覚悟

「ねぇ、バカ兄」


「ん?」


「文化祭いつ?」


 夕食を花音と食べていると、花音にそう尋ねられた。


「……半月後。9月27日と28日」


「ふーん、そっかぁ」


 花音が再び箸を進める。


「なあ、萌香だけは連れてこないでくれよ?」


「え?なんで?」


 花音が顔を上げる。


「俺、文化祭で執事服着ることになったんだけど、見られたくなくて」


「へぇ、執事服かぁ」


 花音がニヤリと口角を上げる。

 嫌な笑みだ。


「楽しみにしてるよ」


 何をだよ。



◆◇◆◇◆◇



 もう寝ようと思ったとき、電話がかかってきた。


「げ、萌香だ」


 出ようかな。いや出ないと後で怒られる。


「もしもし」


『あ、せんぱ〜い。ずっと私の声が聞けなくて寂しかったですよねっ』


「いいや、そんなに」


『もう、ツンデレですねっ』


「……切るよ?」


『ご、ごめんなさいっ』


 急に素に戻って謝ってくる。


「それで、なに?」


『先輩の高校で文化祭ありますよね?先輩の2日目、私にください』


 耳に通る真面目な声の萌香。


『この前言いましたよね?いつか伝えますからって。それを伝えます』


 夏休み前のあれか。


「わかった。まだ自由時間がどのくらい取れるかわからないけど、わかったら伝える」


 何のことかはわからないけど、大事なことだってのはわかる。だからちゃんと受け止める。

 萌歌はうざくてうるさいけど、良いやつだから。


『はい、ありがとうございます先輩』



◆◇◆◇◆◇



「すぅ……」


 ダメだ。まだ文化祭は先だっていうのに緊張してしまう。


「私、やるよ花音」


 文化祭、先輩に伝えるんだ。好きだと。


 夏休みに星奈さんに出会って気づいた。星奈さんは先輩のことが好きだ。

 そして、先輩が言った『気になる人ができそう』って言うのはたぶん星奈さんのこと。


 ショックだった。

 だって、もう実質両想いじゃん。


 でも、やっぱり諦めきれない。

 まだ想いも告げれていないのに。


 それに、未だに先輩は私の好意にすら気づいていない。先輩の眼中に私はいない。

 それで失恋しても、悔やんでも悔やみきれない。


 告白するのは怖い。だけどもっと怖いのは何も伝えられずに終わること。

 もし、断られたらその時はきっぱりと諦めよう。

 断った相手にかまわれたら先輩も迷惑するだろう。


 だから断られたら諦める。断られなかったら、先輩の彼女だ。


 覚悟しててくださいね先輩っ。

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