デート

「じゃ、どこ行く?」


「ちょ、ちょっと待って下さいよっ。私を見て何とも思わないんですかっ?」


 え?そんなこと言われてもな。何とも思わないんだけど……


「別に」


「……少し化粧してきたのに」


 どこか拗ねたように呟く萌香。しかし、その呟きは俺の耳に入ってきて。


 萌香の顔をじっと見つめる。


「ちょ、ちょっとそんなに顔を近づけないでくださいよっ」


 顔を赤くする萌香。

 あぁ、確かにいつもと違うな。でも……


「お前は化粧してなくてもいつもかわ……何でもない」


 危ない。「かわいい」って言ってしまうところだった。

 萌香にそんなこと言ったら絶対に調子に乗る。


「ほら、早く行くぞ」


 俺は萌香を残して歩き出す。


「……ぁ。せ、先輩っ!続き、続きをお願いしますっ」


 萌香が後ろから声を出しながら追ってくる。


「絶対に嫌だ」


「どうしてですかっ!」


 だって絶対にウザいじゃん。


「今言いかけてましたよねっ、『かわ――」


「行くぞ」



◆◇◆◇◆◇



 一方、体育館のステージ裏にて。


「説明してくれるよね?」


 少し怒った様子の星奈が2人に問いかけていた。


 その2人とは、伊織のクラスのカフェに来店したあの不審なお客さんだった。


「ごめんなさいね。でも、私たちがこのまま来たら騒動になると思って」


「変装するの楽しかった!」


 2人がニット帽とサングラスを外す。


「……優里ちゃんも楽しんだでしょ?それに葵ちゃんはもう少し悪気を持ってよ」


 ニット帽とサングラスで変装していたのは、優里と葵だった。


 場が騒然とする。

 ステージ裏と言えど多少、生徒がいる。


「それは、葵が驚かそうって言ったからです」


「あぁ!優里も賛成したじゃん!」


「もういいよ。それで?どうしてここに呼んだのかな?予想はつくけど……」


 星奈は、2人が教室に来た時点で2人の正体に気づいていた。

 そして星奈は2人に接触して、ここに呼ばれたわけだった。


「ライブだよ!久しぶりにやろうよ!」


「急にごめんなさい。葵がいつの間にか話を進めていて」


 葵が嬉しそうに言う中、優里が星奈に謝る。しかし、優里も既にステージに上がる気になっているようだ。


「……いいよ。いつから始めるの?」


 星奈は諦めたように2人にそう尋ねた。



◇◆◇◆◇◆



「先輩っ、これ見ましょうっ」


 萌香に手を引かれてたどり着いた教室。

 えーと、劇場?すごいな。

 『人魚姫』か。


「いいよ」


「では、行きましょうっ」


「お、おい……」


 手は繋がなくてもいいんじゃないか?

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