後夜祭のジンクス
「ん……」
知らない天井だ。背中も柔らかいし。
「あ、おはよう星奈ちゃん」
「え……?」
隣から優しい声が。
見ると伊織くんが座っていた。
「ここは?」
「保健室だよ。星奈ちゃん軽度の熱中症で倒れたんだよ」
あ、思い出した。確か、伊織くんにお姫様抱っこされて……
「っ〜〜」
絶対にそれのせいだよ。あの時恥ずかしかったり嬉しかったり幸せだったりして顔熱かったもん。
じゃあ熱中症じゃなくて……
「だ、大丈夫?!また赤くなって!!」
「だ、大丈夫だよ!」
もう気づいてよ……。
「……体育祭終わったね」
窓の外を見れば月が見えた。きれいな満月。
「あ、伊織くんブロック対抗リレーは?」
「それならクラスの男子に変わってもらったよ」
「……ごめんね。私のせいで」
私のせいだよね?伊織くんがお姫様抱っこしてきたせいな気もするけど……
「全然いいよ」
どちらにしても伊織くんは全く気にしてなさそうだから、伊織くんの優しさに甘えよう。
「ありがとう」
体育祭は最後まで参加できなかったのは残念だったけど充分楽しめた。
「あ、たぶん今キャンプファイヤーやってるから見に行こう?」
伊織くんが立ち上がって私に手を差し伸べる。
「うん」
私はその手を取った。
◇◆◇◆◇◆
闇夜を照らす緋色の炎。その周りで曲に合わせて拙く踊る生徒。
「わぁ、きれい」
「本当だ」
私と伊織くんは少し離れたところに座ってそれを眺める。
音楽が静かに聞こえて、こちらの静寂を強調させる。
横目に伊織くんを見ると、まじまじとキャンプファイヤーを見ている。
優しい顔だ。
幸せだな。
伊織くんの隣にいられて。
「月がきれいだね」
自然と出たその言葉。
それは、ある有名な文豪の言葉。意味は『愛してる』。
伊織くんと付き合えたらその時はどれだけ幸せなんだろう。
それは、きっと言葉にはできないくらいだよね。
「そうだね」
伊織くんは上を見上げてそう答える。
「むぅ……」
全然気づく素振りもない伊織くんの手をそっと握りしめた。
伊織くんはビクッとなってたけど優しく握り返してくれる。
暖かい。
やっぱり好きだな。
あの満月は明日には欠けていく。
この世に永遠なんてものはないのかもしれない。
それでも、どうかこの気持ちが月みたいに欠けませんように。
◆◇◆◇◆◇
「ねえ、知ってる?」
「何が?」
「後夜祭のジンクスだよ」
「何それ?」
「『好きな人と2人きりでキャンプファイヤーを見るとその恋が叶う』ってやつ」
「何か青春って感じだね」
「でしょ」
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