告白

 空が端から茜色に染まりだす。

 少し冷たい風が吹き抜ける。


「二年前のこと覚えていますか?」


 目の前の萌香が静かに語りだす。


「うん」


 忘れるわけないよ。


「あの時、先輩に助けられて思ったんですよ。『あぁ、この人だな』って」


 え……?それってつまり俺のことが?


「先輩からしたら迷惑かもしれません。でも、この気持ちを捨てたくないんです」


 萌香が深く息を吐く。


 同時に俺の頭の黒い霧が晴れる。


「好きです。付き合ってください」


 たった二言。だけど、どれだけ重い言葉なのかは知っている。

 萌香にいつもの小悪魔的な笑みはない。つまり本気だということ。


 俺はこの告白に答えなければならない。


「ごめん。俺は萌香のことを異性として意識したことないんだ。だから、ごめん」


 例え、その答えが萌香を傷つけることになっても。


「……あはは、なんとなくわかっていました。先輩が私を異性として全く意識してないことは」


 萌香が乾いた声で笑い、上を見上げる。


「……わかっていました。でも、それでもっ辛いですっ」


 萌香の両目から、溢れ出る雫が地面を濡らす。


「ごめ――」


 違う。この言葉は違う。

 萌香を傷つけたのは俺自身なんだ。そんな生半可な言葉を伝えたらダメだ。


「……すぅ、はぁ〜」


 萌香がいきなりその場で大きく深呼吸をする。


 どう、したんだ……?


「諦めませんからっ!もっと私のことを見せますっ。もう異性として見てないだなんて言わせませんっ。絶対に、絶対に落としますからっ!!」


 萌香が大きく宣言する。


 夕陽と萌香が重なる。


 ……強いな。

 自分の気持ちを蹴られたのに、折れてないなんて。


「だから覚悟していてくださいね、伊織先輩っ」


 俺に小悪魔的な笑みを浮かべる萌香。

 その目尻は赤く腫れていた。



◇◆◇◆◇◆



 屋上に備え付けられているベンチに萌香と肩を並べて座る。

 沈んでいく夕陽、昇っていく月を無言で眺める。

 気まずくはない。むしろ心地良いと感じている。


 下からの喧騒はだんだんと静かになっていっている。

 もうすぐで文化祭が終わる。


「そろそろ、戻らないと。花音が心配してるかも」


「ですね」


 立ち上がり扉へと向かう。


「せんぱーい、手つなぎましょっ」


 萌香がそう言って右手を俺に差し出す。

 いつもの小悪魔的な笑みを浮かべて。


「いいよ、ほら」


 俺は差し出された手を握る。


「これでいいか?」


「……っ?!」


 萌香からの返事が来ない。

 まあ、それもそうだろう。


「顔赤いぞ?」


「う、うるさいですっ。このくらい平気ですよっ。ほら早く行きましょうっ」


 夕陽なんかじゃ誤魔化せないほど赤くなった顔。


「萌香って、俺をからかう割に照れ屋だよな」


 喫茶店でたまに顔を赤くしていたのはそういうことだったんだ。


「っ……先輩のばかッ」

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