02
早く、一歩でも早く、助けを――
臣下たちの詰め所へ辿り着けば、ひどく恐ろしい物を見た目でこちらを見つめる大人たち。
「タスケ……テ……センセ……ミン……ナ……シンジャ……ウ」
黒い涙が地面を濡らす。
はやく、はやく、たすけ、よばなきゃ――
必死に伸ばす腕は、呪いに穢され、黒く禍々しく変色していた。
「憑き人!」
人とはかけ離れたその姿に刀を抜く者に体を震わせる姿に、自我が残っているのかと表情を強張らせた。
「タス……ケテ……」
今にでも切られる状況であっても、恐怖に慄く表情で怪物を見つめる群衆に必死に助けを求め、手を伸ばす。
「来るな! 化け物!!」
もはや、手を取る人間はおらず、親ですらわからぬほど変わってしまった少女の姿に、少女は伸ばした手を震わせ、地面に力なくついた。
どうして、たすけて、くれないの。
たすけて。たすけて。たすけて。
せんせいも、みんな、しんじゃう。
ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダッッ!!!!
言葉にならない絶叫が響く。
「――ッ覚悟!!」
掴みかかるように助けを求める手を拒むように、刀は振られる。
「ァア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ッッ!!」
その痛みに泣き叫びながらも、少女は手を伸ばした。
たすけて! たすけて!
おねがい! おねがいします!
届かぬ言葉とは気が付かずに、叫び続けた。
おねがい……かみさま……みんなをたすけてください……
「――よく頑張った」
闇雲に伸ばされた手を掴む手に、その怪物は動きを止めた。
「もう大丈夫。あとは任せてお休み」
温かい光に少女は、黒く染まった頬を洗い流すように涙を流し、微笑んだ。
暴れまわっていた怪物が動きを止め、訪れた静寂の中、臣下たちは先程まで異形の怪物となっていた憑き人の小さな体を抱き留めている存在に息を飲んだ。
桜花之国の主神が一柱である、暁。
「この子をお姉ちゃんのところに」
「御意」
暁は巴を抱き上げると、夜鴉へ預ける。いまだ黒く妖気がその小さな体を犯していた。浄化しようにも、暁はこの手の術は苦手だった。得意な東雲に任せた方が確実だ。
「フザ、ケ、ルナァ……!!」
切り落とされた黒い腕が蠢き、夜鴉の抱える巴へ襲い掛かろうとするが、地面を抉るほどの槍の一閃に欠片へと散った。
「では、荒事はお願いしますね。くれぐれも――」
「るせェ」
「はいはい。言う必要もなかったですね」
夜鴉が東雲の元へ向かうと、暁はすぐに顔をある方向へ向けたその時、突然高くなる視界に驚いたように虎渡を見下ろす。
「相手は禍神だよ。虎渡は」
「走るからちゃんと捕まってろよ。主」
「うーん……話を聞いてほしいかな」
主神であろうと話を聞かないことで有名な虎渡家の中でも、とびきりその気質が強い男に、慣れたように捕まる。
「あの子が来た道を戻って。途中にいる禍神の一端は全部倒す。そうじゃなきゃ、あの子が責任を感じてしまう」
「御意」
片腕に暁を抱えると、虎渡は槍を片手に走り出し、道に蔓延る異形の妖たちを切り伏せ、走った。
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