元通り

「伊織くん、次はあれに乗ろう!」


「ま、また絶叫系?!」


 星奈ちゃんが指差す方向にはヤバそうなジェットコースターがあった。


 俺は今日気づいたんだけど、どうやら絶叫系のアトラクションが苦手らしい。


「ほら、伊織行くよ」


「ちょ、由香里さんまで?!」


 渋る俺の手を引く由香里さん。


「ほら、早く早く」


 笑顔で引っ張らないで。


 ……でもよかった。元の由香里さんだ。

 どうしてかは分からないけど由香里さんの様子が治っている。


「影野くんっ」


 でも、絶叫系は嫌だ!


「……ごめんね」


 させないよ!


 俺は影野くんの手を掴む。


「一緒に楽しもう?」


 影野くんに笑いかける。


「……道連れにしよう、でしょ?」


 思考読まないでよ。



◇◆◇◆◇◆



 夕方になった。

 もうそろそろ、3日目の自由行動が終わる。


「はぁー」


「……」


 俺と影野くんはベンチでぐったりしている。

 絶叫系で疲れた。


「ご、ごめんね伊織くん、影野くん。テンション上がっちゃって」


 星奈ちゃんが申しわけなさそうに手のひらを合わせる。

 確かに今日の星奈ちゃんは終始テンションが高かったな。


「いいよ。俺も楽しかったから」


 たまに楽しい系のアトラクションをはさんでくれたから、そこまでキツくはなかったし。


「……僕のことは気にしないで」


 影野くんは絶叫系が嫌いというより、人混みが苦手らしい。

 それで、疲れているのかな。


「えへへ、星奈ちゃんと遊んだよ、へへ……」


 井上さんは何か壊れてる。


 大好きな星奈ちゃんと遊んだからか。


 俺はアイドルをしている星奈ちゃんのファンだったから大丈夫だけど。

 井上さんは星奈ちゃんの存在が好きらしい。

 それで今回遊べてあんなふうになっているわけか。


「伊織」


「どうしたの?由香里さん」


 由香里さんが隣に座っていた。


 さっきまで影野くんが座っていたのに、どっか行ってる。


「今まで変な態度とってごめんね」


 由香里さんが頭を下げる。


「謝ることなんてないよ。もう解決したんだよね?ならそれでいいよ」


 何で由香里さんがあんな感じになったのかはわからないけど、元に戻ったのなら良いと思う。


「えっと、何て言うか……」


 由香里さんが何かを言おうとしている。


「ん?」


 俺は由香里さんに耳を寄せる。


「……」


 あれ?何も言わないな。


「どうしたの?」


「う、ち、近いってばぁ!」


 由香里さんが走り去っていった。


「……え?」


 とりあえず追いかけた方が……


「……止めとった方がいいよ。オーバーキルになるよ」


「あ、影野くん。どこ行ってたの?」


 追いかけようとしたけど影野くんに止められる。

 追いかけたいけど、影野くんが言うなら止めておいた方がいいかも。


「……山本さんが神宮寺に近づきたそうにしてたから」


「あぁ、なるほど。ありがとう。それで、由香里さんは俺に何を言おうとしてたの?」


 影野くんならわかるかな?


「……僕の口からは言えない」


「そっか」


 何て言おうとしてたんだろう。

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