楽しい時間は一瞬

「ねぇ、花音ちゃん」


 隣で寝ている花音ちゃんに話しかける。


「なんですか?」


 花音ちゃんは、艶のある黒髪ロングの美少女。新宮寺一家は美形なのかな?

 今は部屋の電気が消えているから見えないけど。


「……萌香ちゃんって伊織くんのこと好きだよね?」


「そうですね」


 会話が途切れてしまう。

 どうしよう。私、めちゃくちゃ緊張してる。こんなに緊張するの久しぶりだよ。


「敵情視察ですか?」


「い、いや、そういうわけじゃないよ?!」


 あ、というか私が伊織くんのこと好きなのバレてる……。


「えっと、花音ちゃんって萌香ちゃんを応援してるよね?」


「えぇ、まあ」


「……それで私のこと嫌いだったりしないかなぁって」


 実は嫌われているかもってさっきから怖かったんだよぉ。


「え?そんなことないですよ」


 花音ちゃんの答えは以外とあっさりしたものだった。


「よかったぁ」


「どうして嫌われてるって思ったんですか?」


「……だって全然笑ってくれないから」


 部屋で2人きりになった時、花音ちゃんずっと表情を変えなくて。声も少し低いし、口数も少ないし。不安だったんだよ。


「……流石に元トップアイドルと2人きりは緊張しますよ」


 あ、そういうことだったんだ。


「でも、何か元トップアイドルも普通の人なんだなぁ、って思いました」


 花音ちゃんの声が少し明るくなった気がする。


「アイドルなんてステージがなければ普通の女の子だよ」


「……いや、普通の女の子ではなくて美少女ですよね?」


「あはは、」


 正直、花音ちゃんの方が可愛いと思うけどね。花音ちゃんは可愛いの中にかっこいいが入っている感じだ。


「どういう経緯でバカ兄に惚れたんですか?やっぱり、顔ですか?」


 やっぱり妹としてこういうのは気になるものなのかな?いや、それとも女の子だからかな?


 でも、どうして花音ちゃんは伊織くんのことを『バカ兄』だなんて呼んでいるんだろう。

 呼んでる声に、バカにしたような感情は含まれていないし、仲良かったし。気になるな。私の話が終わったら聞いてみよう。


「私が伊織くんを好きになったのはね――」



◇◆◇◆◇◆



 楽しい時間は一瞬で終わる。その言葉をこれほど実感したことはないな。

 2日目。朝からみんなで遊んで、もうすっかり日が沈んでいた。


「じゃあ、みんなまたね!」


「みなさん、お元気で」


「また遊ぼうね」


 【シューティングスター】の3人が手を振ってタクシーに乗り込む。


「さようなら」


 俺たちは別れの挨拶をかける。


 そして、タクシーは走り去っていった。


「帰ろっか」


 みんなに言うと、みんなは静かに頷いた。

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