嫌悪

 気づけば体が勝手に動いていた。伊織先輩をソファーに組み倒している。いや、押し倒している?

 どちらにしてもはしたないことには変わりない。

 でも引けない。


「せ、せんぱ〜い、気になる人って私のことですか?」


 醜い。


「えー、仕方ないですね〜」


 嫌いだ。


「先輩がその気なら付き合ってあげてもいいですよっ!」


 何でこんな薄っぺらい言葉しか出てこないんだ。

 どうしてもっと素直になれないんだ。

 醜い。嫌い。こんな性格、自分なんて大っ嫌い。

 先輩に嫌われる。


「……大丈夫か?震えてるぞ」


 どうしてそんな優しい声をかけるんですか?

 期待しちゃうじゃないですか?


 でも知ってるんだ。先輩が優しいのは私だからじゃないってこと。先輩は誰にでも優しい。


 分かっているけど。それでもどこか期待している自分が中にいる。


「先輩は私のこと、どう思ってますか?」


「うざいし面倒くさいしうるさい」


 ……やっぱり。


「でも、何て言うんだろう。萌香といるのは嫌じゃない」


 何ですかそれ。ずるいですよ。そんなの勘違いしちゃうじゃないですか。

 

「……先輩」


 伝えよう。この気持ち。今しかない。


「私……私はっ、」


 たった二文字。

 でもそれが喉の奥にひっかかって出せない。

 鼓動は早くなって、息ができない。


「私は、先輩のことがっ」


 言って!


「……あは、あはは、勘違いしちゃいましたか?うわー、確かに私は可愛いですけど、後輩をそんな目で見ないでくださいよっ!」


 ……言えない。

 言おうとした瞬間に脳裏に浮かんだ可能性。もう伊織先輩の傍に居られなくなるんじゃないか。

 そう思ったら体が萎縮してしまって……。


 やっぱり嫌いだ。素直になれないし、こんな弱い自分。


 ぽん


「……え?」


 頭を暖かい何かで包まれる。

 先輩の手だ。


「俺は人の気持ちとか捉えるのが苦手でさ。萌香の気持ちは分からない。でも何か大切なことを言おうとしたんだよな?今じゃなくていいから、いつか教えて?」


「……っ」


「お、おい?!何で泣いて?!」


 酷いです。

 どうしてこんなに優しくするんですか?

 先輩が優しすぎるからこんな気持ちになってしまう。胸が切なく苦しくなるんだ。


 全部全部先輩のせいだ。


 大好きです、伊織先輩。一生傍に居て下さい。


「何でもないですっ!いつか伝えますからっ!それまで待っていて下さいっ!」


 だからそれまでは傍に居させて下さい。


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