誤ち

 久しぶりに見る光景。

 久しぶりに握るマイク。

 私の左には葵ちゃん。右には優里ちゃん。


『――ッ!!!』


 大勢の方たちの声援が、熱が私たちを叩きつける。


 どこだろうと変わらないこの感じ。

 ステージの上の臨場感。

 会場が一つになっていくこの高揚感。

 会場の規模が小さくても大きくても変わらない緊張感。


 みんなに踊りを歌を笑顔を送る。


「っ――!」


 でもどうしてかな。何かが違う。

 雰囲気は同じ。ダンスの調子も悪くない。歌も現役の頃と同じくらい良いはず。


 でも何かが決定的に違う。


 『――ッ!!!』


 絶え間なく私たちに声援を送ってくれる会場のみんな。

 ……みんな?

 何この違和感。何かが欠けているような、喪失感は。 


 ぁ……。そうか。


 私はアイドル失格だな。ううん、失格だったんだ、昔から、そして今も。


 だって私はずっとたったひとりの為にアイドルをしていたんだから。


 私のダンスを一番に見てほしい。


 私の歌声を一番に聞いてほしい。


 他の大勢のファンより、たったひとりに届けばいい。いや、届けたい。 


 そんな気持ちでステージに立っていた。

 そんなのファンに対しての冒涜と同じだよ。

 それに、今はいない。


 私は、誰に届けたらいいの?

 私は、どうしてここに立ってるの?

 そもそも私はここに立っていいの?


 無表情だけど内から溢れ出る、ステージに立つことへの喜々の感情。

 そして、誰よりもアイドルとしての誇りを持っている優里ちゃん。


 いつだって元気で明るく会場を盛り上げ、アイドルを一番楽しんでいる葵ちゃん。


 そんな2人と同じステージに立つ資格が私にあるのかな?

 そんな2人と肩を並べていいの?


 ダメ、だよね……?


「っ――!!」


「っ――!!」


 きれいな歌声と元気な歌声が私の歌声と混ざり合う。


 え?!ここは私のソロパートだよね?!


 私は焦って優里ちゃんを見る。


 すると、優里ちゃんの瞳と交わる。


(星奈、私たちはアイドルですよ?)


 目がそう語っていた。


 逆サイドの葵ちゃんを見る。


 葵ちゃんの輝く瞳はファンの方へ向けられていた。

 たぶん、私の不調を本能的に読み取ったのかな。


 そうか。そうだね。

 私はアイドル。


 アイドルはみんなに元気を与えるもの。


 昔はアイドル失格だったのかもしれない。


 でも、だからこそ今、私はアイドルになる。


「っ――!!」


 今からは伊織くんのためにじゃない。ここにいるみんなのために歌おう。

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