第1話前編〜獣医じゃなくて獣医師である誇り

暇すぎて大好きなマカロンを11個食べちゃった。太っちゃうけど、健康体重超えてないしギリOK。身長はノーカウントにしておこう。


雪がいつでもふかふかな冬の時期。ついついココアとマカロンを頬張ってしまう。その間に食べるインスタントの坦々麺が最高なんだけどね。今日の仕事もあと2時間だし、のんびり本でも読もうかな。


ある1人の眼鏡をかけた男性がチケットを買ってきた。券売機でチケットを買うスタイルなので下山方面のチケットを買うんじゃないかとハラハラする。でもこの時間から観光ってあんまり楽しめないと思うんだよなぁ。しかも登山に向かないサンダルを履いている…


私の仕事場から支給されてる携帯に連絡が入った。


『15:03 下山方面のチケットを購入した人が1人。よろしくお願いします。』


もしかしなくてもあの人だよね…首の関節をポキポキならしながら下山方面のロープウェイを呼ぶボタンを押した。あと35分でロープウェイは来る。ちょっと話を聞いてみよう。


「こんにちは。もしかして下山方面のチケットをご購入なさいましたか?ロープウェイが来るまで時間あるので、こちらに念のためお名前とご住所、電話番号の記入をお願いします。」


男性はびっくりして眼を見開いていた。しかし、声をかけた理由を知ると覇気のない眼になった。


「あっ…はい。わかりました。」


男性は案内されるとすぐに差し出したペンと紙に記入しようしてくれた。


「今月、まだここに来た人はいないんですか?12月分って書いてありますけど僕が1行目ですよね」


私は甘酒を差し出しながらこう言った


「そうですね。今月はあなたが初めてのお客様です。まぁ、お気になさらずに甘酒でも飲みながらロープウェイが来るまでごゆっくりなさってください。」


男性は書き終わった紙とペンを無言で渡してきた。私の"手"に渡してくれただけ、感謝しよう。


「ありがとうございます。河野爽馬さんって言うんですね。うん…なんか、素敵な名前ですね。爽やかな馬ってまさにカッコいいの象徴というか。」


「僕は"かわの"ではなく"こうの"です。間違えないでください。馬って確かにカッコいいですけど僕はそれに縛られたので今となっては嫌な名前ですね。案外か弱い動物ですし。龍の方が伝説もあるぐらい強い動物なのでなんならそっちの方が良かったですね。てか個人情報なので」


「ごめんなさい。中学の頃の同級生がかわの読みだったのでつい。こうの爽馬さんなんですね。わかりました。」


私は一息ついてこう続けた


「龍は確かに伝説が沢山あります。でもそんなに強い動物がどうして現代にも残ってないんですかね。タツノオトシゴは魚類ですし、恐竜は今や鳥となって現代にも残っていますけど龍を現代で表す動物っていないと思いますよ。最強すぎて絶滅しちゃった説もありますけどね。」


男性は黙り込んでしまった。でもどうして動物にこだわるんだろう。馬とか龍とか。しかもそれに縛られていた?どういうことなんだろう。低脳な私では限界だ…男性はしばらく考えてから口を開いた。


「僕は獣医師なんです。馬を専門とする臨床獣医師なんですよね。もう辞めましたけど。」


男性が動物にやたらこだわるのはそういうことだったのか。でも龍はどっからきたんだろう。おいおい話してくれるかな。


「馬の獣医さん!すごいですね。馬専門ということは競走馬などを診る獣医さんなんですね。なぜ辞めたかを差し支えなければ教えて欲しいです。」


「獣医じゃなくて獣医師です。vetではなくVeterinarianです。vetだとペットという意味合いもあるので、正式名称はVeterinarianです。誇りを持っていた分、そこは譲れないです。」


ちょっと地雷ふんだかもなぁ、獣医師の言い方に違和感あったけどこういうことか。ちょっと心に留めよう。

男性は続けた


「僕はずっと馬に囲まれて、ある意味縛られて生きてきたんですよね。」


ロープウェイが来るまであと25分


後半につづく












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