修学旅行

「影野くん、ポッキーあげる」


「……いや、大丈夫」


「……外の景色見たくない?変わろうか?」


「……いや、大丈夫」


「……楽しみだね」


「……そうだね」


「……」


「……」


 どうしよう。

 新幹線に乗って数分。新幹線の中は大盛りあがり。だけど、ここだけ異様なほど静かだ。


 だって会話が長続きしないから。


 今、影野くんはどんな表情をしているんだろう。

 寝ているのかな?


「……ごめん。話すの苦手で。楽しませようとしてくれてるのは分かってるけど」


 影野くんが小さな声で話しかける。


「いや、そんなことないよ。俺だって無遠慮に話しかけてごめんね」


「……『会話が長続きしない』」


「え?もしかして顔に出て……ご、ごめん悪気があるわけじゃなくって」


「……知ってる」


 前髪の隙間から影野くんの瞳が見える。

 俺の眼を見てる?


「……僕、人の考えが少し読めるんだ。キモくてごめん」


「い、いやそんなことないよ」


 どんな表情で言っているのか見えないから、自虐ネタなのか本当なのかわからない。


「……たぶんキモいってなる。僕と関われば関わるほどに」


 それは遠回しに関わるなってことなのかな?


「……うん」


 おお、すごいな。本当にわかるんだ。


 じゃあさ、好きな食べ物は?


「……すし」


 好きな色は?


「……黒」


 好きな……


「……遊ばないで」


 あ、ごめんね



◇◆◇◆◇◆



 着いた。

 2時間ほど電車に乗って、バスに乗り換えて。目的地である京都の旅館に。

 影野くんとは、最後あたりできっぱり会話が途絶えて、後ろの席だった星奈ちゃんや由香里さん、井上さんと話していた。

 

 うちの高校の修学旅行先は、京都と大阪で。3泊4日。

 1日目の今日は何もせずに旅館で過ごすらしい。

 本格的なフィールドワークは明日なんだそうだ。


「じゃあ、また明日」


 旅館では、男女で部屋が分かれるので星奈ちゃんたちとはもう話せないと思う。


「うん、ばいばい伊織くん」


「じゃあまたね」


 2人と別れて旅館に入る。


「影野くん、トランプしよう?」


 旅館で行動する班も同じになった影野くんを誘う。


「……うん」


 電車の中で最後らへんは会話が尽きて話せなかったけど、だいぶ話せたおかげて少し仲良くなった気がする。

 たぶん。


 修学旅行といえば深夜まで遊んだり恋バナしたりだよね。

 今日は寝かせないよ影野くん。


「……12時には寝たい」


 あ、読まれた。


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