19 その17

ダンジョン再び!…ってことで、休息日明けに「息吹いぶく若草」チームの4人と潜りに行くザック。今度こそ第3階層で足踏み記録を伸ばすことなく第4階層へ!…と意気込んでいたものの、ザックではなくマシュウたち4人の為に第3階層に籠る羽目になったという…。但し、持ち込んだ食料の量が前回の余剰分を合わせて5日分程度しかなかった為、4泊5日で地上へと戻ることとなったのだった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- ダンジョンに籠ってから5日目の朝…と思われる時間帯 -


「はいはいはい、起きてくださーい!」


鍋をお玉でごんごんと叩いてぐったりしている年上のおっさんたちとお姉さんたちを起こす成人前に見える子供が1人。きっちり成人済みなのだが見た目年齢が16歳を下回っている為に子供扱いされ勝ちだ。本人は余り気にしてないが、成人してないと困る場所への出入りや、探索者ギルドで知らない探索者から揶揄われる時などは自らの未熟ボディに嘆息することも。


「「う゛う゛…」」


日々、訓練で泥のように眠る男性陣は唸りながら何とか体を起こしていた。次は女性陣を起こさないと…と思い、木小屋ログハウスへと足を向ける。ちなみに、男性陣は女性陣の強い要望で、ザック所有の木小屋ログハウスとは別に小屋を用意して、そちらで寝泊まりして貰っている。同じチームメンバーとはいえ、雑魚寝は嫌なんだそうだ。


「はいはいはい、起きてくださーい!」


木小屋ログハウスに入り、ザック用のベッドではなく床に敷いたマットに毛布を掛けただけの女性陣が仲良く寝ている所を問答無用で起こすザック。木小屋ログハウスの所有者ということもあるが、まだ子供に見えるザックは安全と見られているのか、同室での就寝が許可されていた。尤も、ザックからしてもガサツな年上の女性に接近するつもりもないし、そんなことをしたらサクヤとリンシャの報復がその生命を脅かすと骨身に染みている為に、無謀な行動を起こすつもりもない。


(唯でさえ、失明になったばかりだしなぁ…)


魔眼を創造して代わりにすることも可能だったザックにしてみれば、目が復活して面倒を避けられた程度にしか思ってないが、周囲はそれどころではなかっただろう…。ダンジョンに籠っている間、地上ではどんな騒ぎが起こっているのか知らないのは幸いなのか、それとも…



「はい、弁当はそれで最後なのでしっかり食べてくださいね…ほら、そこ寝ない!」


流石にダンジョン内にお風呂は造る余裕はなかった。ので、ザックの生活魔法で創り出したお湯を大き目のタライに満たして代わりばんこに体を洗って貰っていた。ダンジョンに5日も籠っていた割には臭くないし清潔な体を保っていると思う。マシュウたちは疲れが抜けない表情でぽそぽそと弁当を食べている。勿論、探索者ギルド直営宿の厨房で作った仕出し弁当だ。5日の間、毎日同じメニューだが味付けの調味料だけ少し変えながら加えておいたので飽きられずに済んだが、感想文をそのまま提出していいか困ることとなった…一応、「その辺は料理長に説明しなくちゃならないかなぁ?」と思いつつ、ザックも弁当を食べていた。その時だ…


『ぴりりりりりり…!』


「!…え、何これ…」


突然の警告音にジュンがガタッ!と立ち上がって緊張感を露にして呟く。


「…静かに。外に気配があるな」


マシュウが警告する。ジャッカルが頷いてガラス窓に寄ってそ~っと横から外を見ている。


「あ、その…。結界があるからそのまま見ても問題ありませんが…」


ザックが攻撃されたとしても問題無いというが、


「いやな…顔を見られたら不味いかも知れないだろう?」


と、マシュウが説明する。ザックは「あ…」という顔をする。そこまで気が回らなかったらしい。周囲に近付いているモノが前回木小屋ログハウスを攻撃してきた人間だった場合、また問答無用で攻撃を仕掛けて来ないとも限らない。


「…数は6。人間のようだな…。全身鎧の重戦士っぽいの。軽戦士風の剣のみの…あ、いや。腕に小盾か?…。狩人っぽい弓矢を装備した奴。術師っぽいのが2人。後、職種はわからんが、偉そうなのが1人、だな」


(偉そう?)


ジャッカルの言葉に小首を傾げるマシュウ。だが、以前攻撃を仕掛けた者たちと同じかは不明だ。問答無用で攻撃してくるような探索者はマウンテリバーに在籍していたとは思えないが、他の町から来た者ならば全員が全員とはいわないがそのような非道を行う可能性も無いとは限らない。


「あ…結界石の結界にぶつかりましたね…偉そうなのが怒りだして…殴りつけてる?」


ジュンがジャッカルとは反対の窓の端から外を観察している。いってる通りなら、その偉そうな人物は余程短気なのだろう。


「術師らしい者が前に出て…攻撃魔法を放ち始めました…普通、こんな怪しさ満点の木小屋ログハウスに無駄な魔力を消費させるかしら?」


ジュンが溜息を吐きながら疑問を呈している。ちなみに、今回防御機構として設置した結界石は以下の能力を持たせている。



1.専用の呪符を持つ者と設置者を自由に出入りさせる(逆に何も持ってない者は侵入を拒む結界となる)

2.無理に入ろうとしても人間の能力値や第3階層の魔物なら大抵は入れない

3.物理的攻撃・魔法的攻撃はその威力にも依るが減衰反射を施す。余り強力な攻撃の場合は攻撃者が怪我を負うし、周辺の者にも余波で怪我を負う可能性もある

4.結界維持に必要な魔力は中の者や周辺の空間から吸収して補う。攻撃魔法がぶつけられた場合、減衰分を吸収する為に長く維持を行える設計



「…早くも攻撃魔法をぶつけてるなら、放っておいても問題ないですよ?」


(逆に術師の魔力が無くなってウルフたちの餌食にならなきゃいいけど…)


そんなことを考えながらザックは残りの弁当を食べ終えて、「出発が遅れるから早く食べて下さいね?」と、マシュウたちを急かすのだった。ちなみに、パトリシアは黙々と弁当を食べ続けていたが、少しづつ味わいながら食べてたので結局最後に食べ終わるという…「探索者に向いてないんじゃね?」とザックが思ったのも無理はないだろう…


「いや、いつもはバクバクと早食いするんだけどな?」


とマシュウが後で語っていたが、恥じらいで顔を赤くしたパトリシアに怒涛のボディブロウを喰らわされていた…。いや、怒ってたのかも知れないが怖くて質問はできなかったザックであった…南無>マシュウ



- 第3階層を出立しようとするザックたちに立ち塞がるモノ -


「じゃ、仕舞うけど忘れ物はないよね?」


木小屋ログハウスから全員出て、忘れ物の確認をとるザック。「息吹いぶく若草」チームの4人がザックを護衛の任務で…の筈だが、マシュウがチームリーダーの筈だが、どう見てもザックがリーダーに見えてしまう光景…。そして、4人が「問題ない」と頷き、確認したザックが木小屋ログハウスと小屋と外に置いてある諸々を収納する。


「…あの、まだ例の連中がいるんだけど…」


ジュンが結界の外に居る6人を迷惑そうに視線だけを向けて訊いて来る。


「散発的にですが、まだ攻撃魔法を放ってますね…」


パトリシアが魔法を物珍しそうに見ていると、偉そうな人物がこちらを睨んで来て、「ひぃっ!?」と短く叫んでザックの背後に隠れる。


「…パット、せめてマシュウの後ろに隠れろよ…」


ジャッカルの突っ込みに、「えへ、えへへへ…」と苦笑いで返すパトリシア。すっかり上下関係が構築されきった態度でもある…哀れマシュウ。


「あ~、ちょっといいか?」


「はい?」


ザックに頭をがしがしと掻きながらマシュウが質問する。何をいいたいかはわかっているが、敢えて応じるザック。


「あれ、爆炎魔法ファイヤーボールだよな?…全っ然、破裂音とか聞こえないんだが…ひょっとして、音も遮断してるのか?…この結界」


「えぇ、そうですよ。だって五月蝿いじゃないですか…」


マジか…といった表情でマシュウが驚くが予想はしていたお陰で声は出さずに済んだ。とんでもない性能の結界だなと思いつつ、


「そうか…で、そろそろ出発だが、結界を解除したら…」


攻撃を仕掛けている6人を見ながら話すマシュウ。


「攻撃魔法がこちらに飛んで来ますね?…痛そうだから解除したくないですが解除しないと戻れませんし…どうしましょう?」


と、心底困ったというザック。


「取り敢えず、声が聞こえるようにしたらどうだ?」


ジャッカルが初めて口を出す。双方の声が聞こえなかったら、交渉もへったくれもない…ということで意見を具申したのだが…


「じゃあ、人間の声だけ聞こえるようにしてみますね?」


と、結界の調整に入るザックだった。


(((調整できるんかーいっ!?)))


4人の心の声がシンクロした瞬間だった。だが、ザックとしては大声で起こされるのも嫌だったので、全ての音をカットするように設定していたのだが、そんなことは誰もが予想の埒外だろう…



「またあの小屋か…一体幾つあるのかね!?」


「いえ、未調査なのでわかりかねますが…」


「だったら調査したらいいだろう!?」


「ですから、こうして調査しているのですが…」


偉そうな人物が短気を起こして怒声を上げている。彼はマウンテリバーに住むとある貴族で、他の5人はその貴族に雇われた冒険者たちだ。数年ぶりに改編が行われたというので調査という名目で我先にと新しい宝箱の入手や、改編によって様変わりした魔物のドロップ品を得ようという訳だ。ダンジョンは主に探索者たちの領分だが、金さえ払えば冒険者でも入ることは可能だった。


「…全く忌々しい。先日も同じような小屋があったが…」


「あの時はモントレを回避しようと侵入しようとしたんでしたね」


「ああ!…だがドアがあるのに開かないとは!…全くわしを拒絶するとは怪しからん小屋だ!…小屋の癖に!!」


(だからといってすぐ攻撃魔法で破壊するのもなぁ…)


術師が黙ってそう思っていたが、魔力が殆ど枯渇しているせいで気分が悪く、気を抜くと倒れそうになる。


「気分が悪いのでしたら、座っていてもいいのですよ?」


「あ、でも…」


小声でぼそぼそと会話していると、偉そうな人物がギロリ、と目を剥いて睨んできた。


「魔力が回復したなら、さっさと攻撃せんか!…ったく、結界の解除ができんからこうして無駄な時間を…」


と、怒られる攻撃魔法使い。神聖魔法使いも結界解除の法術が扱えないと扱き下ろされてしゅんとしてしまう。


「普通はそんなに連続して魔法は使えませんよ。無理をさせると命に関わりますし、今は休憩を…」


と怒鳴っていると、盾持ちの重戦士が声を掛ける。尚、リーダーは軽戦士の方だ。


「…あれを見てくれ」


「あぁっ!?…おお、人が中に居たのか。幾ら怒鳴っても攻撃しても動きが無いから無人だと思ってたが…おい!」


実はこちらから見えるガラス窓には中の人の顔が僅かに見えていたのだが、ムカツク態度ばかり取るこの貴族さま無能なおっさんには報告を入れてなかった重戦士だった。だが、流石に見える場所に出て来た者が居たならば報告をせざるを得ないだろう。


「聞こえんのか!?…貴様ら、さっさとこの邪魔な結界を解いて出て来い!」


怒鳴り散らす貴族仮初めの主人に、冒険者たちはこう思った。


(多分、声も遮断されてるんじゃ?…つか、よくあれだけ怒鳴って声が枯れないよなぁ…)


とw


そして、何かを会話してる中の5人。こちらをチラチラ見ながら相談しているように見える。


「何か相談してるようだが…」


どぉんっ!


爆炎魔法ファイヤーボールを散発的に放つ攻撃魔法使い。MPポーションを飲み、ようやく魔力が回復したようだ。だが、姿を現わした前で結界を攻撃させるのは如何なものか…


「攻撃やめさせた方が良くないか?…敵対行動を取ってると、絶対反撃を喰らうと思うんだが…」


重戦士が誰ともなく呟くが、貴族は聞く耳を持たないようで相変わらず怒鳴り続けている。


「あぁ…だがなぁ。仮初めの主人があれだろ…何考えてるんだか…」


と、狩人がぼやいている。最初に矢を1発だけ放ったのだが正確に反射してきた為、「絶対無理。魔法攻撃の方がまだマシ!」と、2射目以降は拒否したのだった。そのまま同じ位置に立っていたら、体の何処かを撃ち抜かれて死ぬと本能で悟った狩人だった…


(あ~…魔法ダメージは余り無いけど…また魔力枯渇で倒れそう…)


連射の速度と込める魔力を抑えて、見た目だけ派手な爆炎魔法ファイヤーボールを散発的に撃ちこんでいる攻撃魔法使い。最初の1撃だけは普通に撃ち込もうと思ったが、狩人に耳打ちされてそれは止めたのだが正解だった。


「まともに撃ち込もうとするな。死ぬぞ」


と耳打ちされたのだ。最初は「何いってんだか?」と思ったが、ならばと見た目だけ派手に燃え上がるけど殆ど魔力を込めない爆炎魔法ファイヤーボールを構築して撃ち込んだ結果…派手な火炎が反射して空中に燃え広がって肌に軽い火傷を負うことになった。お陰で、治療に時間を取られて距離を取らざるを得なくなった。


(もう少し控えめにしておけば良かったかな…)


唯、これ以上派手なエフェクトを控えめにするのは無理、だろう。最初から控えめにしておけば良かったんだけど…。少なくとも、魔力枯渇までは撃ち続けないといけない。流石に死ぬまで撃ち続けろとかいわれないよね?



「あの~…」


攻撃が止まって、術師が倒れそうになってへたり込んだ所を見計らって、静寂の結界を解除(防御結界は全開のまま放置)して声を出したザック。


「そんなへっぴり声だと聞こえないんじゃないか?」


ジャッカルが突っ込む(何そのへっぴり声って…へっぴり腰の声バージョンだろうか?)


「仕方ないな…そこの人!…攻撃は止めて頂けませんか!?」


マシュウがここぞとばかり大声で叫ぶ。全員、耳キーンで両耳を抑えてます、はい。


「…ど戯けが!…そんなに大声で怒鳴らなくとも聞こえるわぁっ!!」


怒られました…少し距離があるんだけど、やっぱりうるさいんだ…あはは。


「良かった。言葉は通じるようだな…」


ホッと安堵するマシュウ。でも、「声が聞こえて会話できる」と「話しが通じる」は似てるようで違うと思うよ?


「貴様ら!…さっさとこの邪魔な「結界」を解除してそこを…そこを…小屋は何処にいった?」


偉そうなおっさんが口をパクパクさせながらきょろきょろしている。あぁ、さっき攻撃魔法が炸裂した瞬間に収納したから気付かなかったんだね。


「ねぇ…小屋のこと訊いてるけど…」


「若しかして、小屋って木小屋ログハウス?…休もうとしたのかな?」


ジュンとパトリシアがぽそぽそと話している。相手に聞こえないように小声だけど聞こえない会話をしているのは見えてるからバレますよね?


「そこぉっ!…何をこそこそと…小屋は何処に隠したと聞いてるんだ!」


ずかずかと近寄ってくる偉そうおっさん。流石に結界に近寄ってくれば魔法攻撃は無いかな?


「はぁ…ひょっとしなくても、あの人。木小屋ログハウスを奪って休もうって思ってるのかな?」


ザックが溜息を吐いて予想を声に出してみる。


「…多分な」


ジャッカルが同意し、ジュンとパトリシアがうんと頷く。


「面倒だな…いっそ逃げるか?」


マシュウが頭をがりがり掻きながら目を閉じて嘆息する。


「そうしましょっか…じゃあこれ」


ザックは巾着袋から取り出した風に見せかけた小瓶を全員に手渡す。中身は体力回復薬スタミナポーションだ。そろそろ無くなるのでオリジナルを保存して錬金術で物質複写マテリアル・コピーで増やそうかなと思案している。ストレージに入れてる限り消費期限は気にしないで済むが、サンフィールドで購入した物とバレるとストレージの説明をしないといけないので何とかしないとなぁと考えている所だ。


「スタミナの奴か?」


「疲れてるでしょ?」


「まぁ…」


「走って逃げるなら飲んで」


「…命令、か?」


「いえ。アレに捕まりたくないなら、ですが」


「…わかった」


ザックとマシュウの緊迫感溢れる会話の間、偉そうおっさんがガンガンと結界を殴って怒鳴っていたが無視スルーしての会話だ。全員、体力回復薬スタミナポーションを一気飲みし、小瓶をザックに返却して頷いた。


「念の為、身軽になっておいてください。必要最低限の防具は身に付けておいた方がいいですが、武器は例の袋に入れておけば重さを感じなくなる筈です」


全員がザックの言葉に頷き、腰に付けておいた紐付き手提げ袋アイテムボックスに各々の武器を収納し、全力で駆けると落としそうな帽子なども仕舞い込む。そして紐を伸ばして斜めにたすき掛けにして落とさないようにした。


(おー、驚いてるな。まさか、腰の革袋がアイテムボックスだなんて思ってなかっただろうしな…)


マシュウが結界の外の連中が驚いてるのを見てそう思っていた。小物なら兎も角、長物が入って行く様を見ては驚くしかないだろう。少なくとも、剣や盾、弓矢や矢筒、楽器を仕舞い込んだ4人の物はそうとバレたと見ていいだろう。


「じゃあ、全員に身体強化フィジカルブースト掛けますね?…一応、微調整を掛けますので質問に答えて下さい」


その間も怒鳴り拳を結界にぶつけていた偉そうおっさんは疲れたのか静かになる。全員に微調整をした身体強化フィジカルブーストを掛け終えたザックは。


「それじゃそろそろ行きましょう。準備と心構えはいいですか?」


「おう、いつでも」


「同じく」


「ドキドキするけど、大丈夫よ?」


「うん、大丈夫!」


ザックが結界解除と共に駆け出す準備がいいか訊き、マシュウ、ジャッカル、ジュン、パトリシアの順位に応える。


「じゃあ、行きますよ…」


無詠唱で(結界解除)と念じて、解除と共に結界石をストレージに収納するザック。と同時に駆けようとするが…


「今だ!れぇ!!」


とのダミ声と共に、高熱の火の玉が飛んで来る。


(はぁ…やっぱり…)


ザックは「ウォーター!」と叫んで、超高圧縮した…唯のウォーター…生活魔法で生成した水の塊をそよ風の生活魔法…但し、風力をちょっとばかし強化した…で飛ばして、爆炎魔法ファイヤーボールを相殺…しようとした。だが、急に熱せられた大量の水がどうなるかまでは想像の埒外だった!


どじゅううう…どごぉぉぉおおおんんんっ!!!


突然の大音響と共に、急に熱せられたウォーターボールは水蒸気爆発を起こし、強化されたそよ風のお陰でザックたちには影響が余り無く、かえって背にちょっとばかし熱い風を受けて逃走に利用されていた。


「いや、あっちぃっての!!!」


「ぎゃー!あついあついあつい!!!」


「てめぇ、俺らを殺す気か!?」


「ひぃ~~~~!!!」


「ご、めんなさい!!…ヒールハンド癒しの手当て!!!」


全員の背中に手を当て(ザックは4本も腕がないので1人づつだけど)ながらヒールハンド癒しの手当てを施しながらの逃走を続けるザックたち。防具を除装しなくて良かったと本気で思った。これが服だけだった場合、大火傷で瀕死の重体となって逃げることなんてできなかっただろう…



- 貴族&冒険者視点 -


結界が解け、ややぼやけていた背景がクリアになった。


「今だ!れぇ!!」


仮初めの主人である貴族が攻撃しろと命令をする。相手は平民とはいえ、ダンジョンの中での殺し合いはバレなければ罪に問われないとはいえ、あんな子供もいるパーティ…いえ、探索者はチームというんでしたっけ…


「ふぁ…爆炎魔法ファイヤーボール………」


構築した魔法は情けない声でのコマンドワードでも関係なく、設定した魔力を喰い、術式を元に魔力を現象として吐き出す。


ごぉっ!


かざした杖の先に炎の玉がともり、一旦大きく膨れ上がって圧縮され、杖の先の魔法石よりやや大きい弾となる。そして…目視した標的に…結界の中に居た探索者のチームの中心に向かって弾け飛ぶ…年端もいかない男の子に向かって…。その時、私は確かにこう聞こえた。


「ウォーター!…そよ風!!」


(せ…生活魔法?…そんなものではこの攻撃魔法は…)


しかし、とてつもなく大きいウォーターで造られた水球は一瞬の内に縮み…圧縮されたんだろう。こちらとほぼ同じ大きさになり、そよ風は、とてもそれとは思えない暴風となってこちらに吹き付けられて…仮初めの主人…貴族様のいる辺りで激突した(ちなみに貴族様に影響が出ないように、やや山なりに打ち込んだんだけど…きっちり正面衝突してた…どうやってぶつけたのかはわからないけど…)


大体高さ3mくらい?の上で正面衝突した爆炎魔法ファイヤーボールとウォーターボール。そのまま水球が蒸発して消えるんじゃないかと思ってたんだけど、結果はそうはならなかった!


どじゅううう…どごぉぉぉおおおんんんっ!!!


「「「ぐああああああっ!!!」」」


「「「ぎゃあああああっ!!!」」」


阿鼻叫喚の渦の中、至近距離で大爆発の影響を諸に受けた貴族様は…重度の火傷と爆発による全身打撲で瀕死の重体に。一応、耐熱の防御魔法が掛かってたんだけど(護るべき主人なので…仮初めでもね)防御性能を上回る熱量と暴風による打撃で死に掛けになったんだと思う。他の人も、特に金属鎧を着てた重戦士とリーダーの軽戦士は大火傷で重体。流石に打撲で怪我は余り無かったけど、逆に狩人や私たち術師の3人は暴風で吹っ飛ばされて打撲で酷い怪我に。もし、神職の術師が気を失ってたら…私ら今頃全員、ウルフのお腹の中だったかもね…。そんな状態で回復してから階段通路って安地に這う這うの体で逃げて、神職が全員に回復ヒールを休み休み掛けて回って何とか安全基準を満たして地上に帰還できたのは僥倖だったかな…ていうか、違約金を払ってでも、2度とあの貴族様とは契約したくない!



- 無事?…地上に生還! -


「はぁ…生還できた…」


ザックがはぁと嘆息しながらゲートの係員にギルドカードを見せる。


「お帰りなさい!…今日、嫌な人が入ってたんだけど…ひょっとして?」


係員が訊くと、


「あぁ…」


と、疲れた表情でマシュウが返事する。


「あ~、ご愁傷様!…まぁ、無事に戻れてよかったな!」


と、軽い調子で笑いながら話す係員。


(無事か…どうなるだろうな…)


ジャッカルが逃走しつつ後ろを見た感じでは、(死んじゃいないな…)と判断していた。本当に無事にあの連中が戻った場合、どんな結果になるか…考えたくもない、と目を瞑ってマシュウの後を追う。勿論、マシュウもジャッカルもギルドカードを係員に見せてはいるが。


「「…」」


疲れ切った表情で、ジュンとパトリシアは歩いていた。首から下げているギルドカードを提示するのも無理…といった感じだ。係員は(しょうがねーなぁ)と思いつつ、視線で2人のカードを確認してる風を装い、胸を凝視していた。普段なら視線で諸バレだが、今ならバレない!と信じて…


「…」


ジュンの死んだ魚のような視線が男を殺す死線に変わる…係員、You Lose!!…がっくりとorzポーズの係員。未来永劫、ジュンからの視線は絶対零度のままだろう!w



- 探索者ギルド・受付カウンター -


「ザックくん!おかえりなさい!!」


リンシャが並ぶ前にザックに対して満面の笑顔で媚びを売っていた…取り敢えず落ち着こう?…ね?…今受付してる探索者さんを放置するのはダメだよ?


…とまぁ、並んでいる探索者たちの痛い視線の中、ザックたちは最後尾に並んだ。リンシャが並ばないと拗ねる為、リンシャの受付カウンターの待ち行列の最後尾にだが(一番長いので遠慮したかったが…)


「なぁ…やっぱ報告しないとダメか?」


ジャッカルが小声でマシュウに訊く。


「あぁ、多分ありゃ貴族だろうが…先に手を出したのはあちらさんだからな。嘘偽りなく状況を説明しておけば…何とか保護してくれるだろ…」


小声で応じるマシュウ。だが、ジュンはそうは思ってはいないようだ。


(…ありゃ後先考えずに攻撃をしてきた。こちらを消しに来たってことは…)


地上に生還すれば、全員消しにくるだろうと考えていた。後ろ盾も何も無い、年だけ食ったリーダーの探索者チームなど、私兵を使って殺しに来るだろうと。ザックくんの戦闘力ならそれすらも弾き返すかも知れないが、もっと上の位の爵位を持つ貴族や、ハイマウンテン王国の兵が追ってくるかも知れない。国から追われるようになれば、最早たかがランクCの探索者チームなど、吹けば飛ぶような存在といえる。


(お貴族さまってのは何を考えているんだかわからないとは思ってたけど…こりゃ早々に国を出た方がいいかも知れないねぇ…)


マウンテリバーを、退いてはハイマウンテンを出た方がいいかと頭の中で画策するジュン。そしてパトリシアというと…


「はぁ…疲れた。そしてお腹空いたなぁ~…」


余り何も考えていなかったようだ…


(う~ん…面倒だからマシュウさんに任せるかぁ…今日は疲れたなぁ…)


ザックもパトリシア並みに考え無しであった!(ぉぃぉぃ、いいのかそんなんでw)


━━━━━━━━━━━━━━━

次話、ダンジョン内であった事実を報告する「息吹いぶく若草」チーム!…衝撃の報告を受けて緊迫する探索者ギルドの面々!!…果たして、5人はどうなるのか…ジュンの考え通りに、国外に自ら追放となるのか!?(それって逃亡ですよね?)何考えてんだかわからん我儘貴族に鉄槌が下ることはあるのかっ!?…作者は広げた風呂敷をどうやって畳むのか、脳みそオーバーヒートぉっ!…ってことで、何かネタが思いついたら書き始めますってことで(ちょぉっ!!w)



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨170枚、銀貨70枚、銅貨1315枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨1枚、銀貨58枚、銅貨53枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 地上に戻ったばかりなので変化なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(変化なし)

本日の収穫:

 ※井戸の水生成魔道具の費用はザックの失明騒動で関係各者の頭からすぽーん!飛んでおり、後日清算される予定。そしてまだ忘れられている模様(うぉい!)ドロップ品各種は次回にでも!←そこまで行かなかったよ!(全ては我儘貴族のせいw)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る