ反撃を加えていたマロン。何かしらの決意の直後、体を回転させながら輪の剣尖を描く。


どんっ!


余りにも急激な動きに衝撃波を伴って吹き飛ばされる魔物たち。よく見ればゴブリンだけではなく、コボルドやウルフ、オークやオーガも混じり始めていた。


「うるるるる…うがぁぁぁあああっ!!」


マロンがそう叫ぶと総毛立ち(といっても外側からは髪の毛とケモミミくらいしか毛が生えてる場所は見当たらないが…)、目が血走り、やや牙が伸びたように見える。


みし…


パンプアップした筋肉のせいで肉体が盛り上がり、メイド服が破け…ないで呼応したかのようにワンサイズ程大きくなる。本来なら1回こっきりのオートフィット機能だが、マロン専用の戦闘メイド服は溢れんばかりの魔力に呼応し、自動発動してしまったようだ。


「があああああああああっ!!」


雄たけびの直後、姿が瞬時に消え…残された僅かな土煙と同時に荒れ狂う血煙がかき回されている空気に乗って飛び散っている。無論、周囲の魔物たちは気付く間も無く肉片と化している訳だが…


〈GUruU!?〉『な…!?』


〈GYAUuAA!?〉『何が起こっているんだ!?』


一体何が起こっているのかわからないと大混乱の中、一方的に惨殺される魔物たち。気付けば目の前の同胞はらからたちが肉片と化し、血煙を噴き出して消えて行く。次の瞬間には自らもその仲間入りを果たしてしまっている…


〈Gu…AAAuuuu!!〉『散れ…巻き込まれる!!』


意味のある叫びを上げた者は少なく、殆どは意味の通じない絶叫を上げて逃げ惑っている。敵は…いや、最初でこそ刈るべき小虫唯1匹と侮っていたが、今では正体不明の殺戮者に格上げとなったマロンは…まるで狂戦士バーサーカーと認識されていた。



凡そ1時間程経っただろうか…咽る程の血臭の中、全身が返り血で赤黒く染まった人型が佇んでいた。


ぷしゅ~…


と、やや情けない音と共に体が縮んで行き…そのまま力尽きたのかぺしょっとその場に座り込む。


「つ…疲れた」


マロンはそれだけ呟くとザックにいわれた通りに1人用の結界の魔道具をアイテムボックスから取り出して起動させる。そして、そのまま横倒しになってコトリと寝てしまう。



- ザック邸 -


「あ…」


「どうしましたかな?」


ザックがコナンと天気の異常さについて話し合っている時だ。ザックはマロンに付けて貰っていたとある魔道具からの信号を感知し、ついうっかり声を漏らしていた。


「あ、いや…マロンが何処かで力を使い果たしたのか寝ちゃったみたい…」


「力を?…それに寝てしまったと?」


「うん…」


話し合いの途中だがいきなりの事態に戸惑う2人。


「う~ん…一体何処で寝落ちしたんだろ?」


「基本猫ですからな…」


「うん…」


…という訳で、2人は手分けしてマロン探索を開始することに。屋敷の中で見つかればそれはそれで問題かも知れないが安心材料とはなる為、使用人たち全員で探すこととなるのだが…



「おい、見つかったか?」


「いえ…何処に行ったんでしょう?」


使用人たちが廊下で顔を合わせる度に状況を確認しあうが進展は無く。その内に日が暮れて来る…



「ひょっとすると…」


「何か心当たりが?」


「うん…一応「控えろ」っていったんだけどね…」


ザックはコナンに「ダンジョンに行ってるのではないか?」と伝える。


「…ですが、ダンジョンは現在封鎖中では…?」


「「…」」


ザックは暫く考えた後、意を決して頷く。


「ちょっと行ってきます」


「…行かれますか」


「はい」


「では、せめて…」


「はは…勿論連れて行きますよ?」


頷くコナンにザックは2人を呼ぶ。


「レム、シャーリー、ちょっと出るから来て」


…と。



- マウンテリバーサイド・探索者ギルド -


「マロンさんが、ですか?」


久しぶりに訪れた探索者ギルドの受け付けにて、ザックが聞き込みに入るが…


「あ~…転移魔方陣から勝手に侵入したと記録にありますね」


と出入記録を見ていた受付嬢に伝えられる。ちなみに名前はウェンディといい…以前、非番の時に勝手にリンシャが早退したせいで呼び出されて散々な目に遭った人物でもあるw


「勝手にって…控えろっていってたんですけどね…申し訳ない」


軽く頭を下げるザックに、その身分を知っている探索者ギルド職員のウェンディは慌てて手を左右に振り、


「あ、いえいえ…。唯、まぁ…現在は正面出入口は閉鎖してますし、余り勝手なことはしないで欲しいかなとは思いますが…」


と零し、恐縮して謝り合うのだったw



「では行ってきますね」


「はい、お気をつけて!」


ザックはダンジョンへの入場許可を得て第1階層から入ることに…とはいえ、正面の閉鎖した入り口ではなく勝手口のような予備の狭い入り口からだが。



- ダンジョン入り口 -


「何か…懐かしいなぁ~…」


「そうなんですか?」


ザックが何となく呟くとレムが問う。


「うん…ここんとこ、ドタバタしてたからねぇ~。一応、受付までは来ることもあるんだけどね」


「成程ねぇ~…」


頭上でシャーリーが足をパタパタさせながら腹這いで呟く。


「…じゃ、入ろうか?」


「「はい!」」


3人は封鎖された正面入り口の右…監視用の小屋の影に存在する勝手口と呼ばれている小型の入り口へと向かう。監視小屋の門番たちは連絡が行っていることもあり、特に止めることもなく軽く会釈をするだけだった。ザックも会釈を返し、勝手口へと入る…



- 第1階層 -


「静かだな…」


「そう、ですね…」


取り敢えずシャーリーに探知を頼む。第1階層はシャーリーの探知能力で大部分を視て貰えると踏んでの判断だが…


「ん~…生命反応は無いみたい」


「わかった。じゃあ第2階層に行こっか」


と、スタスタと歩き出す。今のマロンの実力なら、浅い階層は殲滅は朝飯前であり、殲滅後は魔物の復活まで大体1日くらいは掛かる。隅から隅まで探し回るのは非効率であり、過労で倒れたマロンがこのような浅い階層で寝入っている所で襲われても無意識で反撃して斃すのは目に見えている。


「地図は見なくても大丈夫なんですか?」


レムの問いに、


「うん。第3階層までは暗記してるからね!」


「え…」


「流石マスター。でも、まだ第3階層までなんだよね?」


「ぁぅ…ま、そうなんだけどね?…あはははは…はぁ」


『こ、こらシャーリー!マスターが落ち込んでるでしょっ!?』


『だって本当のことじゃーんっ!!』


何でもないと返すザックに暗記してると驚くレムだが、シャーリーの痛烈な突込みに力なく肯定して項垂れるザック。そんな主人マスターの様子にレムが念話テレパシーでシャーリーに突っ込むが…


「ま、まぁまぁ…本当のことだし?」


と、ザック自らシャーリーをフォローするが…


「いけません。本当のことをいって相手を傷付けるなんて…ましてやマスターを傷付けるなんて言語道断です!!」


とレムが庇ってるようでトドメを刺す物言いにシャーリーが笑い始め、ザックが益々項垂れるのだがレムは何でそうなるのか暫く気付かないでいたのだった!



- 第2階層 -


「…居ないようですね」


「そうか…」


第2階層は第1階層とそう大して広さは変わらない。双方共に洞窟型の為、道は入り組んでいるが探知可能な広さで探知で見つけられないならば先を急いだ方がいいだろう。


「次はいよいよ第3階層か…」


因縁の階層である。ザックにとっては第4階層に向かおうとすると何等かの邪魔や引き返す必要があって戻らなくてはならない、越えたくとも越えられない壁の階層でもある。今回はそうはならないと思っているが、さて…



- 第3階層 -


「おお…」


「1~2階とは違うんですね?」


シャーリーが感嘆の声を上げ、レムが素直に驚いていた。実は構造改変してオープンフィールドタイプになる前は第3階層も第1~2階層と同様に洞窟型だったらしいが…


「構造改変があって草原型になっちゃったんだよね…」


構造改変は不定期に起こるマウンテリバーダンジョンの活動の1つだ。他のダンジョンでも稀に起こる為、それまで作成した地図が使い物にならなくなる為、地図屋マッパーと呼ばれる職業の者たちの飯のタネになるがダンジョンで仕事をしている探索者や冒険者にとっては悩みの種だ。それまで使えていた地図が一切使い物にならなくなるのだ。自身でマッピングしていても、ギルドやマッパーたちから購入していても、再びマッピングし直すか購入し直す必要がある為、2度手間3度手間となる。


「まぁ…僕は初めて来た時には既にこうなってたからね…関係無いっちゃないかな?」


「そう、ですか…」


「ここも生命反応無し、です」


レムの呟くような返事の後のシャーリーの報告にザックは頷き、第4階層へと向かう階段のある中央の森に向かって歩き出す。ここまで迷うことなく歩き詰めだったお陰で2時間と経過していない。歩いているレムと自身に身体強化フィジカルブーストを掛けていたのもあり、時間短縮に繋がっていた。


「前は此処でウルフ系のボスに遭遇したんだけど…」


「居ないと思うけど?」


シャーリーの探知結果では生きているモノは皆無と出ている。マロンが全て撃破している為、恐らくは今日中に復活することはないだろう。


「そうだね…じゃあ行こうか。第4階層へ!」


初めての第4階層へ踏み出すことに、ザックは少しだけ…ほんの少しだけドキドキワクワクしていたのだった!


━━━━━━━━━━━━━━━

何度も第3階層でとんぼ返りしていた為、そうなるのも無理は無いかも知れません!…マロンが危険な目に遭ってるかも知れないのに!?…とは思ってもね?w

※全然そんなことはないけどもww



備考:

探索者ギルド預け入れ金:

 金貨712枚、銀貨802枚、銅貨1667枚(尚、両替を希望しなければ貨幣単位で加算される一方となる)

ストレージ内のお金:

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

総額(両替した場合の額):

 金貨1015枚 銀貨25枚 銅貨28枚

屋敷の備蓄額:

 金貨2063枚、銀貨55枚(変化なし)

 ミスリルインゴット30kg(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクB

本日の収穫:

 特になし

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