「ただいま」


 家まで送ってくれた先輩にお礼を言って私は家に入る。


「おかえり」

「おかえりなさい」


 リビングではお父さんとお母さんがいて、テレビを見ていた。


「あ、萌香」


 部屋に行こうとした私をお母さんが呼び止める。


「何かな?」


「模試の結果が返ってきてたわ」


 お母さんが一枚の紙を私に渡す。

 模試の結果が書いてあるプリントだ。


「……ありがとう」


「またA判定だったわ。すごいわね」


 そう言うお母さんの表情は満面の笑み。


「……ありがとう」


 プリントに目を通す。


 青桜高校 A


 一番上にそう書かれていて、下に偏差値やテストの点数など。


「おぉ、すごいな。ここら辺で一番難しいところだろ?」


 お父さんがビールを片手に褒めてくれる。

 その顔はどこか誇らしそうだった。

 お母さんも自分のように喜んでいる。


「ありがとう」


 嬉しいはず。

 嬉しいはずなんだけど、喜べない。


 だって、私の本当の行きたい高校は先輩のいる花宮高校だから。


 でも、言えないよ。

 私の判定にこんなに喜んでくれている2人を見たら。


 花宮高校は青桜高校よりも偏差値が低い。

 それどころか進学校ですらない。


「……私、青桜高校じゃなくて花宮高校に行きたい」


 もし、私がこう伝えたら2人は何て言うだろう。

 どんな表情をするだろう。


「い、いつも勉強頑張ってるじゃない?それなのにどうして花宮に?」


 たぶん2人ともこんなことを言うんじゃないかな。


 だから言えない。

 そして、どんどん言いづらくなっていく。

 

 まだ先輩には言っていない。それどころか花音にもまだ。

 2人は私の志望校は花宮高校だと思っているはず。

 だって、私がそう言ってるんだから。


 やっぱり伝えるべきかな。

 私は花宮高校に行きませんって。

 何度も言おうとはした。だけど、そうしたらもう青桜高校に行くしかなくなって。


 どうしていいかわからない。

 いや、わかってる。

 私は花宮高校に行きたい。だから、お母さんやお父さんにそれを言うしかない。


 でも、それが怖くて。

 駄目だって言われたら?


 悲しませたくもない。


 あーあ、頭がぐちゃぐちゃする。


 ベッドに横になって頭を一旦整理する。


 一番現実的なのは先輩と花音に青桜高校に行くって伝えること。

 先輩はわからないけど、花音は悲しむだろうけど、なんだかんだ言って応援してくれるはず。


 でも、今はそれができない。

 だって、先輩のことが好きなんだもん。

 先輩と一緒に高校に通いたい。ずっと一緒にいたい。


 たぶん先輩のことを好きでいる限り、私は花宮高校に行きたいって思ってしまう。


「あ……」


 なら、先輩のことを好きじゃなくなればいいんじゃない?


 そうしたら、花宮高校に行く理由がなくなる。

 それでいいんじゃない?誰も悲しまないじゃん。


 たぶんこれが最適解だよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る