察する

「花音、準備はできたか?」


「できたよ」


 夏休みに入り、一泊二日の旅行の日がやって来た。


 ピンポーン


「バカ兄、もえちゃん来たよ」


「じゃあ行くか」


 俺と花音は玄関を開けて外に出る。

 エレベーターで下に降りると萌香がいた。


「せんぱ〜い、夏休みに私と会えて嬉しそうですねっ」


 そうでもないよ。とは流石に言えない。


「花音、海に着くまで萌香の相手よろしくな」


「……流石に電車の中までこのテンションじゃあれだからね。いいよ」


「駅前に友達いるから行こっか」


 由香里さんが待ってる。

 星奈ちゃんは電車乗ったら大騒ぎになるらしいからタクシーで行くらしい。



◇◆◇◆◇◆



「あ、いた。おはよう由香里さん」


「あ、おはよう伊織。どうも山本由香里です」


「ちょ、ちょっと先輩?!と、友達って男じゃないんですか?!」


 由香里さんを見た萌香が俺に問い詰める。

 一度も男だなんて言ってないんだけど。どうしてそんなに焦ってんだよ。


「そうだよ?」


「友達、なんですよね?」


「お、おう」


 萌香の凄まじい剣幕に圧倒されてしまう。


「そこのバカ兄の妹の神宮寺花音です。よろしくおねがいします」


「バカ兄て……。まあ、よろしくね花音」


「はい、山本さん」


 この2人は淡々と挨拶を済ませていた。


「私はっ、先輩の……えっと、愛しの後輩の桜木萌香ですっ」


 おい、止めろよ。何が愛しだ。


「……今なんて?」


「だから先輩の愛しの後輩の桜木萌香ですっ」


「……後輩?伊織、その子妹じゃないの?」


「え?違うよ?俺の妹は1人しかいないし」


「……どういうこと?星奈は伊織の妹2人を呼ぶって言ってたんだけど……。それに、この子絶対伊織に惚れてるよね。どうすんのこれ、修羅場確定じゃん」


 何か由香里さんがボソボソ呟いてる。


「どうしたの?」


「あ、いや何でもないよ。よろしくね萌香」


 少しまだぎこちない感じはするけど、まあ2歳離れているからな。これから仲良くなるんじゃないかな。



◆◇◆◇◆◇



「バカ兄、本当にここであってるの?」


「せんぱ〜い、こんな所にビーチなんてありましたっけ?」


 電車から降りて歩くこと5分。

 2人がどこか不安そうな声音で問いかける。


「……伊織、目的地言ってないの?」


「あ、忘れてた」


 プライベートビーチだってこと言ってないや。

 まあ、もう着くから言わなくてもいいかな。


「あんた……人を弄ぶのが好きなの?」


「え?!酷くない?」


 いきなり悪口言われた。

 俺がいつ人を弄んだって言うんだよ。心外だな。


「……悪意が1ミリもないから恨めないんだよね」

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