多忙

「みんな、準備はいいか!目指すは総合優勝!」


 文化祭開始まで残り数分。クラスの陽キャ代表みたいな人が前に立って士気を高める。

 クラスのみんなはそれにつられて盛り上がる。


「伊織くん、総合優勝って?」


「そっか、星奈ちゃんは初めてだったね。簡単に言うと売上が一番多いところが総合優勝するんだよ」


 文化祭終了後に賞状を貰えるんだっけ。


「楽しそう!頑張ろうねっ!」


 星奈ちゃんがガッツポーズをする。


「そうだね」


 優勝したところでただ賞状を貰えるだけ。

 どこかこんなふうに冷めていた。でも、何事にも全力で楽しもうとしている星奈ちゃんを見ているとバカらしくなってきた。

 よし、とことん楽しもう。



◇◆◇◆◇◆



「い、いらっしゃいませーっ」


 なんだこれ。

 まだ文化祭始まって1時間だよ?それなのにめっちゃ行列できてるんだけど?!

 楽しむ余裕なんてないんだけど。


「お待たせしましたっ。紅茶と手作りクッキーです」


 星奈ちゃんが慌ただしくも笑顔で配膳する。


 やっぱり、星奈ちゃんがいるからか。


 黒と白のメイド服。スラリと伸びるハイソックスに包まれた脚。そして、腰にまで流れる金髪。

 メイドの筈なのに、天真爛漫なお嬢様みたいだ。


「お待たせしました。コーヒーとクッキーです」


 いや、星奈ちゃんだけじゃない。


 メイド服に調和している艷やかな黒髪。そして、星奈ちゃんに負けないスタイル。


 由香里さんもお客さんを呼んでいるんだ。


「お待たせしました。紅茶とシフォンケーキです」


 俺もぼさっとしているわけではなくしっかりと働いている。

 みんなからの指示で女性のお客さんを相手にしている。けど、俺でいいんだろうか?

 女性のお客さんたちも星奈ちゃんや由香里さんを見に来たんじゃ……。

 まあ、でもそんなことも言ってられないか。速くお客さんを捌かないと。


「いらっ……げっ」


 作っていた笑顔が引き攣るのがわかる。


「『げっ』てなんですかっ。やり直してくださいっ!かわいい後輩が来てあげたんですよっ!」


「もえちゃんがどうしても行きたいって言うから来たよバカ兄」


「か、花音それは言わないって!」


「ここで立ち止まらないで。席に案内するから着いてきて」


 教室のお真ん中で言い合いを始めた2人を無理やり席に案内する。


「で、注文は?」


「ちゃんとやってくださいっ。私たちはお客様ですよっ」


 萌香が俺の対応にいちゃもんをつける。

 花音はニヤニヤしながら俺を見つめる。


 ……はぁ、仕方ないな。恥を捨てよう。


「お嬢様方、ご注文はいかがになさいますか?」


「ぷっ……ふふっ」


 花音、覚えとけよ。


「はふっ」


 あれ?萌香が顔を赤くしてフリーズした。


 もう、なんなんだよ。2人とも邪魔しに来たのか?

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