04

 下卑たる笑みが見下ろす。ようやく小さな虫を捕まえたとばかりに、これ見よがしにこちらに見せつけてくる。

 触手に地面に縫い付けられ、血を流す虎渡に、ろくに動けない体でなお刀を握る五条と長船。


「――のやろぉ……!」


 五条が、自分を奮い立たせるように吐き出す言葉に、暁は小さく微笑み、刀を握る手に触れる。


 いまだ、戦えるほどの力が回復しているわけではない。

 

 だが、今戦わず、何を守るというのか。


 禍神から人を守る。

 それが、私がやるべきこと。


「――――ッざけンなァッッ!」


 触手を腕力で抜き、立ち上がると、今にも切りかかってきそうな視線をこちらへ向ける。


「主は、俺がアイツを殺すと信じてりゃいい!」

「それじゃあ、お前が死ぬ」


 服に染み渡る赤い染みがその証拠だ。

 いくら臣下とはいえ人間。神のように信仰で蘇れるわけではない。死ぬのだ。


「まだ死んじゃいねェ……!!」


 荒い息を噛み殺した声で語る。


「テメェの臣下を信じろ」


 その目は自分を殺してでも、実行すると物語っていて、暁が折れるしかなかった。


「十秒、時間を稼いでもらえますか?」


 五条と長船へ目をやれば、ふたりは少し驚いたように目を合わせた後、頷いた。

 そして、傷ついたか体に鞭を打ち、虎渡たちに迫る妖と触手を切る。


 虎渡の前へ歩み寄った暁の前の屈むと、暁はその頬へ手をやる。


「本当は、すごく不服だからね」

「おう!」


 満面の笑みで返す虎渡に暁は何とも言えない表情になると、虎渡の額へ口付けを落とす。


「禍神を祓う力を、此処に」


 光輝く桜の花が集まり、槍へと形を変える。


「”勝利しなさい”」


 薄ら白く輝く瞳で主命を放つ暁に、虎渡はその槍を手に取ると、大きく振りかぶり、振り下ろした。

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