文化祭

「おはよー」


 朝礼開始とともにドアから高ちゃんが入ってくる。

 今日もよれよれのジャージ姿だ。


「半月後文化祭あるから。準備しておくように。それじゃ」


 高ちゃんはそれだけ言って教室から去っていった。


「文化祭かぁ」


「伊織くんっ、文化祭だって!」


 おお、星奈ちゃんのテンションが上がってる。

 楽しみなんだ。


「そうだね。各クラスで出店するんだけど、星奈ちゃん的には何がしたい?」


「うーん、喫茶店とか?」


 喫茶店か。去年もしたな。色んなクラスと被るからそこまで人が来なくて、自由な時間が多かった記憶があるな。


「いいね、それ」


 まあ、俺たちがこんなこと言っても決定権は持ってないから意味ないんだけどね。


「あ、今クラスの陽キャたちが喫茶店がしたいとか言い出したよ」


 隣から由香里さんが言う。

 俺は陽キャ集団の方へ耳を傾ける。


『執事・メイド喫茶でよくね?』

『確かに。あの3人いるし絶対成功するよ』

『マジじゃん。じゃあ、それにしない?』

『うしっ、今年は優勝だな!』


 3人?星奈ちゃんと由香里さんと……まあ、いいや。


「本当だ。もうほぼ決定してるよ」


「やったぁ!」


 星奈ちゃんが無邪気に喜ぶ。


「でも、執事・メイド喫茶だって」


「マジかあいつら」


 由香里さんが嫌そうな顔をする。


「私、メイド服とか着たことないな」


「星奈は似合うと思うよ。私は似合わないだろうから着ないけど」


「ん?由香里さんも似合うと思うよ。黒髪とかメイド服に合いそう」


「そ、そういうのは星奈に言えって!このバカっ」


 顔を真っ赤にして怒られた。どうして……


「あはは……。それより、伊織くんも執事服似合いそうだよね」


「お世辞はいいよ。自分のことは自分が一番知ってるんだよ?」


 去年は執事喫茶だったんだけど、店員じゃなくて料理の盛り付けとかだった。

 俺の執事服姿が似合わなかったから。


「いや、伊織が一番分かってないよ」


 由香里さんがきっぱりと言う。

 失礼だな、由香里さんは。


「私もそう思うな」


 えー、星奈ちゃんまで?


「あ、髪切ったから少しはましになってるかも」


 そうか。去年は髪長かったからな。


「やっぱり分かってないじゃん」


「……そうだね。由香里ちゃんに同感するよ」



◇◆◇◆◇◆



 俺のクラスの出店は『執事・メイド喫茶』となった。


 俺は裏でクッキーとか盛り合わせたりするのかと思ってたんだけど。何か、クラスのみんなからの支持で実施服を着て接客をすることになった。

 どうやら、髪を切った俺は自分が思っていたよりも酷くないらしい。

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