02

 いつもそうだった。自身が無くて母の後ろへ隠れる私は、いつも怒られては、ダメだとため息をつかれた。

 どれだけ修行をしても父は褒めてはくれない。


 修行から抜け出したあの日、たまたま見つけた小屋の中にいたあの小さな妖は、何もできない私を頼ってくれた。

 とはいえ、あの小さな体で開けられない箱のふたを開ける程度だったけど。

 友達を見つけてほしいと頼まれて、偶然見つけられたそれを渡して、とても喜ばれて、それが嬉しくて、続けていただけ。


 私なんかを頼ってくれる人はいないから、少しでも人に役に立てるなら。


「とっとと探して帰れ」

「はい……」


 案内された部屋で、あの妖に似た気配を探す。


*****


 妖が増えていることもあり、見回りを強化するが、変わらず妖の数は多い。臣下も本腰を入れて捜査しているようだが、奉行と臣下の関係は相変わらずで、協力する気配は無い。


「いやほんと嫌になりますよ」

「ご苦労様」


 疲れた様子の五条に、長船も苦笑いを返す。


「あ、先生! 粟田の姉ちゃんたちも」

「おや、皆さん。そんなに慌ててどうされたんですか?」


 駆け足でどこかに向かおうとしている浅田たちは一度足を止めて、長船に目をやる。


「ひみつー!」

「えーお巡りさんにも教えてほしいなー」

「サボってる人には教えません」

「ごめんなさい」


 実の娘に否定されると、五条も苦虫を噛みつぶしたような表情で謝るしかなかった。

 先を急ぐかのように手を振って走り去る子供たちに、長船は笑顔で見送り、五条は恨めしそうに目をやった。


「拗ねないでください。秘密基地を作っているそうですよ」

「あーなるほど。そいつは秘密だ」

「むしろ、娘にサボりがバレてる親ってどうなんですか?」

「それは粟田ちゃんのせいでしょ」


 団子を食べている粟田を睨むが、粟田は走り去った子供たちの背中を見送り、その小さな影に目を細めた。


「五条さん、佳子ちゃんって気持ち悪い人形の趣味でもあります?」

「喧嘩売ってるなら買うよ?」


 五条が目の笑っていない笑顔で粟田に微笑みかける中、長船は粟田と同じように子供たちの背中を見ては、目を細めた。


「別に前にお友達と集めてるって言ってた人形も気持ち悪くなかったし」

「女の子ですねぇ……」

「ホントホント。花より団子。人形より本刀の粟田ちゃんにはわからないでしょうね」

「喧嘩ですか? 買いますよ」


 微笑み合うふたりに、普段ならそろそろ長船が仲裁するのだが、一向に仲裁の言葉は無く、それどころか、突然立ち上がった。


「すまない! あの子たちに確認したいことがあるから、また今度」

「え、先生!?」


 目を白黒させるふたりを置いて、走り出した長船に、ふたりは目を合わせ、追いかけた。

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