疑念

「萌香、はいお土産」


 花音の美味しい手料理を食べた後、先輩がお土産を手渡ししてくれる。


「ありがとうございますっ」


 本当に買ってきてくれた。


「……うわぁ、やるねもえちゃん」


 花音が縁結びのお守りを見ながら少し引いてる。


 でも、これで先輩も少しは私を意識してくれるようになったはず。作戦通り。


「あ、もう帰らないとっ」


 時計を見ると針はもう7時を指していた。

 親には遅くなるとは言ったけど早めに帰らないと心配するかも。


「先輩、怖いので家まで送ってくださいっ」


「いいよ」


「……可愛い後輩とデートできて嬉しそうですねっ」


 少し頭が真っ白になった。

 だって、まさか先輩が即答するとは思わなかったんだもん。

 バレてないよね?


「もえちゃん動揺してる」


 ……うるさいよ花音。


「それじゃあそろそろ家に帰りますっ。先輩、ちゃんと家まで送ってくださいねっ」


「はいはい」


 先輩がため息混じりに立ち上がる。



◇◆◇◆◇◆



 少し寒いなぁ。

 もうすぐで冬か。


「先輩、可愛い後輩が手を繋ぎましょうっ」


 隣に立つ先輩に笑いかけながら手を出してみる。


「ヤダ」


 先輩は私の方を面倒くさそうに見て言った。


 だいたいこういうのって断れられるんだよね。


 理由はわかってる。

 だから、頼み方を変えてみよう。


「先輩と手繋ぎたいな」


 少し上目遣いで先輩を見上げる。


「……ほら」


 先輩が少し迷って手を差し出してくる。


 ふふっ、作戦成功。先輩は私が素直になるとなんだかんだ言って我儘を聞いてくれる、と思ってた。


 ちなみに、どちらかと言うと素直な方が素の私。

 普段の小悪魔のキャラは対先輩用の為に作ったキャラ。


 ……あれ?素の私の方が良くない?

 どういうことだろう。

 私のこのキャラは先輩の推しだった星奈先輩の……


 星奈先輩ってこんなキャラだっけ?

 私ってもしかしてすごい間違いをしてるんじゃ……


「どうかした?」


 先輩が私の顔を心配そうな表情で覗き込んでくる。

 手を繋ごうとか言い出しておいて、いつまでも繋がないから不審に思ったんだろう。


「はっ……な、なんでもありませんよっ」


 私は先輩の手を握って足早に歩く。


 どうしよう。いつもなら嬉しいはずなのに、今はそんな感情を抱けない。


 このキャラやめようにももう身体に染み付いちゃってるし。


 どうしよぅ。花音たすけてぇ。

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