トロピカル
……みんな遅くない?
着替え終えた俺は1人でビーチまで来たんだけど……。
もう20分は経つのにまだ1人も姿を見せてない。
いや、女性は着替えるのが長いと言うから。これくらい普通なのかな。
「おまたせバカ兄」
海を寂しく1人で見ていると後ろから花音の声が。
そして、花音の後に続くようにみんなの声も耳に入る。
「すみません、伊織さん。数名が着替えるのに手間取ってしまって」
優里さんがわざわざ簡単に事情を説明してくれる。
「「……ごめんなさい」」
後ろで星奈ちゃんと萌香が小さくなって謝る。
2人が手間取っていたのか。水着を着るのに手間取るとかあるんだ。
「いや、全然いいよ。それよりも今は海を楽しもう」
「そうですね」
もう既に葵さんは浮き輪を膨らましていた。
手伝いに行こう。
◇◆◇◆◇◆
「よし、みんな準備は整った!遊ぶぞー!!」
浮き輪をひと通り膨らまし終えた後、各自準備運動をした。
そして、葵さんが俺たちを置いて1人海に駆け出す。元気だなぁ。
じゃあ、俺も行こうかな。なんだかんだで久々の海だからな。さっきから入りたかったんだ。
「伊織くん、私たちも行こうか」
「うん」
あ、デートのときとか彼女の服装を褒めたら喜ぶなんて言ってたような……。
「星奈ちゃん、その水着似合ってるね。白の水着が金髪とあっているよ」
彼女でもないし、デートでもないけど。
「え……あ、ありがとう!」
あれ?ちょっと反応が微妙だったなぁ。あれは盲信だったのかも。
「……自分でしっかりと選ぶべきだったなぁ(ボソッ)」
浮き輪を片手に裸足で海へと向かう。
「熱っ」
砂浜が思っていた以上に熱かった。
隣で星奈ちゃんも悶ている。
「走ろう」
「うん!」
◆◇◆◇◆◇
「……もえちゃん」
「……わかってる。強敵すぎるよぉ」
「泣き言言わない!バカ兄が髪を切った時点でライバルができるのはわかっていたことでしょ。流石に星奈さんだとは思わなかったけど」
「星奈ちゃんの性格を真似している私は星奈さん下位互換。どうしよう……」
「……だからそれ星奈さんの性格じゃないって。ほら行くよ!」
「うん」
◇◆◇◆◇◆
「では、私たちも行きましょうか」
「うん、そうだね」
「あ、由香里さんは伊織さんと遊びたいですよね?」
優里がいたずらな笑みを浮かべる。
「え?!い、いやそんなことないよ!」
由香里が顔を赤くしながら首を振る。
「そうですか。先ほどから伊織さんの様子を伺っていたようなのでてっきり」
「なな、なんのことかなー?」
由香里が優里を置いてビーチへと駆け出す。
「……このまま隠しきるつもりですね、あれは。それに気づいているのは本人と私。……少しお節介をかきましょうか」
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