21 その19

無事?にダンジョンから脱出した「息吹いぶく若草」チームは疲労でフラフラになりながらもダンジョンを管理している探索者ギルドに辿り着いた。そして奥の応接室に通されたザックたちはオサールと面会をする。ダンジョンで起こった全てを報告した頃合いにそれ・・は来襲した…。そして喧々諤々の攻防の末、現在探索者ギルド直営宿の裏庭に集合している面々。所謂「証拠を見せる」ということだが…。貴族っぽいおっさんの名前は通称「フレグナンス男爵」というらしく、木小屋ログハウスをご所望ということだったので、ザックの所持品以外と手渡すのが嫌な内装品の数々を回収してどうぞご勝手にということで裏庭に放置。果たして男爵は裏庭にギリギリ入った人間の手では持ち運べそうもない木小屋ログハウスをどうやって運び出すのか。人足を雇おうにも周囲は塀と宿の壁に囲われており運び出せそうもなく、宿の裏口は少々大きい人が通れるくらいしかない。こんな物を収納できるアイテムボックスを男爵は持ってないぞ!w

━━━━━━━━━━━━━━━


- 探索者ギルド直営宿・ザック自室 -


「うう…まさかお酒飲まされるとか…ないわ~」


朝、頭痛で疼く頭を抱えて最悪の目覚めを体験するザック。昨夜は某男爵に嫌な目に遭わされたのを忘れよう会をマシュウたちが開き、酔っぱらった勢いでザックも呑まされたのだ。流石に成人したばかりということで、エールを1~2杯程度だが…


「う~…頭痛い…解毒薬で利くかなぁ?」


と、以前ギルド内店舗で買った解毒薬を飲んでみるザック。暫くは効いた感じはしなかったが、1時間程経過すると嘘のように痛みが引いていき…


「おお、これって二日酔いにも効くんだ…」


と、新たな発見にも気付いたのだった!w



- 探索者ギルド・受付 -


「さて…と。準備はおっけー!っと」


ダンジョンに潜る準備を終え、宿から出るザック。勿論、朝の日課を済ませてから、朝食も食べ終えている。食料は粗方食い尽くしてしまっている為、厨房にて改めて弁当を注文し、そちらもストレージに収納済みだ。



「沢山注文してくれるのはいいが…」


と、少々苦情も聞かされてしまった。最初、100食分を注文したのだが、それだと他の人の弁当が用意できないと。未だ試作段階であり、それ程数は用意してないとか。ザックは、


(だったら僕が沢山注文してるんだしもうちょっと用意してもいいのになぁ…)


と思ったが、毎日買ってる訳でもない為に、そこまで冒険できないんだろう。探索者ギルドだけに何処か慎重な料理長だった!


「さと…50食分の銅貨100枚は支払ったし(銀貨1枚だと受け取らないんだよね…何でだろ?)」


次から次へと運ばれてくる弁当を巾着袋へ詰め込んでいき、宿を出たのだった。



「あ、ザックくん!お早うございます!!」


受付カウンターからリンシャが手を振ってザックに朝の挨拶をしている。当然のことながら、現在受付してる最中の探索者への作業は中断してしまう。そしてその探索者にじろっと睨まれるまでが最近の流れである…


「あ、お早うございます…」


ぺこりと会釈して掲示板へと足を運び、後頭部に刺さる視線…いや、死線?…を痛く感じるも、敢えてスルーして依頼票を眺めるザック。


「ん~…やっぱり大した依頼は残ってないかぁ…」


早朝の依頼票争奪戦には参加したことのないザックは、以前なら主に常設依頼しかこなしたことがない。そんなことをしてるよりも朝の日課をこなす必要があったからだからだ…一応、今でも裏庭で筋トレや剣の素振りは可能な限り毎日こなしている。最初は100回の素振りすら覚束なかったが、今では1000回の素振りも余り汗も掻かずにこなせるようになっていた。探索して戦闘を経験した今では単純な振り下ろし以外にも色々と試してはいるが、正式な剣術を習った経験がないザックには偶々見たことのある別の町の剣術道場の練習風景を思い出して振るくらいしか無かった。それでも対人戦でもしない限りは通用するのは幸いした。そこまで知性を備えている魔物の個体が、マウンテリバー周辺には存在していなかったのだ。


「仕方ない。マシュウさんたちを待って一緒に行くかな?」


ザックはギルドの外に出て、「息吹いぶく若草」チームの面々を待つことにしたのだった!(マシュウたちはギルドの宿ではなく一般の探索者・冒険者向けの宿に泊まっている為、ギルドの外からダンジョンに潜りに来るので邪魔にならずに待機=外で待つことになる)



- 待ちぼうけ確定になる凡そ1時間後… -


「ふわぁぁぁ…マシュウさんたち、今日は来ないのかな?」


あくびを噛み殺しながらザックが背伸びをする。単純に待つだけででは退屈なので、例の砂をストレージの中で疑似ミスリルインゴットに物質変換をしながら待っていた。唯、魔力を大幅に減らしても後々困るので時間を掛けてゆっくりと、魔力の回復速度を上回らないように消費速度を抑えながらの錬金術行使を試してもいた。お陰で、純度がより向上した疑似ミスリルインゴットが精錬でき、錬金術スキルのレベルアップが達成できたのだ(勿論、これは生活魔法の土属性の派生スキルであって、本職の錬金術ではない。あれは等価交換で価値の等しい物を等しい物にしか変換できない。そしてこちらのそれは、マナ含有量の多い砂からより低価値への変換しか行えない為、錬金術というのも烏滸がましいともいえるのだった)


「あれ?」


マシュウたちの泊っている宿の人…所謂従業員の人が歩いて来るのを見つけるザック。その人はザックを見つけると手を振って走ってくるのだった。


「どうしたんですか?」


一応「お早うございます」と挨拶を交わしてから質問すると、


「ザックさんですね?…実は」


と、かくかくしかじか…と説明を受ける。勿論、本当にそう話した訳ではないけどね?


「は、はぁ…全員、頭痛でダンジョンは無理と…」


昨夜、あれだけ呑んだらそうなるよな…と納得の理由だった!


「わかりました。では、お大事に…と言付け、お願いします」


従業員の人は、ぺこぺことお辞儀をしてから宿へ帰って行く。別に彼女が悪い訳じゃないんだけど…


(うーん…まぁいっか。取り敢えず目指そう!…第4階層ってことで!!)


後、別にいわなくてもいいんだけど、木小屋ログハウスは裏庭から撤去されてた。塀が一部破壊されてたけどね…。井戸は、隅っこにあったので破壊は免れてたから良かったけど…あれ、誰が直すんだろうねぇ…。後、木小屋ログハウスに掛けた防御力強化の魔法はそろそろ効果が切れると思うんだけど、いいのかなぁ?…まぁ知ったこっちゃないか。代金も貰ってないし、ね。



「マシュウたち、今日は二日酔いで宿で寝込んでるってよ!w」


「ぎゃははw…じゃあ、あの小僧は今日はソロってことか?」


「俺らのリンシャちゃんを独り占めしやがってよぉ!…ったくいまいましいったら」


るか?」


らないでか!?」


そんな物騒な会話を交わしていた探索者たちがギルド内部に設けられた酒場から次々と立ち上がり、今まさにダンジョンに入って行くザックをギラギラした目で追って、こくりと頷き合うと少しの間を空けてから次々とダンジョンに向かうのだった…



- そして時はあっという間に過ぎ去り、第3階層の草原 -


「ふう…やっぱしドロップ品の回収を1人でやると効率落ちるなぁ…」


かといっても運搬者ポーターを雇うにしてもザックの足について来れる者をとなると相当レベルの高い者でないとならず、そんな有能な運搬者ポーターは高レベル高ランクの冒険者や探索者に引っ張りだこだ。ランクCになったばかりのザック。しかも見た目は年少の子供に雇われる運搬者ポーターは居ないだろう。そんなザックは第2の木小屋ログハウスを創るべく、草原の中央付近の林へと足を運んでいた。


「じゃ、ちゃちゃっと創りますか…」


木操作ウッドクラフト木小屋生成ログハウスクリエイトを用いて最初より高効率で木小屋ログハウスを生成する。そしてより頑丈で軽量で丸太を高圧縮して小さく成型した2階建ての木小屋ログハウスが出来上がったのだった。


「うん…これなら邪魔されずに寝られるかな?」


ザックの寝床は2階に設置し、1階はキッチンとリビングと客用の寝床兼用にした。共用の荷物入れの狭い部屋も1階に作ってある。1階は多用途にした為、以前の木小屋ログハウスより広く作ったので宿の裏庭には置けないだろう。裏庭は横には広いが縦は狭い長方形で、この木小屋ログハウスは縦幅がはみ出るくらいには大きいからだ。2階は以前の物と同程度の広さで、ベッドと物置と机を置いてもまだ余裕はある。他に廊下と階段のスペースがある為、部屋はそれを差し引いた広さしかないので大人が4人雑魚寝…は無理ではあるがw


「追加で作ったのは2階と1階のキッチンとトイレとシャワー室と。流石にお風呂は無理があるしね…」


長期間生活する場合はトイレや汗や汚れを流すシャワーは必須。料理を作るにはキッチンも必要だろう。以前の木小屋ログハウスは寝れればいいや程度で思い付きで作った為、最低限度のスペースしか無かった訳だ。


「一応、1階にシングルサイズのベッドも4つ据え置いたし、マシュウさんたちが来る時はこれで安心かな?…ま、今日は来れなさそうだけどね」


くすくすと笑いながらザックは最後の仕上げに入り、防御力強化を付与する。これはほぼ永続的な付与魔法であるようにと樹属性と土属性の合成で掛け、仕込んである魔石で消費魔力の補填をする為に空気中や中の人間から僅かづつマナを貯め込み、別の魔石で付与魔法の維持を務める。勿論、外部からの攻撃から魔石を保護する為に、木小屋ログハウスの大黒柱に埋め込んである。


「んじゃ収納してる時以外は稼働っと…」


特にコマンドワードは設定しておらず、こうして外に出してる間は常に稼働するようになっている。おまけの機能で、1代目木小屋ログハウスと同様に外部に接近するモノがいると警告音(小)が。敵意を持つモノが接近すると警告音(中)が。攻撃しようと接近するモノが接近すると警告音(大)が鳴るようになっている。


びーっびーっびーっ


(警告音(中)?)


1階に居たザックがドアを閉めて2階に駆け上がる。ドアは自動施錠され、人間の範疇のモノならば、この木小屋ログハウスは無敵要塞と化した。流石に大型の魔獣などの攻撃までは防げないからだ(とザックは思っているw)



「誰が来たんだろ…」


2階の自室の窓から下を見下ろすザック。1階の窓は1代目と同じく人の頭程の大きさの丸いガラス窓しかないが、2階はもう少し大きめの丸いガラス窓が設置されている。どちらも矢程度では打ち破れない程の強度を持っていて壊すなら破城槌でも持って来ないとダメだろう…尤も、防御力強化が掛かっている間はそれすらも無効化する。


「…また人?」


一瞬、マシュウたちが追って来た…と思ったが、それにしては人数が多いし全員男だった。


「見慣れない人かな?…いや、どっかで…」


記憶を探っていると、声が近くなっていた。大人たちはガサツなダミ声でこう叫んだ。


「いよぉ!…坊主。そこに居るんだろ?…へへへ…出て来いよ?」


声は聞き覚えがないが、2階から見下ろしてみると酒場にいつもタムロしている探索者の1人だとわかった。他にも2~3人は見覚えがあると認識する。


「よぉよぉよお!…いつもいつもリンシャちゃんと仲良くしやがってよおっ!…出て来いっていってんだよ!!」


そう叫んだ1人が剣を抜いて壁に叩き付ける。が、既に防御力強化のバフは掛かっている為に剣を弾き返したたらを踏ませていた。


「な、何だこの小屋…無茶苦茶固ぇぞ?」


「ふざけんな!」


げしっ!と殴るが痛いだけだと思う。その証拠に拳を擦って痛がっている殴った本人が涙目であるw


「くそおお!…籠城するってんならこっちにも考えがあるぞ?」


にやり、と笑みを浮かべたおっさんが呪文を唱えている。


(あれは…火属性の魔法か…多分、火矢魔法ファイヤーアロウかな?)


やや拙い詠唱を終え(しかも10数秒も掛けて!)ニヤリと凄みを効かした顔で宣言する。


「ふぁいやーあろう!」


と。


ぼひゅっ!


という音と共に何とも不安定な矢の形を象った炎が現れ、普通の矢と同じか遅い速度で飛んだそれは…


ぽひゅっ…


という音と共に木小屋ログハウスの壁の表面で弾けて消え失せる。


「「「なっ…」」」


顎が外れんばかりに驚く見た目ごろつきの探索者たち。


「んな馬鹿なっ!?」


術師のごろつ…探索者は絶叫する。だが、驚くのは無理もない。地上産の木材なら、先程のどうにも頼りない火矢魔法ファイヤーアロウでも突き刺さり、燃やすことはできるのだ。何の加工もしてない木材ならば、だが。だが、ここはダンジョンの中で、木小屋ログハウスの材料として使用したのはダンジョン産の木。これが普通の木である筈も無い…。魔法の火であっても、中級以上の火属性魔法でないと着火すら覚束ないのだ。例え薪を周囲にくべて火を点けても、普通の炎では1日中燃やしたとしても焦げる程度だろう…(中の人間が酸欠か高熱で倒れる可能性は別として)


「どうやら何か仕掛けがしてあるようだな…こうなったら火責めだ。おい!薪を周りに積むんだ!!」


「「「おう!」」」


斧持ちの探索者が周辺の木を伐採する為に散っていく。だが、攻撃力が上がる付与でもされてない限り、普通の鉄製の斧では1本2本なら兎も角、すぐに刃こぼれして使い物にならなくなってしまう。


「なっ…まさかとは思うが、こりゃ…魔木かっ!?」


「何だ?…その、「魔木」ってのは」


「魔力が浸透した木のことをいうんだ。普通の斧や剣じゃあすぐ刃こぼれしちまうくらい頑丈でな。尚且つ燃えにくいってんで金持ちの別荘宅なんかによく使われてる。唯…道具がすぐ破損するんで腕のいいきこりじゃないとコストが嵩むんだよ」


「ほう…んじゃあこの木を伐採して持って帰れば一躍大金持ちになれるって寸法か?」


「いやぁ…それがそう簡単な話しじゃないんだ。製材所も無いここで加工できるか?」


「…まぁ無理だろうな。魔物も襲ってくるし…」


「だろう?…伐採するだけでも斧が破損するつーのに、短めにカットするだけでもまた別に道具が必要になる。誰か大容量のアイテムボックスでも持ってりゃ別だがよ…」


やいのやいのと口論?を始める探索者のおっさんたち。ザックは今の内にこの場を去ろうかなと2階から1階に降り、再び外を覗き込むが…


(う~ん、木小屋ログハウスの周りを囲まれてるなぁ…どうやって脱出しようかな?)


無理やり脱出することは可能だが、どうして自分をつけ狙っているのか想像が及ばないザックは余り暴力沙汰で解決はしたくないなと思い、脱出方法に頭を悩ませるのだった。



どうにかしてことを荒げないように脱出する方法を…と悩んでいたら、うっかり寝てしまったようだ。よだれを拭いて外を伺うと、外のおっさん連中はまだ声を大にして争…ってはおらず、単に大声で相談らしきことをしてるようだ。


「…成程ね」


どうやら相談事?は、この第3階層中心部に生えている木を伐採し、如何に持って帰るか…ということらしい。だが、それに関しては幾つか問題がある。



1.伐採の道具の問題

2.傷付けることなく持ち帰る算段



1については魔法か魔法の武器を用いれば問題はない。だが、外に居るおっさんたちにそんな上等な武器を持っているようには見えず、斧持ちの者も破損しているように見える。火矢魔法ファイヤーアロウを撃った術師のレベルでは焦げ目すら付くか怪しいし、売り物にするなら火属性魔法はアウトだ。


2については丸太の状態ではなく、製材して板にすれば持ち帰れるだろうが「傷を一切付けることなく」というのは難しいだろう。道中では魔物が跋扈する第1~2階層が待ち受けているし、第3階層でも途中でウルフに遭遇しないという保証もない。また、製材するにしてもそのような道具を持ち込んでいるようには見えない。


(しかし…何で僕をどうにかしようって話しからそんな話しにとんだんだろうね…)


寝ていた為にその辺の経緯が不明だが疑問に思わないでいるのも難しいかも知れない。そして木小屋ログハウスに一斉に目を向けるおっさんたち。ザックはぎょっ!としたが、籠城すれば先に疲れるのはあちらだと思い覚悟を決める。外に居れば何日か置きにはウルフが襲いかかってくるだろうし、そうなるといつかは逃げ出してしまうだろう。相手方に食料にもそんなに余裕はあるようには見えないというのもある。


「…おい、そこの!」


また大声で怒鳴ってはいるが、最初の頃のように怒気を孕んだりはしておらず、単に大声といった感じだ。まぁ、こちらが室内に引き籠っているから普通に話しても聞こえるかどうかわからないからなのかも知れないが。


「…」


どう対応していいかわからず取り敢えず黙っていると、


「返事しやがれ!この小童こわっぱが(べしっ!)あ痛ぁっ!!…何すんじゃこのボケがっ!」


「ボケは手前てめえだ。怯えさせてどうする!」


黙っていたら1人が切れかかって誰かが突っ込んでいた。何やら最初とは雰囲気が違うようだとザックはまだ様子を見続ける。


「あ~…すまん。俺らの仲間が短気過ぎていかんとは思っているが…」


探索者は短気ではやっていけないと思う。忍耐が必要な場面の何て多いこと…などと思っていると、また続きを話し出すおっさん。


「その見事な小屋を見るに君は魔木を伐採する能力、製材する技量、加工技術を持っていると見受けられる」


いえ、全部生活魔法の恩恵です!(嘘付け!…と聞こえた気がするが、スルーするザック)尚、心の声であり、声には出していない。


「我々にはこの魔木を高値で売る伝手がある。どうか、手を貸して欲しいのだが…どうだろう?」


うん、仮にそんな伝手が在ったとしてもどうやって運び出すつもりなんだろうね…世の中、美味い話しには裏がある…というし、とっても怪しい。


「勿論、何とかして運び出す手立てを考えるつもりだ。悪いようにはしない…手伝って欲しいのだが?」


(つまり、此処に生えてる木が魔木って奴で、高く売れると踏んだおっさんたちが僕の木小屋ログハウスを見て…)


「こいつ、魔木を伐採・加工する何らかの手段を持ってるぜ、後は持ち帰る手段を何とかすれば大金持ちだぜ、ひゃっはー!」


(…と気付いたってことでいいのいかな?)


別に伐採して板にでも加工させようとか考えてるのだろう。それくらい別に手数料を弾めば1日くらい手伝うのもやぶさかではないが…


(このおっさんたち、最初は僕を害しようとしてたんだよね。そこは忘れちゃいけない…)


…そう。どんな理由かは不明だが、ザックを脅すなり殺害しようとするなりの意志を以て追いかけて来たのだ。ザックはそんな大人たちを油断なく見詰め、こう答えた。尚、拡声の生活魔法を用いて木小屋ログハウスの外へと、呟くような声を届けてだ。


「おじさんたち、僕を殺す為に来たんでしょ?…どうしてそんな手伝いをしなくちゃいけないの?」


と。良心を持っていればぐっさりと心に刺さるように見た目年齢通りよりやや幼い口調でだ!(大抵の小さい子に弱い大人なら、これでクリティカルな精神ダメージを負うのだが…)


「…ぐ、そ、そんなことは…無いぞ?」


一部のおっさんたちが胸を抑えて悶える中、殆どのおっさんは平気な顔でこう答えた…


「あはは…馬鹿だなぁ…だからガキだってんだ。ガキは俺らのいうことには絶対服従って昔から決まってんだよ!」


と。多少の言葉のブレはあったが、大体はこんな感じの内容が聞こえてきた。中にはストレートにリンシャのことをネチネチとぶつけて来た者もいるが…


(はぁ、やっぱそうかぁ…殺すのは忍びないし、一応同じ探索者だしね…手加減するしかないっかぁ…)


だがその前に斃すべきモノが居た…ウルフの群れだ。警告音(大)が鳴り響き、拡声に乗って外にも流れていて何人かびびっているのが見えるが…そんなことに気にせずにザックは外に出る。


がちゃ!…ばたん!…がちゃ!


開錠してドアを開け、外に飛び出すザック。ドアは自動的に閉まって施錠される。


「出てきたな!止まれや…っておい!」


静止の声も気にせずに加速するザック。その先にはもう目に見える距離に見える土埃りを上げる大きな群れが居る。


「なっ!…何だありゃっ!?」


「ウルフ、だと!!」


「おい!迎撃態勢を取れ!!」


「っと待て!即席の集まりにんな命令されても…」


探索者おっさん即席チーム、大混乱である!…そんなおっさんたちに目もくれずにウルフの群れに接近したザックは、風属性の派生…空気属性の魔法を発動させる。先程の拡声の派生である空気振動魔法だ。術者の声を自分を中心に周囲へと大音量で震わせて、主に相手の三半規管を揺らして行動を阻害する効果がある。乱戦で耳がいい獣型魔物に有効な魔法でもある。


「俺の声を聞けーーーっ!!!」


何処かで聞いたフレーズを大音量で発声させて、ウルフたちは


ぎゃんっ!?


と鳴いて苦悶の表情となり、耐え切れなかった固体から倒れ伏していく。今まで使ったことはないのだが声の伝播する範囲が不明であり、第1~2階層は人が多かったこともあって影響があった場合は最悪、他の探索者が動けなくなることにより命を落としかねなかった為だ。だが、此処第3階層は調査中で立ち入りが禁止されてる訳ではないがほぼ人が居ないことと、自分ザック以外には自分ザックを害しに来た者しか居ないことを確認しており…つまりはお試し巻き込みし放題…ということでもある。


「あ…が…」


どさっ…と、最も近くにいたおっさん数人が倒れていた。体がぴくぴくしているが目は普通に動かして自分の状況を確認していることから命には別条は無いようだし耳から血を流しているということもない。


(ふぅ…有効距離も確認できたな…大体50mって所かな?)


普通に考えればとんでもない効果範囲だ。直径100mの有効効果範囲は上級魔法よりも広く、特に耳のいい獣型魔物に対しては無敵を誇ってもいい。倒れ伏し、動けない相手など…コアが動かせなくなったスライムのコアを捥ぎ取るよりも容易いのだから!


「じゃ、サクサクって回りますかね…」


短めの剣ショートソードを抜き、サクサクと首筋や眉間に剣先を刺しながら歩くザック。ウルフたちが光りとなって消えドロップ品を残したら回収し、次のウルフの元へと歩く。そんな非現実染みた光景を見ていたおっさんズは怯え、


「お、俺たちは…あんな鬼神をどうしようとしてたんだ?」


「お、俺は知らん。何も知らんぞ!?」


「や、やばい…逃げ、逃げるぞ手前らぁっ!!」


と、腰が引けつつも倒れ伏したウルフを相手にぷすぷすと短めの剣ショートソードを刺して歩く中、探索者のおっさんたちは動けない者を担ぎ、或いは腰が引けつつ逃走を開始するのだった…ビビり、多過ぎ?w


━━━━━━━━━━━━━━━

臆病なことはいいことだ。それだけ危険を遠ざけ、生き残る確率が上がる…とよく聞くが、ビビり過ぎるとザックは思った。だけど無用な殺生を避けるにはいいかも知れないとも思う。



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨170枚、銀貨70枚、銅貨1215枚

財布内のお金:

 金貨1枚、銀貨58枚、銅貨53枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 探索者ギルド直営宿謹製・仕出し弁当50食(銅貨100枚)

 ※今回はデラックスハンバーグと野菜とパン・スープのセット

ザックの探索者ランク:

 ランクC(変化なし)

本日の収穫:

 ※飲料水生成魔導具…大金貨1枚(未だ未確認の為保留)

 ※前回のダンジョン遠征?の分配金はマシュウたちがグロッキーでダウン(但し飲み会での二日酔いが原因w)してるので後回し(分配予定金額は銀貨47枚 銅貨48枚)

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