帰宅

「ただいまー」


 玄関を開けて家に入る。


 なんかとても久しぶりな感じがする。

 修学旅行の日数はそんなに長くなかったのに。


「おかえりなさいっ。先輩に会えなくて寂しかったですっ」


 奥から出てきたのは花音じゃなくて、萌香だった。


 まあ、玄関に萌香の靴があったから出てくるだろうとは思っていたけど。


「俺はそんなにだけど、ただいま。それより花音は?」


 どうして花音はお出迎えをしてくれないんだろうか。


「寝てますよっ。というか可愛い後輩と会えなくて寂しくなかったんですかっ?」


「寝てるって、夕方なんだけど……」


 花音は少しだらしないところあるからな。


「仕方ない、今日は俺がご飯を作ろう」


「……無視しないでくださいよっ」


 萌香がいじける。

 まあ、直ぐに治るか。



◇◆◇◆◇◆



「で、どうして萌香もキッチンに立ってるんだ?」


 2人エプロン着て並んでたらまるで、


「夫婦みたいでいいじゃないですかっ?」


 萌香が小悪魔的な笑みを浮かべる。


「交際もしてないのに夫婦って」


「じゃあ交際しましょうっ。今ならこの可愛い後輩が先輩の彼女ですよっ」


「ヤダよ」


「えぇ〜」


 あまり自分を安売りするなよ。冗談でもさ。


「ほら、料理を始めるから手伝って?」


「はいっ」


 ちょっと近くない?

 腕と腕が密着してるんだけど。

 わざとやってるみたいだから何も言わないでおこう。反応したら負けだ。



◆◇◆◇◆◇



「チャーハンだ」


 首をかしげる花音に堂々と教える。


「ん?」


「……チャーハンだ」


 ……堂々と教える。


「……バカ兄ともえちゃんが頑張ったのは知ってる。そもそも私が寝てたのが悪いし」


 花音が机に肘をついて大きくため息をはく。


「でも、2人とももうキッチンに立たないでね」


「「……はい」」


 花音が皿に盛り付けてある黒い物質をスプーンですくう。

 そして、それを口まで運ぶ。


 咀嚼するごとにジョリ、ボリと音を上げるチャーハン。


「……まずい」


 花音が顔をしかめる。


「えー」


 萌香が不満そうな声をあげる。

 さっき、一緒に味見した時点でこうなるのわかっていたよね?


「先輩、また一緒に作りましょっ?」 


 萌香が意気込む。


 でも、一緒に料理するのは悪くなかったかな。


「いいよ」


「……キッチンに立つなって言ったの聞こえなかったかな?」


 聞こえなかったです。


「まあ、いいや。私が何か適当に作るから待ってて」


 花音が席を立ち上がりキッチンへ向かう。

 皿にはチャーハンはもう残っていなかった。


 優しいところもあるんだよな。


「先輩、修学旅行のこと教えて下さいっ」


「いいよ」


 色々なことがあったからな。

 何から話そうかな。

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