水着

 まずいなこの状況……。もえちゃんと分断されてしまった。

 もえちゃんがどんな水着を持ってきているのかはまだ知らない。でも、絶対にヤバいものだ。

 早く渡さないと。もえちゃんのために持ってきた普通の水着を。


「花音ちゃん着替えないの?」


 もえちゃんのことを考え過ぎて手が止まっていた。

 星奈さんが気にかけてくれる。


「い、いえ今から着替えます」


 とりあえず着替えてから渡しに……いやでも、もえちゃんが早く着替えてバカ兄のとこに行く可能性もある。


「葵ちゃんが選んでくれた水着はどんなのだろう」


 星奈さんの呟きが耳に届いた。期待しているような声音だ。


 やっぱり仲良いんだ。普通水着を他人に任せるなんてことしないだろう。

 それにしても元アイドルが選んだ水着かぁ。

 私は興味本位で星奈さんの手元を覗いた。


「え……」


 そこに写ったのは水着を手にして固まっている星奈さん。そして、星奈さんのてにぶら下がったあまりにも面積の小さい紐のビキニ。


 ……アイドルってすごいんだね。


「……こんなの着れないよぅ」


 やっぱりそんな訳ないか。これは、あれだな。葵さんがふざけたのかな?

 星奈さんが半泣きになっている。


 私、今水着2枚あるんだよね。自分のを含めて。でもそれはもえちゃんのために用意したもので……。


「あ、あの……」


 コンコン


 私が星奈さんに水着いるか聞こうとした時部屋の扉がノックされる。


「優里です。入りますね」


 優里さんが部屋に入ってくる。

 しかし、そこには例のぶつを持った星奈さんがいて……


「ち、違うよ?!こ、これは葵ちゃんが用意してくれたもので、私が選んだものじゃっ……」


「わかってます。葵と一緒に私も水着を買って行ったので」


 そう言って優里さんは左手に持っていた紙袋を星奈さんに手渡す。

 まさか……


「水着です。おそらく星奈の好みにあってると思います」


 星奈さんが受け取り水着を取り出す。紐を首の後ろで結ぶ白のホルターネック・ビキニだ。


「わぁ!可愛い、ありがとう優里ちゃん」


「葵のファッションセンスを忘れていたんですか?」


「流石にこの水着は予想できないよ」


「その予想を越えていくのが葵です。一種の才能ですよ。プライベートビーチだとはいえそんな水着を選ぶのは」


 ……ごめんなさい。うちの連れ、才能持ちです。


「とりあえず私は部屋に戻ります」


「あ、本当にありがとう」


「いえ、気にしないでください」


 優里さんはさっそうと去っていった。


 かっこいい。

 って見惚れてる場合じゃない。決めた。今から届けに行こう。


「友だちのものを間違えて持ってきてしまっていたので届けに行きます」


「うん、いってらっしゃい」


 待っててもえちゃん。普通の水着を着せてやるから。

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