誤解

「伊織くん、前に言ってなかった?『妹たちだよ』って。どういうことかな?」


 星奈ちゃんが笑顔で問いかける。


 星奈ちゃん現役の頃、星奈ちゃんの笑顔は全ての人を魅了すると言われていた。

 そんな笑顔を今、俺だけに向けられている。よく考えれば今だけじゃないんだけど。星奈ちゃん、よく笑顔見せてくれるというかいつも笑顔だし。


 それにしても、今は星奈ちゃんの笑顔がどこか怖い。


「え、えっと、花音と萌香のことです」


「へぇ、それで『妹たちだよ』って言ったんだね」


 優しい声なんだけど怖い。


「……はい」


「なんだ。私の早とちりだったんだね。てっきり伊織くんに妹さんが2人いたんだと勘違いしちゃったよ」


 ふふふ、と笑みを漏らす星奈ちゃん。


「え、えっとこれは俺の伝え方がいけなかったです。ごめんなさい」


 どう考えても俺が全部悪い。


「だよね。伊織くん、次からは丁寧に説明してね?」


「はい」


 ようやく星奈ちゃんの様子が元に戻った。もう星奈ちゃんを二度と怒らせないようにしよう。


「……もえちゃん、星奈さんたぶん」


「……分かってる。強敵すぎ」


「自己紹介終わりー!じゃあ、今から部屋割りするよー!」


 静かな空気を取り壊すように葵さんが明るい声を上げる。


「伊織さんはお一人でよろしいですか?」


 優里さんが俺に問いかける。


「もちろん」


「いおりん、どうしても女の子と寝たいなら私と寝る?」


 葵さんが俺のほう見てニヤニヤしながら聞いてくる。

 いおりんって俺のこと?


「え、遠慮しとくよ」


 もしも俺が断らなかったら本当に寝るのかな?いや、寝たいってわけではなくて気になっただけ。


「葵ちゃん!!」


 あ、星奈ちゃんに怒られてる。


「ごめんごめん冗談だよ。いおりんも断ったでしょ」


「そういうのは止めてよ」


「はーい。よし、じゃあ部屋割りするよ!このくじを引いてね!」


 そう言って葵さんが取り出すのは6本の割り箸。



◇◆◇◆◇◆



 部屋割りの結果はこのようになった。

 ・星奈ちゃん&花音

 ・葵さん&萌香

 ・優里さん&由香里さん


「よし!じゃあ、みんな海に行こう!!」


 葵さんのその一言を区切りに確かに部屋の空気が変わった。


 笑顔で顔を見合わせる星奈ちゃんと葵さん。

 どこか企んだような悪い笑みを浮かべる萌香。

 そんな萌香を険しい表情で見つめる花音。

 そして、そんな4人を達観する俺と優里さん。


「各自部屋で水着に着替えよう!」

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