57 その8 ~マロンの受難~

①マロンのスカウト合戦で大騒動になっていたノースリバーサイドの屋敷。元々何処にもやらないので両ギルドに陳情書をシャーリーに送って貰って回収して貰ったのだった!…その後、マロンは溜まったストレスを発散する為にダンジョンに潜ったのだった…(また屋敷の資産が増える?w)

②リュウケンコンビの出身村「ストツ村」に派遣したレムたちとリュウケンコンビ。果たして、無事に妹と弟を出迎えることができたと思ったのだが…乗って来た馬車と馬を見て態度が豹変した親族が「馬車と馬も寄越せ」とのたまい、取り敢えず2人を引き取ること自体は無事に終えているので強引に逃亡したのだった!

③老執事コナンの提案で医者を雇ってはどうか、と。そして普通に医者を雇うと金が掛かるが、元居た奴隷商会にあてがあるという…。奴隷ならば元手が掛かるが普通に医者を雇うよりは金が掛からないという。果たして…ザックは元医者の奴隷を入手することに成功するのであった(元主の某F男爵を毒殺未遂の疑いがあるんだけども!)

━━━━━━━━━━━━━━━


- 毒殺疑いのある元医者の奴隷さん -


「ディアナ、と申します…」


貫頭衣に身を包んだ女性が来ると思ったら、普通の女性向けの普段着を身に付けた人が現れた。いや…ドレスとかではなく、平民向けの女性着だけども。身綺麗にした彼女は奴隷特有の痩せ細った様子もなく健康状態も普通のようだった。


「あ…ノースリバーサイドの守護を命じられた…ザック、です」


それだけいうと、「あぁ、あの…」と小声で呟く彼女。どうやら北の地がどういう場所かは知っているようだ。なら説明は不要かなと思ったが…一応、簡単に説明をする。どんな場所に住んでいる者に買い上げられるのか、そこでどんな仕事をして貰うか、期待されていることなどなど…を。


「成程」


彼女は一言、そう呟き、頷く。納得して貰えたようだが…まだ彼女は奴隷商会に所有権がある。だが、購入前にやっておく必要があったのだ。購入してから「嫌だ」といわれてもこちらとしても困るのだから…ザックとしては、無理強いはしたくないということもある。



「では、お買い上げに?」


「…頼む」


今回はコナンも連れて来ているので細かいやり取りは任せ、奴隷契約の所有者の書き換えを行うことになる。一般奴隷と違い、医者などの特殊職業の奴隷は厳重になっているそうで…


「では、こちらの部屋にお願いします…おい!」


「へい」


という訳で別室に専用の機材があるということで、ザックとジャックソンの使用人とディアナ、そしてもう1人の随行人のイブが別室へと足を運ぶこととなった。



「じゃ、ご両人は此処に座って待っててくだせえ」


「わかった」


「うん」


机を挟んで2つある椅子を引いて座るザックとディアナ。イブはザックの斜め後ろで立って待機。使用人は棚から水晶…占いで使うようなあれ…を持って来て2人の間に設置した。


「じゃ、お2人とも、この小さい部分に触れてくだせえ」


「…この小さい水晶玉に、か?」


「へえ」


ディアナの目を見て頷き、ザックは目の前の小さい水晶玉に触れる…というか掴んだ。ディアナもこちらからはよく見えないが掴んだようだ。


「それじゃいきやすぜ?…少しぴり!っと来ますが、絶対に離さないようにお願いしますぜ?」


「お、おう…わかった」


「わかりました」


「では…」


使用人が真ん中の大きい水晶玉に触れて呪文を唱え始めた。小さい声なのでよく聞き取れないが、手先にくるピリピリとした刺激を我慢するのに集中していた為に聴き取る余裕も無いザックだった!



あれから凡そ1分。使用人の


「はい!お疲れ様やした!!」


という掛け声で(ようやくか…)と溜息を吐いて手を離すザック。ディアナも似たような心境のようで、手を離した後はぷらぷらと触れていた腕を振っていた。


「これで、奴隷の主はうちの旦那からザックの旦那に書き換えが終わりやした。お疲れさんでやす!!」


と、お辞儀をした使用人は奴隷の主書き換え装置の水晶を再び棚に仕舞う作業に取り掛かった。


(このまま見ていてもしょうがないし、戻るか…)


と、ディアナに目配せをして退室することにした。ディアナは頷くと後を付いて来る。そして細かい契約を確認が終えたのだろう、コナンたちの元へ戻って来たザック。


「おお、滞りなく終わりましたかな?」


ジャックソンが訊いて来たので、


「多分ね。流石に人物鑑定なんてできないから確認はしてないけど…」


と返すと、ジャックソン自身が人物鑑定の魔法を使えるそうで、確認して貰った。


「…ふむ。問題なく、書き換えが終わってるようですな」


そして、1割引き後の「金貨207枚と銀貨70枚」の領収証明書を渡される。


「…もう支払ったの?」


「はい。滞りなく」


ザックは紙ぺら1枚の領収証明書をコナンに渡し、座ったばかりだが立ち上がり帰ることにした。


「じゃあ僕らはこれで」


「ザックの旦那。いい出物がありましたら連絡致しますぞ。御贔屓に!」


ジャックソンがそういうと、いつの間にか集まった使用人たちが壁際に立ち、一斉に頭を下げる。


「「「御贔屓に!」」」


ザックは(内心ビビっていたが)なるべく顔に出さずに


「また来るよ」


といってから辞去した。コナンとイブは流石に堂々としたもので、顔にも態度にもおくびにも出さずに軽く会釈をしてからザックに続き、ディアナは最後尾を付いて行く…



「…行ったか」


「行きましたな…」


ジャックソンたちは閉じたドアを見据えながら呟く。


「北の防衛ラインを任せられてから…どんどんでかくなるな」


「ですな…」


あんなガキが…と思ったのも束の間、大の大人にもできない高難易度緊急防衛クエストをこなし、北の護りを盤石な物にしたとも聞く…


「ひょっとしたら…あんな屋敷の使用人だけでなく、戦闘向きの奴隷なんかも必要になるかも知れんな…それも強く、決して裏切らねえ奴をな…」


「ですな…」


聞いた噂じゃ、ガチ戦闘向きの戦力はたったの1人。奴隷じゃないみたいだが、それじゃあいつか限界が来るだろう…。ゴーレムも居るという情報もあるが、指示がなきゃロクに動けない木偶じゃあいざって時に役に立たない。


「此処が抜かれたら、他の都市もヤバイらしいしな…」


「ですな…」


「ボス、他の商会から見繕いますか?」


黙っていた別の使用人から提案が上がって来る。


「…そうだな。コロシアムシティの闘奴であの坊主に何とか扱えそうなのが居たら見繕ってみるか。勿論、弱っちいのじゃ駄目だぞ?…魔物の群れに放り込んでもピンシャンしてそうな活きのいい奴を、な!」


大変な奴隷を押し付けられそうになりそうなザック。果たして、どうなることやら…



- ディアナ女医 -


「ディアナ、と申します…」


ジャックソン奴隷商会の自己紹介と一言一句変えずに使用人たちに挨拶する奴隷女医。気軽に挨拶を、と伝えたんだけど彼女としてはあれで気軽な挨拶なのかも知れない…いやわからんけどね!


「商会では顔合わせをしたが挨拶はまだだったな…我が主マイマスターの屋敷で執事を仰せつかっている…コナンだ」


「同じく…メイド長を仰せつかっているメビウスといいます」


以下、使用人たちが顔合わせと挨拶を繰り返している。元医者なので全員が世話になる可能性がある為、無理にでも仕事を中断して貰ってやってる訳だが…(一応、屋敷を出る前に連絡はしておいた)


「最後になったけど、僕がこの屋敷の主をやってるザックだ。なに爵だか知らないけど一応貴族みたいな身分でもあるね」


ノースリバーサイドの守り人というのは特殊な立場で、最底辺の騎士爵よりは上らしいけど特に何爵とかって呼び名は決まってないそうだ。唯、国境を守護する辺境伯なんかと同列にはなるらしい…魔物と人類の生存圏の境を護っているからなんだろうと思うけど…辺境伯ってどの程度の身分なんだろ?


「そうですか…で、そちらの方は?」


見た目からして妖精族みたいなシャーリーはスルーして、視線の先を見ると…


「レム。マスターの従者ゴーレム」


と、言葉少なに自己紹介するレム。ちなみにゴーレムの最後の2文字を取ってレムって名付けたんだけどね。何処ぞの双子の鬼の子の水色の髪の毛の美少女から名前を貰った訳じゃないよ!(元々護衛用の防御重視性能だし)


「はいはいはい!シャーリーよ!…レムと同じく、従者ゴーレムでーす!」


ザックの頭の上で寝そべっていたシャーリーが「此処は自分の出番!」とばかりに立ち上がって自己紹介をぶちかます。そのマスターであるザックの頭を足蹴にしてるのは自覚無しのようで、苦笑いをしているザックがそこに…


「…よ、宜しく」


ややびっくり顔のディアナが後退りながら挨拶を…どうやら2人ともゴーレムとは思わなかったようで衝撃を受けているようだ。特に、シャーリーがふわりと浮き上がって目の前に飛んで来た所を見て、「信じられない!」という顔をしていたのが印象的だった。まぁわからんでもないか…普通、ゴーレムって飛ぶ訳ないもんね。



取り敢えず、屋敷の案内と仕事部屋である診察室(兼、入院・手術室)を暇そうにしているメイドたちに任せてザックは自室に戻っていた。…いや、暇そうも何も、最初に誰かに任せるつもりでいい渡してたんだけどね。


「はぁ…これで福利厚生の一部は解決と…」


流石に初級の回復魔法やポーションだけでは全てを賄えない。一部の病気なんかは医者が必須となるだろうし。


「あ…薬の備蓄も必要だよなぁ…そうすると町の薬師かぁ…出費が嵩むなぁ…」


一応、ザックは薬草の採集経験はあるが全てを採集したことはない。寧ろ、この世界の薬草毒草のほんの一部しか採集したことしかないだろう。常備薬として必要な薬草の知識も足りてない。植物鑑定で「あるといいかも」と思った範囲でしか採集して来なかったのだ。


「取り敢えず、ディアナさん専用でアイテムボックス、創っておくかな…」


創造主と使用者のみ扱える、医療器具と薬、その他医療行為に必要と思われる物資のみを出し入れできる医療専用アイテムボックスを創造する。流石にザックには専門知識が無い為、使用者であるディアナさんが「医療行為に必要だろう」と判断した物のみ収納できると条件付けした。無論、ディアナさんが出先で何かトラブルに…出遭わないとは限らないだろうし…ということで、水や食料品も含めることにした。他、生活必需品は専用の包みに入れておけば出し入れはできるということに(流石に何が必要で不要かはわからなかったので…これが後にトラブルの原因になるとは予言者でもないザックには予想もできなかったのだが…)



- おまけ -


「お前は誰だ?」


「え…と、今日付けでこのお屋敷付きになりました、医者のディアナです。貴女は?」


「俺か?…主の護衛であるマロンだ」


「護衛、ですか?…メイドの恰好をしてるように見受けますが…?」


「護衛メイドだからな!」


「護衛、ですか…今日は見掛けませんでしたがどちらに出掛けていたのですか?」


「ダンジョンだ!」


「…は?」


その後、何でザックの護衛なのに日永一日ダンジョンに姿をくらませていたのか質問攻めに遭い、マロンは再び不機嫌になるのだった…チャンチャン♪


━━━━━━━━━━━━━━━

マロン 「別に屋敷の備蓄額が増えるんだしいいじゃね~かよぉ!」

ディアナ「それでは護衛といえないですよね?」

ザック 「ま、まぁまぁ…ストレスの溜まったマロンさんを屋敷に閉じ込めてたら危険なんで…」

マロン 「なっ!?…主は俺を何だと!!」

ディアナ「確かに…爆発寸前の爆弾を傍に置いてた方が危ないのかも知れませんね…」

マロン 「ひでぇっ!!」

ザック 「あ、あはははは…」

その他 (どっちもどっちだけど、殺気の漂った屋敷に居た方が怖いしなぁ…黙っておこ!)

※マロンに味方は居ないのか!?(パトリシアが置き去りにしたり距離を置こうとしたのもわからんでもないか(苦笑))


備考:

探索者ギルド預け入れ金:

 金貨712枚、銀貨802枚、銅貨1667枚(尚、両替を希望しなければ貨幣単位で加算される一方となる)

ストレージ内のお金:

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

総額(両替した場合の額):

 金貨1015枚 銀貨25枚 銅貨28枚

屋敷の備蓄額:

 金貨459枚、銀貨30枚(マロンの稼いできた換金額からディアナの購入金を差し引いた額)

 ※金庫に納めてある。金庫はザックの錬金術で錬成した特別製で屋敷のとある部屋に融合してあり、動かすことはできない(専用の魔法鍵でのみ開錠可)

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクB

本日の収穫:

 探索者ギルドでマロンの稼いだドロップ品(但し換金は後日)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る