不機嫌

「影野くん」


「……なに?」


「えっと、別に嫌なわけじゃないよ?ただ気になっただけで。影野くんって何でここの班に入ったの?」


 思わず聞いてしまった。

 さっきから星奈ちゃんや由香里さんが気になっている様子もなくて。何が目的で入ったんだろうって。気になって。


「……班決めのじゃんけんだと知らずに参加したら勝ち残った」


「そ、そうなんだ」


 今、影野くんはどんな表情をしているんだろう。

 前髪で隠れて見えないや。


 何だか……個性的な人だな。



◆◇◆◇◆◇



「バカ兄、お土産よろしくね」


「いいよ。それより、修学旅行中1人になるけど大丈夫か?」


 夕飯を食べながら花音と会話をする。

 内容は日に日に迫る修学旅行のこと。


「子供扱いしないで。ムカつくんだけど」


 花音が目に見えて不機嫌になる。


「いや、でもな。不安になるんだよ」


「はいはい。ちゃんと気をつけます」


 本当にわかってんのかな?俺は本気で心配してるのに。


「私はもう1人で大丈夫だから」


「まあ、そうだな」


 いつまでも子供扱いしてたらダメだよな。


「だいたい、昔も1人で……あ、な、なんでもない」


「ん?何を言いかけてたんだ?」


 どこか歯切れが悪そうに視線を横に向ける花音。


「なんでもないって。ごちそうさま」


 花音が少し急いだように部屋に入って行った。


「何だったんだ?」


 俺は1人残りのご飯を食べた。

 1人で食べるって寂しいな。

 花音、俺がいない間1人で寂しくないかな?



◇◆◇◆◇◆



『せんぱーい』


「なに?」


 夜、萌香から電話がかかってきた。

 萌香の甘ったるい声が耳元に残る。


『修学旅行、行くんですよねっ?』


 どこから入手したんだその情報は。花音からだろうけど。


「そうだよ」


『それでなんですけど……』


「お土産だろ?何が欲しいんだ?」


『先輩ですっ』


 萌香の声が俺の脳内に入り込み無造作に暴れる。一瞬頭が真っ白になり思考が止まった。


「……切るぞ?」


『ご、ごめんなさいっ。じょ、冗談ですよっ、可愛い後輩の』


 萌香が慌てたように弁明する。


「それで何が欲しいんだ?」


『えっと、縁結びのお守りを……』


 さっきより小さく控えめな声で言う萌香。

 これは本当っぽい。


 ……でもな。


「それ、俺に言う?」

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