悲劇

 一泊二日の海から帰ってきて早くも2週間が経った。もう夏休みの終わりが見えてきた。

 宿題は終わっている。


「バカ兄、アイスぅ」


 花音がソファに横になって俺に指図する。


「はいはい」


 自分もちょうど食べたかったのもあり取って上げることに。


「って、アイスないぞ」


「え?」


「花音、いっぱい食べてただろ?」


 花音に視線を飛ばす。

 すると花音は顔をそむけて、


「知らない。バカ兄買ってきてぇ」


「こんな暑いなか外に出ろと?」


 外は蝉の声がうるさくて、想像するだけでも暑い。


「お願い」


 花音が上目遣いで俺に頼む。


「いや、可愛く言っても無理だから」


「けち」


 だって、暑いから。


 ブーブー


 俺のポケットにしまっておいたスマホが着信音を鳴らす。誰だ?


「あ、星奈ちゃんだ」


 なんだろう。とりあえず出ないと。


「もしもし」


『もしもし。今、電話掛けても良かったかな?』


「うん。全然いいよ」


『それで急なんだけどね、明後日にある夏祭り一緒に行きませんか?』


「夏祭りかあ。いいよ」


『本当?!ありがとう!』


 そんなに感謝されるようなことでもないんだけどなあ。


「じゃあ、またね」


『うん。ばいばい』


 待ち合わせ場所、待ち合わせ時間を決めて星奈ちゃんとの通話を終える。


「花音、明後日星奈ちゃ……あれ?いない」


 あんなにもソファから動かなかった花音が姿を消していた。

 トイレかな?

 まあとりあえず、


「ソファ、ゲットォ」


 俺はさっきまで花音が独占していたソファにダイブする。


「うぇ、ソファが生温かい」



◆◇◆◇◆◇



「もえちゃん、あんたバカ兄祭りに誘った?!」


 バカ兄と星奈さんの通話で思い出した。夏祭りの存在を。

 バカ兄の口ぶりから、まだ誰にも誘われてなかったみたいで。部屋まで駆け込んでもえちゃんに確認しているところだ。


『……ううん』


「今すぐ誘いなよ!バカ兄、さっき星奈さんに誘われてたよ?」


 ……あれ、返事が来ない?


『だってぇ、だってぇ塾があるんだもん!』


 もえちゃんの涙声が鼓膜を殴りつける。

 ……どうやって励まそうかな?たぶん、かなりのダメージ食らってるよ。


「……りんご飴買ってきてあげる」


『バカッ!!』


 通話を切られた。


「本当にごめんね」


 私は部屋でもえちゃんに謝った。

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