普通の女の子

 上に打ち上がる花火を見上げる。

 隣には伊織くんがいる。


 それは、とても幸せなこと、なんだけど。今はなんだか違う感情も混ざってる。


 答えを求めて伊織くんを横目に見る。

 視界に映るのは、目を輝かせて花火を見る伊織くん。


 そうか。私はもっと伊織くんに楽しんでほしかったんだ。一緒に屋台回って。


 伊織くんは私のせいじゃないって言ってくれた。

 でも、違う。全部私のせいだよ。


 私に元アイドルなんて肩書きがなければ一緒に回れた。

 知らない人たちに囲まれたり、男に襲われたりなんてなかったかもしれない。


 私がアイドルだったから……。


 今まで、アイドルだったことを後悔したことなんてない。そして、今もしてない。

 アイドルとしての活動は辛いことは多かったけど楽しかった。

 それに、伊織くんと出会えたのもアイドルをしていたから。


 でも、今は。今日だけは、


「普通の女の子になりたかったな」


 肩書きなんてない、ただの如月星奈に。

 そんなこと叶わないんだけどな。



◇◆◇◆◇◆



「ただいまー」


「おかえりーバカ兄」


 花火が終わり、星奈ちゃんを家まで送って帰宅する。

 すると、リビングから花音が珍しくお出迎えしてくれる。


「珍しいな、お前がソファから離れるなんて」


「お土産は?」


 ……そう言えば頼まれてたな。


「ごめんごめん、忘れてた」


「……」


 花音が無言でたたずむ。


「お、おい?」


「楽しみにしてたのに!このバカ兄が!!」


 花音が怒鳴りながら、俺の腹に拳を突き刺す。


「痛っ!ごめんって、何か作るからさ!」


「バカ兄、料理下手でしょ!いいよ、自分で作るし!」


 花音がぷりぷりしながら俺から離れていく。


「花音、俺の分も作ってくれないか?」


 そう言えば何も食べてなかったことを思い出し花音に頼む。


「はあ?バカ兄は祭りで食べたんじゃないの?」


 花音がキレ気味に聞く。


「いや、色々あってね」


「はあ、1人分も2人分も変わらないか。仕方ないから作ってあげる」


「ありがとう!」


「簡単なやつだからね。文句言わないでよ」


「言うわけないだろ」



◆◇◆◇◆◇




「バカ兄、文化祭いつだっけ?」


 花音と少し遅い晩ご飯を食べていると、花音が聞いてくる。


「あー、学校始まって結構すぐだった気がする」


 去年は確か、夏休み終わって1ヶ月後くらいだった気がする。


「ふーん」


 花音が笑みを浮かべる。


「なんだよ、その反応」


「そこでりんご飴とか食べれるかなって」


「あ、今年は萌香連れてくんなよ」


 去年、俺の教室に来てからめっちゃ引っ付いてきたんだよ。

 目立ってしょうがなかった。


「ヤダよ」


「そこを何とか頼むよ。萌香、無駄にかわいいから目立つんだよ」


「……それ、もえちゃんに向かって言ってみて」


「ヤダよ。『かわいい』なんて言ったらもっとウザくなるだろ」


 考えただけで分かる。


 『えー、せんぱ〜い。もしかして、私に惚れちゃいましたかっ?悪いんだっ。でも、先輩がそこまで言うんだったら付き合ってあげてもいいですよっ』


 絶対、こんな感じにたたみかけてくる。


「……いや、たぶん耐えきれないんじゃないかな?」


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