恋敵

「由香里ちゃん、トランプしよう?」


「いいよ」


 星奈が1日目と同様にまた私を誘う。

 部屋では意外とすることがないので丁度いい。


「明日、みんなで楽しもうね」


 星奈が満面の笑顔を見せる。

 明日は一日中、U○Jで自由行動。今から楽しみなんだね。


 ……可愛い。

 アイドルの時とは違う素の笑顔。

 星奈はいつも笑顔で、周りを笑顔にする。


 すごいと思う。


「……星奈は伊織と2人で回ったら?」


 私は星奈に提案してみる。

 いや、これは実は結構前から考えていた。


 誰も文句言わないと思うよ。

 あ、でも瑞希がいるから……。


 瑞希って伊織に劣らないくらい、星奈のファンだから。


「まあ、私が他の人たちと回るから。あ、でも瑞希がどうしても星奈と回りたいって言うなら、その時はごめんね」


 流石にみんなを無理やり従わせるのはダメだよね。

 その時は残念だけどみんなで行動しよう。

 みんなで行動するのも楽しいからいいよね。

 

「……由香里ちゃん、さっきから何を言ってるの?」


「だから、星奈は伊織と回りたいでしょ?明日の自由行動」


 隠さなくていいのに。

 ずっと楽しみにしてたんでしょ?


「……ふざけないでよ。由香里ちゃん」


「え?」


 低い声が私の耳に入る。

 誰の声?


 正面に目を向けると、星奈が怒ったように私を見ていた。


「ど、どうして怒ってるの?」


 星奈が怒ってるところなんて見たことがなくて、私は焦る。


 私は何かした?


「私と伊織くんが一緒に回る?ふざけないでよ。どうしてその中に由香里ちゃんがいないの?」


「え?だ、だって私がいたら邪魔に……」


「ならないよ。本気で言ってるの?」


「そ、それは……」


 星奈のためにとは考えた。


 でも、他にも理由がある。


「伊織くんと距離を置きたかった、とか?」


「っ?!」


 星奈の言葉に息が詰まる。

 事実だったからだ。


 まずい、ごまかさないと。


「気づいてたよ、由香里ちゃんが伊織くんのことを意識していたの」


「ち、違うの!もう、好きなんかじゃない!」


 嫌だ。星奈ともう気軽に話せなくなるのは。

 だから、隠すの。心の奥底に。


「ばか。隠さなくていいじゃん」


 星奈が笑顔で言う。


 私はどうしてなのかわからず困惑する。


「私と由香里ちゃんの絆がそんなことで壊れると思ったの?」


 ……そんなこと?


「伊織くんも好きだけど、私は由香里ちゃんのことも好きなんだよ?」


 私のことも……?


「だからね、ぎくしゃくはするかもしれないけど、険悪にはならないよ」


「ぁ……」


「好きなんでしょ?だったら諦めたらダメだよ。後悔するじゃん」


「っ!」


 後悔……。

 最近、伊織のことを考えると心が落ち着かなかった。

 そうか。私、悔やんでいたんだ。


 頭では諦めたと割り切っても、心はそうじゃなかったんだ。


「……いいの?」


 こんな私が星奈の恋敵になっても。


「もちろんだよ」


 星奈が屈託のない笑顔を向ける。


「……ありがとう」


「泣かないでよ」


 星奈が近くに寄り添って私の頭を撫でる。


「……泣いてないし」








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