3話 小さなトモダチ

01

 どんな時代であっても、子供たちは子供たちだけの楽園を求めた。

 それは浅田たちも同じだった。町はずれの誰にも使われていない小さな小屋が、彼らの秘密基地だった。


「お待たせ!」


 小屋に置かれた大人が入れそうな箱の中に顔を覗かせれば、そこには人を模った小さな人形に囲まれる小さな妖がいた。


「んじゃ、今日も仲間探し始めるぞ!」


 彼らが出会ったのは、一ヶ月ほど前の事だった。

 本来入ってはいけない臣下の管轄している林の奥の使われていない小屋を偶然見つけた巴は、その箱の中の妖と友達になった。なんでも妖は、ここに仲間を探しに来たのだという。

 元々悪戯好きであり、結界が弱まった時代に都へ入ってきたが、結界が復活してしまい外に出られなくなってしまった。小さな妖たちにとって、妖を狩るのを生業にしている臣下のいる都は危険で、外へ逃げたいのだという。

 この箱はそのための道具で、巴たちには仲間を探してほしいと頼んでいた。


「それにしても、人形になったり、箱作ったり、器用だよな」

「ヒト、隠レル、必要」


 箱に詰められた人形は全て、元はこの小さな妖と同じように動き回っていたらしいが、人から隠れるために自らの形を人形に変えているらしい。


「でも、この中にいれば、結界に浄化されずに外に出られるんだよね」


 親から口酸っぱく、妖は危険なものだと教わっていた。しかし、目の前の震える小さな妖が危険とは思えなかった。むしろ、震えて外に逃げたいという彼らの願いは、決して人を傷つけるものではない。大人たちにバレないように連れ出せば、どちらも幸せではないだろうか。


「アト一人」


 頷く妖に、浅田は妖を袂へ隠すと、町へ繰り出した。


「アッチ」


 仲間の気配を感じるらしい方向へ案内されながら進めば、巴が体を震わせる。


「アソコアソコ」


 つい足を止めてしまった巴に釣られるように、浅田たちも足を止めれば、小さな妖は急かすように指を指す。

 そこは、臣下の詰め所だった。しかも、巴の父の勤める詰め所。


「巴。行け」

「!!」


 首を横に振る巴に、浅田は眉を潜め、無理矢理行かせようと腕を掴めば、頭を叩かれる。


「やめなさい!!」


 佳子は浅田を怒りながらも、巴の腕を取り、庇うように立つ。


「なんでだよ! 巴ならとっとと取って来れるだろ!」

「そういう問題じゃない! それに、臣下の詰め所なんだから、妖と一緒にいるのがバレたら、無事で済むわけないでしょ!」


 それは浅田もわかっている。だからこそ、入っても怪しまれない巴に任せたかったのだから。


「アンタが行きなさいよ」

「う゛……わ、わかったよ……」


 小さな妖を佳子へ預けると、浅田はひとり詰め所に近づき、バレないように中の様子を伺う。今までの傾向通りなら、妖の仲間は小さな人形になっているはずだ。臣下の詰め所に似つかない人形を見つければいいだけ。

 人の声の聞こえない場所の扉を開けようとしたその時、足が浮き上がる。


「何をしてる!!」


 振り返れば、怒った表情の臣下の男がいた。


「って、あ! 巴の父ちゃん!」


 よく見れば知った顔だ。巴の父は、浅田を見ると少し驚いたように目を開くが、すぐに眉を潜めた。


「こそこそと何をしているんだ! まさか、何か悪事を働く気ではないだろうな? ここは神聖な場所だとわかっているのか!」

「ご、ごめんなさい……! あ、えっと……」


 建物の影で心配そうにこちらを見つめる巴と佳子がいたが、その方には妖もいる。臣下である父に見つからせるわけにはいかない。なにか良い言い訳がないかと、視線を巡らせ、目に留まった。


「と、巴が落とした人形を取りに来て! なんか、臣下の人が拾ったらしいから!」

「そんなもの自分で取りに来させろ!」

「いてっ……!」


 道端に投げ捨てられ、尻もちをついた浅田は、父を睨みつけるが、自分を見下ろす迫力に視線を逸らしてしまう。


「自分の不始末を他人に拭わせるなど言語道断! 自分で取りに来いと伝えろ!」


 ぴしゃりと言い放たれ、浅田もその迫力にしばらく座り込んだまま動けなかった。


「大丈夫!?」


 慌てた様子で駆け寄ってくる巴に、ようやく自分が道の真ん中で座り込んでいたことに気が付くと、慌てて立ち上がった。


「ごめんね。浅田君……」

「いいって! それより、巴の父ちゃん、めっちゃ怖いな! ビビったぁ!」

「ごめんね……」


 直接怒られた自分よりも泣きそうな表情の巴に、浅田は困ったように視線を巡らせると、胸を打つ。


「さっきはいきなりでビビったけど、今度は大丈夫! 取ってくるぜ!」

「……私、行ってくるよ」

「え゛、いやいや! 泣きそうじゃん!」

「でも……」

「じゃあ、みんなで行こう?」


 ひとりで行かなければ、きっとまた父に怒られると、巴はひとりで行くと、首を横に振り続け、浅田たちが心配そうに見守る中、詰め所へひとり向かった。

 詰め所に入れば、父が待つようにして立っていた。


「も、申し訳ありません……」

「何に対して謝っているのだ」

「自分の不始末を、他へ押し付けてしまいました」

「あぁ。そうだ。臣下たる者がそんな軟弱者でどうする!! 民の前に立つ! それこそが臣下である!」

「は、はい……!! 申し訳ありません……!!」


 身を縮こまらせ、震える巴の姿に、父は落胆したようにため息をついた。

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