隣の席の女子の癖が強すぎて目が離せないのは興味なのかそれとも恋なのか正直分かりません

ペンギン太郎

第1話 入学式そして出会い


俺は今、校門の目の前に立っている。

右手にはカバンと、左手にはついさっきもらった入学案内の用紙。

まわりを見ると同じ制服を着た男子や女子。


「ようやく、俺も高校生か…長かったなぁ…」


深いため息がもれてしまう。

そして同じ制服を着ている、女子を見て実感する。

今年の春から『高坂こうさか 春木はるき』は憧れの高校生になったのだと。


オレの人生は色に表すならば『灰色』一色だった。

小・中学校では家の事情じじょうで、男しかいない空間で合計9年も過ごしてしまった。

姉がいるので男一色というわけで無いが、その姉も男勝りだったので実質男だ。


「新入学生の皆さん、各自でクラス分けを確認して自分のクラスに移動して下さい!」


そうだとりあえず、自分のクラスを確認しないと。

張り出されているクラス分けの紙を確認する。

今日から通う学校は生徒数がおおいのか、5クラスもあるみたいでお祭り気分だ。

なぜなら中学校が2クラスしかなかったからだ。


『私立桜ノさくらのみや学園がくえん』私立の元お嬢さま学校。

2年前までは女子校だったのが、去年から共学化した少し特殊な学校だ。

去年からなので、3年生は全員女子という男にとっての楽園。


「オレは。絶対にかわいくて、美人な彼女をつくるぞぉ…」


全国の男子高校生が考えていそうな、ひそかな野望を胸に自分の教室に向かう。


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教室に着くと、教室の中にはたくさんの女子がいた。

さすがは元女子校、圧倒的な男女比率もちろん多いのは女子。

教室に着くまで廊下にも、男子のすがたはほとんどなくて、見える範囲が女子、女子、女子。


「にしても…この学校はレベルが高い」


そう、この学校の女子の顔レベルが高い。

週刊誌やグラビア誌で見た人並みに粒ぞろいで、この中にはもしかするとアイドルとかいるんではなかろうかと、ついつい考えてしまう。


周りをよく見ると十人十色じゅうにんといろの髪色に、イヤリングもちらほら。

この学校の校則どうなってんだ、パラダイスじゃないか。


クラスの女子をよく見てみる。

肩まで伸びている髪を耳にかけて本を読んでいる文学女子。

制服の上からも分かるほど、2つの巨大な山脈を装備し圧倒的な攻撃力を持つ女子。

フェロモンを常時振りまく、エロスが擬人化ぎじんかしたと言われても疑わないような女子。


灰色といっても外部(グラビア誌)の情報は吸収してきた。

おっと、教室の出入り口で突っているのはじゃまなので早々に移動しよう。


「お、おはよう」

「おはようございます」


とりあえず出入り口近くにいた、女子に挨拶をすると返事をくれた、うれしい。

若干、どもってしまったが挨拶を返してくれるみたいなので、この学校の男子はいない方が良いみたいな認識ではないみたいだ。


そして久々の女の子との会話に、叫びたくなる。

ここで叫んでしまったら入学早々やばいヤツ認定をされ、彼女どころか友達すらもあやしい、全力で頑張り、がまんする。


「自分の席は…あれ」

「席順は、黒板に貼ってあるよ」

「えっ?あっ…ありがとう…」


あいさつをした女子に教えてもらってしまう。

突然、話しかけられてしまって気持ち悪い返事をしてしまった。

女子と話す機会がない生活をしていたせいか、うまく話せない、もどかしい。


話しかけてきた女の子は、心なしかオレを見て笑っているような気がする。

顔どころか耳まで真っ赤になるのを感じつつ、黒板に張り出されている紙にある自分のイスに座る。


今回は、オレは窓際まどぎわの一番奥の席らしい。

高坂の『こ』なので大体窓際の後ろか2列目の1番前なので先生に見られにくい、奥の席はありがたい。


カバンを机にかけて周りを見ると、少しだけ男の子が増えたオレ以外の男子のクラスメイト、是非仲良くしていきたい。

けれど、女子が多すぎるせいか男子は、みんな居づらそうに見える。


「3年で1人ぐらい彼女もできるだろう…」


まさに慢心まんしん、慢心王もびっくりの慢心だ。

オレみたいな不純ふじゅんな気持ちで、元女子校に入学しているヤツも少なからずいるだろう。

とりあえずは同性の友達作りでもがんばりますかねと、席を立とうとした時だった。


「おはようございます、1年間よろしくお願いします」

「うふぇ!?よ、よ、よろしく」


突然横に座っていた、女子から話しかけられ驚いてしまう。

ここ数年で1番気持ち悪かった返事かも知れない…一瞬で自己じこ嫌悪けんおにおちいる。

入学式もまだなのに、そこまで落ち込んでどうする。

『ネバーギブアップ・オレ』頑張れ。


気をたしかにして話しかけて来てくれた女子を見てみる。

オレがしてしまった、持ち悪い返事も気にせずに何か書いている様子だ。


横の女子の横顔はとてもキレイで、長い黒髪から見える細いフレームのめがねが芸術品げいじゅつひんのようにキレイな顔をさらに引き上げているように見える。

こういう女の子のことを文学少女というのだろうが、本を読んでいるかまだ確認していないけど。


女の子の手元に目を落とすと、なにかの紙に何かを書いていた、よくみると入学案内の紙じゃん。


もしかして入学式当日にも勉強をしているのか?勉強頑張る系の女子なのか。

今日は入学式とホームルームだけのはず、女子が書いてある紙をよく見ると、そこには可愛らしいスライムの絵を描いていた。

なんでスライム?青色でぷるぷるしている雑魚のモンスターを描いているのか?たしかに描きやすいけど。


オレの目はスライムの絵よりも、絵を描いている道具に目が離れなかった。

女子はなんと『バト○ん』で絵を描いていた。

『バトル○んぴつ』はえんぴつの側面に技名や、モンスターのHPとか色々描いてあるかっこよく、キラキラしているえんぴつで普通のえんぴつよりも若干高い。


しかし、この『バト○ん』を普通のえんぴつとして使う場合、見逃せない大きな欠点…唯一と言っても欠点が。

それは…使おうとするとえんぴつ削りで芯をとがらせないと使えない、そうすると側面の技が見えなくなるという大きすぎる欠点。

使えば使うほど技名も見えなくなり最終的には使うことが出来ない『バト○ん』になってしまう。


オレも世代ではないので実際にやったことはないけど、昔に流行ったとオヤジが言っていて、『バト○ん』コレクションも見せてもらったこともある。

対戦する相手もなかなか見つけられないと、思うがなんでわざわざ『バト○ん』で絵をかいてるんだ…?

えんぴつぐらいなら100均にでもたくさん売っているというのに。


「どうしたの…高坂くん私を見て」

「えっ!?いや…キミを見ていたわけじゃあ…」


急に言われて、返事がどもってしまった。

ん?横の女子はなんでオレの名前を知っているんだ?まだロクな自己紹介もしていないはずでオレも横の女子の名前は知らない。

触ろうと手に持とうとしていた、ケータイを机の中に押しこんで聞くことにする。


「なんでオレの名前を知っているの?1度も名前を…」

「んっ」


女の子の指さす方を見ると、黒板があったそして黒板には席順の紙が貼られていた。

そうか、自分の席を見るついでに横の席である、オレの名前を見たのか。


「私の名前はたちばな花子はなこというの、よろしく高坂くん」


横の席の『橘 花子』は笑顔でオレに微笑ほほえむ。

正面をむいたその顔は、とても可憐で自分の中のカワイイ女性ランキングが更新される。

細いメガネに可憐かれんな顔立ちで目も細いが細すぎず顔も小さい、グラビア誌で表紙を飾っていたらジャケ買いをしてしまうほどには見た目がいい。


「あ、改めて…よろしく…高坂春木…って言います」

「名前は春木くんかぁ。上と下どっちで読んだら良い?」

「橘さんの呼びやすい方でいいけど…」

「うーん…それじゃあ高坂くんでいいや、私高坂くんのことまだよく知らないから」


手を出して握手を求めてくる橘さんに、オレは手を伸ばして握手をしようとして止まる。

一応、念のために手汗は制服で拭いて、差し出されている手と握手する。


握手した手がめちゃくちゃ小さくて柔らかい。

女の子ってかんじの手で指も細い、姉のごつい手とは大間違(おおまちが)いだ。


「高坂くんの手大きいね」

「そ、そうかな…大きいって感じたことないけど…」

「高坂くん。そろそろ移動開始みたいだから移動しましょう」


離された橘さんの手に若干のなごおしいと感じつつ、他のクラスメイトと並ぶために廊下に出た。

そして廊下で出席番号順に並び、入学式をする会場(体育館)に向かう。


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体育館に入ると他のクラスもほぼ座り終わっているらしく、オレのクラスが最後だったらしい。

ここまで先導してくれた先生の指示のまま、各自イスに座っていく。

左右のイスを見ると両方とも女子が座っている。


女子に挟まれてしまうとやはり非常に居づらいと思ってしまう。

けれど、オレはこの学校で3年間を過ごしていかないといけない。


「ねぇねぇ…入学式って、眠たくなるしちょっと面倒だよね…」


右隣に座っていた女子が突然話しかけてくる、オレは視線を右横に移す。

短めに切りそろえられた髪の毛に、日焼けが目立つ褐色(かっしょく)の肌に顔もかわいい系で、表情は『ニコッ』とオレに向かって笑顔だ。

制服の前は開いていて着崩している、入学式中になのに着崩(きくず)しているのか。


入学式中だというのに、もう着崩しているのは周りに目をやっても、右横に座っている女子1人のみ。


「たしかに。こういう堅苦しい式って、眠たくなるよね」

「そうそう、堅苦しいのって得意じゃないんだよね…あっ、そうだ君の名前は?」

「こ、高坂…高坂春木。よろしく」

「こーさかくんかぁ…私の名前は桜井さくらいこころっていうの。よろしくね」

「桜井さん、よろしく」


右横にいた女の子とあいさつをすませると、タイミング良く入学式が始まった。

1度も聞いたことがない校歌の斉唱せいしょうや、新入学生代表のあいさつなどがどんどん進んでいく。

体育館の端に並んでいる教員が目に入る、『私立桜ノ宮学園』の教師は全て女性で構成されているみたいだ。

学生のほとんどが女性だし、配慮はいりょしてのことだろう。


そのまま入学式が無事に終わり閉会式へいかいしき

入学式が終わるとすぐに、その場で担任と副担任の紹介が始まる。

オレのクラスは『1年2組』の学科は『普通科ふつうか』になる。

クラスは『1年1組』から『1年5組』まであり、その中の『1組』だけは特進とくしんクラスになる。

特進クラスを説明すると、勉強めちゃくちゃできるクラスって感じだ。


クラスが順番に紹介されていく、ようやく『2組』のクラスの担任の紹介が始まった。

『2組』の担任の立ち振る舞いはキレイで所作から育ちの良さが分かる、長い黒髪が腰まで伸びていて、その髪の毛はウェーブがかかっている。


「今紹介して頂きました2組の担任の『渡辺わたなべ優子ゆうこ』です…担当は古文で学年全てを担当します。1年間よろしくお願いします…あと2組の副担任は本日体調不良でお休みになります」


最低限さいていげんの簡単なあいさつだった。

『2組』の副担任は、今日は体調不良で休みらしい、よく見ると他のクラスは担任の後ろに副担任が立っているのに2組だけいなかった。

そのまま他のクラスの担任と副担任も紹介されていく。


「各クラスの担任、副担任の紹介が終わりましたので、各クラスは担任の指示の元、自分の教室に戻って下さい」


教頭がそう言うと今度は、各担任がクラスを先導して移動し始める。

右横に座っていた桜井さんは、いつの間にか心地いい寝息をだしつつ寝ていた。


「桜井さん…起きて、教室に戻らないと…」


話しかけても全く起きる気配がない、めちゃくちゃ気持ちよさそうに寝ている。

周りが席を立ち始めたので、さすがにこのままにしてはいけないので、急いで身体を揺らして起こす。

肩を触ると物凄ものすごく小さかく柔らかい、男の肩とは全くの別もので少しでも力を入れると壊れてしまいそうだ。

女子って全身柔らかいんですね、学びました。


「んにゃ?」

「桜井さん…もう教室にもどるから立って」

「分かった…ちょっち。こーさかくん、手を貸して」


言われたまま手を出すと、オレが出した手をつかんで立ち上げる。

桜井さんの手はオレよりも小さかったが、とても温かった。


「こーさかくん…手汗すごいよ?びちゃびちゃだよ」

「えっ!?うそ。ご、ごめん」


手汗がすごいと言われてしまい、慌てて制服で拭き取る。

こんな女の子がたくさんいる場所で長時間いたのは初めてだったせいか、緊張きんちょうしすぎていたらしい。


「こーさかくん、行こ!」


背中を『バンッ』と桜井さんに叩かれて、クラスのみんなと一緒に移動する。


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教室に入って自分の席に座る、横には『バト○ん』で絵を描いている橘さん、まだ絵を描いているよ。


全員が席に座ったのを確認した、担任の渡辺先生が教壇きょうだんに立つ。

さっきの教頭の紹介では遠目とおめでしか、見えなかったがとても優しそうな顔立ちをしている。


「改めまして、今日から担任になりました渡辺優子と言います。えーっと、担当は古典…です。今日は、副担任はいないですが…戻ってきたらあいさつをしてもらいます…至らぬ所があるとおもいます…がよろしくおねがいします」


自己紹介が終わると、クラスから拍手が出始める。

もちろんオレも拍手をする、手の叩く音が大きいせいか周りからチラチラと視線を感じる。

手も大きいし力も大きいから仕方ない。


「それじゃあ、このまま順番に全員の自己紹介をしてもらおうと思います。出席番号の1番から順に」


出席番号の1番の女の子が自分の席でしようとすると「それだとみんなが、顔を見ることが出来ないから、前に出てしてくれ」と言われてしまい、教壇での自己紹介になる。

なんてこった…自己紹介は教壇ですることに、なってしまった…。


1番から順に1人また1人と自己紹介をしていく。

そして恐れていたオレの番になった、オレの出席番号は5番で今のところ、男の自己紹介は無かった。

このクラスで初めての男の自己紹介に、自然とクラスからの目線が集まってくる。


「高坂さん、前にでて自己紹介をお願いします」

「は、はい…」


自信が無いのが、返事にそのまま出てしまう。

身体が『ガチガチ』に緊張しているのが分かる、手と足がロボットみたいで上手く動かせない。

緊張がどんどん身体を侵食して、堅くなっていく。


ここまで緊張しやすい体質だっけ?まさかあがり症なのか?


『パッンッッ!!』


背中に衝撃が走る。

オレは前に倒れてしまう、背中が痛いのを押さえつつ、慌てて後ろを見ると橘さんが仁王立ちしていた。

まさか橘さんが背中を叩いたのか?なんで、急に。


周りがざわつく、突然の状況にクラス全員が驚きを隠せない。

けれどオレが1番驚いているし、びっくりしているし、驚愕している。


「な、なんでっ」

「そんなの状況で自己紹介をしたら、他のみんなが緊張しちゃうでしょう?これで少しはマシになりましたか?」


言われて「はっ」となって、我に戻る。

さっきまでガチガチだったのが、自分でも分かるほどに無くなっている。

緊張が解けている。


「ありがとう」


橘さんに一言と軽い一礼、橘さんは優雅に席に戻る。

周りの視線はオレに注がれている、けれどさっきまで緊張は無く、背中には痛みが走っている。


教壇に上がり、オレは1つ『こほん』と咳をする。

担任の渡辺先生からの視線も感じる、オレを緊張から助けてくれた橘さんはっと…。

夢中で『バト○ん』で絵を描いているのがよく見える。

思いのほか教壇からだと、1番後ろの席って見えているんだな。


ようやく冷静になれたのか、クラス全員の顔が詳しく確認出来る。

このクラスには男の子は、オレをあわせて4人しかいない。

やはりこのクラスのレベルが高い、みんなはオレのことを見ている。


深い、深い深呼吸をする、もっと冷静れいせいになれた。


「えーっと…高坂 春木と言います…この学校では珍しい男です…ついさっきで緊張でなにを話して良いか分からないですが、中学は扇状せんじょう中学ちゅうがくからきました…力には自信があります…よ、よろしく」


腰を90度下げる、クラスのみんなの表情は見えない。

『パチパチ』と拍手の音が教室全体に広がっていく、ようやく頭を上げることが出来た。

ようやく荷が下りて、気分が楽になる。


「高坂さんは席に戻って良いぞ、次の自己紹介を」


自分の席に戻ろうとするとみんなから「よろしくね」だったり「高坂くんよろしく」と「お前、扇状か」といろいろ声をかけてくれた。

無事自己紹介を出来たことに安心できる。


「橘さん…ありがっ」


緊張をほぐしてくれた橘に感謝を伝えようとすると、笑顔の橘さんと目が合う。

何故か手がグーサインなので、オレも橘さんにグーサインをして返しておく。


自己紹介はどんどん進んで行く。

オレみたいにめちゃくちゃ緊張している女子に、最低限の情報のみを伝える女子や、自己紹介で笑いを取ろうとする女子。

他にいる男子も自己紹介をするが、ここまでド緊張しているのはオレぐらいだった。


「橘さん、自己紹介をお願いします」

「分かりました」


オレみたいな異常な緊張は無いようで『カツカツ』と靴を鳴らしながら歩いて、そのまま教壇に…は立たなかった。

どこから出したか分からないチョークを片手に、黒板に『カッ』と耳に響くキリキリ音と共に自分の名前を書いていく。

橘さんの書く字はめちゃくちゃ字がキレイで、ついつい見とれてしまう。


「私の名前は橘 花子と言います、みんなからは天然てんねんだねってよく言われますが私はそうとは思えません。中学校は天台てんだい中央ちゅうおうから来ました…よろしくお願いします」


クラスのみんなが『天台中央』というキーワードにざわつく。

よくは知らないが、確か全国で有名なお嬢さま学校だった気がする。


『カツカツ』と言って自身のイスに座る。

橘さんの自己紹介が終わってざわつく空気を、渡辺先生は『静かに』と一喝いっかつしてクラスが静かになる。

そして自己紹介が再開されていく。


自己紹介を終わったあとも書いているのかと、ほおづえをしながら橘さんを見てみる。

描いてある絵を消しゴムで、橘さんは消していた。

せっかく頑張って描いていた絵なのにもったいない。


描いていた絵を消しゴムで、消したことによる出た消しカスを集め始める。

橘さんは指で消しカスを練り始める、『バト○ん』で描いているので、っている指先が黒くなっている、汚い。

何を作っているだろうか…ん?橘さんから手が伸びる。


「ん?な、なに?」

「手を出して」


言われたまま手を出すと『ガッ』と腕を掴まれてしまう。

突然のことで驚いて手を引いてしまう…な、なにこれ?手を引こうにも全然引くことが出来ない、びくともしない。

手に橘さんが指をなぞる、細くてキレイでやわからかい指がオレの手をなぞる。


「な?ち、ちから強っ!?」

「私からのプレゼント、大切にして下さい」


橘さんは、ようやく手を離してくれた。

細くてか弱い感じの見た目なのに橘さんなのに、めちゃくちゃ力強いんだね…力が強い方と思っていたけど自身が無くなりそうだ。

握られて若干痛む手を開いては閉じたりと動かし確認していると、『ポトリ』と何かが机に落ちる。


「ん?何これ」


橘さんからプレゼントと言われたモノだろうか、手に取ると『ネチャ』としていた、しかも若干温かい。

こ、これは…もしや…。


なんと橘さんからのプレゼントは『自家製(じかせい)ねりけし』だった。

えんぴつで描いた絵を消して作っているせいか真っ黒、オレの指先も真っ黒。

正直いらないので返そうと橘さんの方をみると、まっすぐに自己紹介を見ていた。


「え、えぇ…」


自己紹介で天然じゃないと言っていたけど、天然と言って友達は思いのほか的を射ていると思いました。

そのまま全員の自己紹介が終わり、渡辺先生が教壇に立つ。


「今日は入学式と顔合わせメインだから、このまま解散になります…にっちょ…くは、いないから今日はこのまま解散」


渡辺先生がそう言うと、みんながぞろぞろと帰っていく。

このままだと友達という友達が出来ないので、クラスの男子だけでも話しかけてみるか。

数少ない男の子と友達になろうと思っていたけど、話しかけて間もなく教室からいなくなっていた。


「帰るのはや…オレも早く帰って。勉強でもするか…」


机にかけているカバンを持って教室から出る。

橘さんにお別れのあいさつでもと思っていたが、解散と同時に教室から出て行ったので声がかけられなかった。


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「帰る前に、学校を見学でもして帰るか」


丁度ちょうど入学式の案内には、学校の地図がのっている。

これがあれば1人で校舎の中を探索できる。


一通り校舎の中を歩き回った。

大きな校舎に、50mある室内プール、弓道場きゅうどうじょう柔道場じゅうどうじょう、高性能なパソコンが置いてある情報教室その他もろもろ…。

学校探検中もすれ違うのは女の子、女の子、女の子、女の子の父親と母親と圧倒的な男女比率。


「お金かかってるな…すげぇ」


流石私立…されど私立。

公立の高校と比べて全てグレードが高い、廊下に置いてある備品に机にイスも座り心地から分かるほど質が良いものだった。


探索が終わり、空を見るともう夕方だった。

思いのほか、学校の中を探索するのに時間がかかったみたいだ。

今の時間を確認する、あれ?いつも入っているポケットを探してもケータイがない。

最後に触ったのは、いつだっけな…。


「教室か…」


難なく思い出せて、良かった。

忘れている携帯を回収しに自分の教室に向かう。

校舎の中も人は少なくなっていて、片手で数えるほどしかいなかった。

この学校の男の子はまだ珍しいのか、すれ違う女の子全てに二度見をされる。


「はやくぅケータイをぉ~回収して…」


誰もいないせいかつい口ずさんでしまう、ようやく教室に着いた。

教室の中を見ると、窓側の1番奥の席で女の子が本を読んでいた。

窓が開いているのかカーテンと座っている女の子の黒い髪の毛がなびいている、夕日もあいまってとてもキレイだった。

オレはその一面に心を奪われてしまい、足が止まってしまう。


「ん?待てよ?ここオレの教室だよな?」


間違った教室に入りかけたのか?と思い急いで教室の番号を見る。

『2組』の教室で、間違いはなかった…あれ、おかしいぞ。

ということは…窓際の1番後ろの席はオレの席のはずだ。


「な、なんで?」


びっくりしている反面なんであんな美少女が、オレの席に座っているのか。

にしても夕日に窓際まどぎわ黒髪くろかみ)で本を読んでいるとは、漫画のシーンとかでありそうだなとついつい思ってしまう。

この一面を写真にとってコンクールに出せば、確実に賞は取れる。


『下校時間になりました…校舎に残っている生徒は、すみやかに下校して下さい』


と下校をしろと催促を校内アナウンスが校舎内に響く、「はっ」と我に戻ると夕日も若干暗くなっていた。

オレは知らぬ間に、見とれてずっと見ていたらしい。

急いでケータイを回収しないといけない。


「あら?高坂くん…どうしたの?」


窓際の君に話しかけられてしまった。

『ドクドク』と脈がどんどんはやくなっていく。


「なんで…オレの…名前を…なんでキミはオレの席に座っているの?」


単純な疑問を聞く。

近くまで近づいてようやく座っていた人が分かった、オレの席に座っていたのは橘さんだ。

さっきからオレの脈がはやくなっていく、その音でうるさくなっていく。


「私ね、この窓際の奥の席にあこがれていたの…」

「憧れ?なんでその席に…」

文学ぶんがく作品さくひんとか少女しょうじょ漫画まんがとか作品になると、大体この席なの…」

「そ、そうなのか?」

「私名字橘の『た』だから絶対になれないから余計にね」


深い意味があると思ったが、そんなことはなかったみたいだ。

そんな真実を聞いてしまったせいか、脈がどんどん正常に戻っていく。

うるさかった音も静かになっていく。


「それじゃあね、高坂くん…また明日」


肩に手を置かれてそのまま教室を出て行った。

急いで携帯を机から回収して、急いでケータイを出ようとするが足が止まってしまう。

オレは『スタスタ』と自分の席に座る。


「若干…あたたかいな…」


オレは激しくなる動悸どうきと共に下校げこうした。

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隣の席の女子の癖が強すぎて目が離せないのは興味なのかそれとも恋なのか正直分かりません ペンギン太郎 @junnjunn

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