準備

「よし、これでいいかな」


 文化祭まで残り一週間を切り、文化祭の準備も終わりへと近づいていた。

 俺は、教室の内装を担当している。

 それで、今ちょうど区切りがついたところである。


「神宮寺くん、服の採寸していいかな?」


 少し休憩しているところに1人の女子がメジャーを持って俺の方に来た。

 執事服の採寸か。


 俺のクラスでは、裁縫ができる人が分担して執事服やメイド服を作ってくれるらしい。

 星奈ちゃんや由香里さんも裁縫担当だ。

 由香里さんはお弁当の件といい、どうやら俺が思っている以上に女子力が高いらしい。


「ちょうど休憩していたところだったし、お願い」


「ありがとう」



◇◆◇◆◇◆



「星奈ちゃん、由香里さん、お疲れ」


「伊織くんもお疲れ様」


「お疲れ」


 今日で内装はだいぶ終わった。

 ただ、裁縫の方はまだ時間がかかるみたいだ。


「伊織くん」


「ん?」


「文化祭の2日目、私と一緒に回ってくれませんか?」


 帰り道、星奈ちゃんが俺を誘ってくれる。

 でも、その日は……


「ごめんね、嬉しいんだけど先に誘われてて。できれば1日目がいいかな」


 その日は萌香と文化祭を回る約束をしている。

 少し心は痛むけど仕方ない。


「……先着いたんだ。じゃあ、1日目でいいかな?」


「うん、いいよ」


「えっと、誰なのか聞いていい感じかな?」


 星奈ちゃんが控えめに尋ねる。


 うーん、いいんだろうか。

 でも雰囲気からして一応言わない方がいいのかな?

 いや、萌香のことだし気にしなさそうだ。それに、星奈ちゃんに不安そうな表情はさせたくないな。


「萌香だよ」


「……萌香ちゃんかぁ」


「……なるほどね」


 何か2人ともわかったような顔をしているな。


「何かわかったの?教えてくれない?」


 参考までに。


「嫌よ」


 由香里さんに速攻で断られた。


「ごめんね。これは流石に言えないかな……」


 星奈ちゃんにも断られた。


 でも、どうやら2人は何かわかったらしい。


 なんだろう。少しくらい自分でも考えないとな。


 ……ダメだ。


 いつもそうだ。人の感情を読み取ろうとしたら頭の中が黒い霧で覆われたみたいになるんだ。

 昔はそんなことなかったし、ちゃんと人の気持ちを捉えきれてたはずなんだ。

 いつからこんなんになったんだっけ?


「伊織くん?」


「伊織、ボーとしてたら危ないよ」


「あ、ごめんね。少し考え事してて……」


 俺は頭のモヤを振り払って、足を進めた。

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