第9話団欒
「ふあぁぁ」
目が覚めて、ベッド脇で充電中のスマートフォンを手に取ると、12時半。ゴールデンウィークも3日目になってすっかりだらけてしまっていた。ここ数日のだらけ具合からすれば、今日はむしろ早起きなくらいだ。
唯ちゃんと図書館で勉強をしてから大体一週間。学校のあるうちは唯ちゃんと放課後に勉強していたけど、こう休みが続いて、さらにこの先も続くとなるとどうしても気が緩んでしまう。
しかも、ゴールデンウィークが始まる時には、勢いで宿題をほとんど終わらせてしまっていたのだからなおさらだろう。数時間もあれば終わってしまう残りの宿題は放り出して、スマホを手に一日中過ごすのも当然だ。
夜中までスマホをいじってしまうのは、よくないとわかっていてもやめられないし。
もうお昼ご飯の時間なのに眠気をかみころしながら、リビングにいくとお母さんとお父さんが和気あいあいと会話と食事を楽しんでいた。
「ごはん~」
と言って、会話に混ざる。和気あいあいとはいっても、お母さんはほとんど相槌を打つだけでお父さんばっかりしゃべっているので、割り込みづらいという雰囲気はない。
「お、おはよう」
「お、今日は早起きなんじゃないか?」
「休みなんだしいいじゃん」
早速揶揄られて、ちょっと不機嫌になった。最近は多様性の時代とやらで、昼夜逆転も正当化されるはずだ。そうであってほしい。
「ほら、冷めちゃうぞ」
「ママの料理は冷めても美味しいけど、あったかいともっと美味しいぞー」
「はいはい」
なんというかもう結婚してるのに、お母さんへのアピールを欠かさないのは尊敬できる。まぁ、美味しいは美味しいけど。
お父さんのお母さんの料理に対する大袈裟なほどの賛辞を聞き流しながら、昼食を食べていると、耐えかねたお母さんが不意に話を振ってきた。
「芽依ちゃん。ち、千代田さんとの勉強はいいの?」
「うーん、ゴールデンウィークは用事?があるみたい」
そう、唯ちゃんとの勉強会はゴールデンウィークで一旦中断になっていた。なんだか事あるごとに一緒に勉強していたけど、こういう時もあるだろう。確か……。
「確か海外からお父さんが帰ってくる?みたいな感じだったよ」
「そ、そうなんだ」
「海外勤務かー、すごいなぁ」
「お父さんじゃ英語喋れないし無理でしょ」
「ははは……。ま、まあパパは日本で頑張ってるからなぁ」
「それに、最近英語の勉強を始めたんだぞ。学生の頃には結構できてたんだが、年を取るとなかなか難しく感じちゃうよ」
「芽依も今のうちにしっかり勉強しておいた方がいいんじゃないか」
「はぁ。ちゃんとやってるし」
普段は、というか高2まで何も言ってくることはなかったのに、最近になってからこういうめんどくさいことを言われるようになってしまった。
「そ、そうか……。確かに最近唯さんと勉強してたみたいだが……、ゴールデンウィークに入ってからはなぁ…………」
「う、そ、それは…………。明日からはちゃんとやるし」
といっても、ゴールデンウィーク中ずっとそう思っていて全く勉強できていないんだけど。でも明日からやるはずなのだ。
ピコんと、机の端に置いたスマホがなる。手に持っていた箸とスープの入った食器を置いて、スマホを確認する
「あ、唯ちゃんから…………」
「ゴールデンウィーク……最終日に模試!?」
「ん、模試か?ああ、そういえばそんなプリントを見た気がするなぁ」
「えー!そんなの聞いてないよ~」
「おいおい、芽依にもらったプリントだぞ。それに芽依はもう受験生じゃないか。模試は大切なんだから覚えておかなきゃダメだろう」
「うっさい、もう」
「ごちそうさま!」
箸をおいて勢いよく席を立つ。ゴールデンウィーク最終日に模試があるんなら後本の数日しかない。唯ちゃんに勉強を教えてもらって、そう長くはないとはいえ、これで私が全然いい成績がとれなかったら不甲斐ないし、何より唯ちゃんにそんな成績を見られるのは恥ずかしい。
「ど、どうしたんだ?」
「勉強するの!」
「が、が、頑張ってね………………」
「うん!」
「頑張れよー!」
「わかってるー!」
そういって、自分の部屋に足早に戻る。ゴールデンウィークが始まってから、机に開かれたままほったらかされている、教科書やら問題集やらに向かい合って、さぼった分を取り返すように勉強を始めた。
………………
「はぁー-………………」
ベッドに寝転がって、深くため息をつく。そこまで日にちはたっていないはずだけど、久しぶりの勉強と、あとちょっとで模試があるという緊張で、なんだかずいぶんと疲れてしまった。
それに、唯ちゃんはゴールデンウィークの最後に模試があるということは教えてくれたけど、やっぱり用事があるからなのか、勉強の約束を取り付けるということもなかった。
ゴールデンウィークなんて休みの日なのに一緒に遊びにも行けないだなんて、少し寂しく感じる。しかも、受験なんてものがあるせいで、ろくに気も休まらないのだ。
「はぁ」
また一つ小さくため息を吐くと、眠気がどんどん大きくなってきて、瞼を閉じる。
「一緒に勉強………………。どこか遊びに行きたかったな…………………………」
そうつぶやいて、もう眠気に耐えられなかった。
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