理解不能

 文化祭最終日の自由時間。


「あーあ、私は何してるんだろう」


 屋上でただ下の様子を見ているだけ。

 星奈たちがライブ始めてるらしいから見に行こうかな。


『ここの扉って開くのか?』

『えぇ、開かないと困りますよっ』

『そう言われてもな。来るの初めてだし』


 え?!伊織と萌香の声だ!ここに入ってくるの?!


 扉越しに聞き慣れた声が聞こえてくる。


 告白だよね。バレないようにしなきゃ。

 私はとっさに端の方に隠れた。

 ここならたぶんバレないはず。


 私は盗み聞きするようで罪悪感に苛まれながらも身を隠した。


 そして、扉から入ってくる伊織と萌香。


「――好きです。付き合ってください」


 ……その言葉、私も。いや、無理か。

 友情がどうこう以前じゃない。

 そもそも、私に言える度胸も覚悟もない。


「ごめん。俺は萌香のことを異性として意識したことないんだ。だから、ごめん」


「……あはは、なんとなくわかっていました。先輩が私を異性として全く意識してないことは」


 萌香の悲しみの混ざる声が聞こえる。


「……わかっていました。でも、それでもっ辛いですっ」


 ……なんとなくわかっていたならしなければ良かったじゃん。

 ほら、伊織と気まずくなって一緒にいられなくなるよ?


「諦めませんからっ!もっと私のことを見せますっ。もう異性として見てないだなんて言わせませんっ。絶対に、絶対に落としますからっ!!」


 ……え?


 どうして?気まずいとかならないわけ?

 なんでそんなふうにできるの?


「だから覚悟していてくださいね、伊織先輩っ」


 どうしてそんなに前向きでいられるの?

 さっきまで凹んでたよね?どうして?



◆◇◆◇◆◇



「少し遅くなりましたけど、ようやく同じステージです。譲りませんよ。星奈先輩?」


 星奈が家に入ろうとする直前、萌香がそんな宣言をする。

 萌香は不敵に笑っている。


 え?仲が壊れるんじゃ……?


「……そうだね。私も譲るつもりはないよ」


 ……あはは、もうわかんないよ。

 全然、仲壊れないじゃん。


 どうして嫌悪な感じにならないの?そういうものなの?じゃあ、私は諦めなくていいの?いや、でも……


「ゆ、由香里さん?」


「っ?!い、伊織?」


 伊織が傍まで来ていた。

 いつの間にかみんなは先を歩いていて、私だけ取り残されていた。


「少し顔色悪いけど大丈夫?」


 伊織が心配そうな表情で私を気遣ってくれる。

 ……なんで私の胸はこんなに高鳴るんだろう。

 どうしていいのかわからない。どうするのがいいのかまだわかってないのに。


「う、うん。もう家近いから!大丈夫!」


 こんな感情なくなればいいのに。

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