宿題

 夏祭りが終わり、始業式まで残りわずかとなっていた。

 残りは遊ぶ約束も入ってないし、冷房の効いたリビングでゆっくりしよう。


 と、思っていた。


 どんよりとした空気。そんな空気がリビングを包んでいた。


「……花音、それ本気で言ってるの?」


 俺の隣に座る萌香が驚愕の表情で目の前に座る花音に問いかける。


「……うん」


 花音は重々しく頷く。

 花音の頬に一筋の汗が流れる。


「……そういえば、お前ずっとリビングいたのに、してるところ見なかったな」


 花音の肩が跳ね上がる。


「……恥を承知で頼みます。手伝って下さい」


 花音が椅子の上で正座して頭を下げる。


「……萌香、中学の始業式まであと何日ある?」


「……3日です」


「俺と同じか。萌香、手伝ってくれ」


「はい」


 今回ばかりは萌香のうざ絡みは炸裂しない。

 それほど事態は重いんだ。


 だって、花音が宿題を何一つ終わらせてないのだから。


「借り一つだからね、花音」


「……はい。もえちゃんもバカ兄もありがとうね」


 花音は家事とかは率先してやるんだけどな。大の勉強嫌いなんだよな。

 もっと早く気づいていればな。

 いや、もう遅いか。



◇◆◇◆◇◆



「星奈ちゃん、由香里さん、おはよう」


 始業式当日。教室に入ると、星奈ちゃんと由香里さんが楽しそうに談笑していた。

 由香里さんとは結構久しぶりに会う。


「あ、伊織くんおは……」


「久しぶり、いお……」


 声を掛けたら2人は話を中断して俺の方を振り向く。


「伊織くん、すごいクマできてるよ!」


「大丈夫なの伊織?」


 え、クマできてるの?


「たぶん徹夜してたからかな」


「宿題終わってなかったの?」


 星奈ちゃんが悟ったように聞く。


「そうなんだ。とは言っても妹のなんだけどね」


 結局宿題は今日の朝4時くらいに終わったんだ。だから全然寝れてなくて。


「へぇ、もっとしっかりしてると思ってた」


 由香里さんが意外そうに言う。


「いやいや、花音は家ではぐだぐだしてるよ」


 両親が仕事の関係で2人で暮らすようになってから、大人ぶるようになったんだけど。やっぱり子供なんだよな。


「どこかおっちょこちょいで、目が離せないんだよ。もっとしっかりしてほしいよ」


「ふふ、お兄さんって感じだね」


 2人が微笑みながら俺を見る。

 ……何か恥ずかしいな。



◆◇◆◇◆◇



「じゃ、宿題回収するぞ」


 担任の高峰先生、通称高ちゃんがきだるげに呼び掛ける。


「あ」


 俺の口から思わず漏れてしまった。


「どうしたの?」


 隣の星奈ちゃんが聞いてくる。


「……宿題忘れた」


 カバンの中に入れたはずなんだけど……


「ふふ、兄妹だね」


 ……恥ずかしい

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