焦燥

「そこですっ!」


 ふにゅ


「えいっ!」


 むにゅ


「近くない?」


 今リビングでテレビゲームしているんだけど、隣に座る萌香の肩とか胸とか当たってるんだよ。


「いいじゃないですか」


「なにがだよ」


 花音に助けを求めたいけど外出してるからな。


「ところで萌香は高校どこにするんだ?」


 花音も萌香も中3だからな。まだ6月とはいえ志望校が決まっていてもおかしくはないと思う。


「先輩の高校ですっ」


「まだ決まってないのか。萌香は頭良いんだから頑張れよ」


「スルーしないでくださいよ!私が行くのは先輩の通っている高校ですよ!」


 聞き間違いじゃなかった。俺が通っている高校は進学校じゃないんだぞ?

 萌香の成績は学年一位らしい。花音曰く。

 でもどうして俺の通う高校に?


「先輩がいなくなってから寂しいんですよ〜」


 萌香が馴れ馴れしく俺の腕を自分の腕に絡ませてくる。


「……おい萌香、まさか……」


 ふと、嫌な予感が頭に浮かぶ。


 確か萌香がこんな性格になったのは俺が高校入学して半年ぐらいだったはず。

 そして、わざわざ俺の通う高校に行く理由。

 うん。考えれば考えるほど理由がそれしか思い浮かばない。


「え?何ですか?顔怖いですよ?」


「またいじめられてるのか?」


「え?違いますよ?」


「あ、違うのか」


 じゃあ、どうして萌香はうちの高校に?


「……どうしてこれだけアピールして気づかないんですか(ボソ)?」


「で、本当に志望校はうちの高校なのか?」


「そうですよ!」


 本当そうだな。途中で変わるかもしれないけど。いや、その可能性が大きいと思うな。

 萌香は学年で常に1位を取るほど頭が良いから周りからも否定されるんじゃないかな。


「うちの高校で何かしたいことがあるのか?」


「それは、もちろん。先輩の彼女になるんですよっ!」


 萌香がウインクをして言う。


「はいはい」


 たぶん進学校に変更するな。


「何ですかその反応!可愛い彼女欲しくないんですか?!」


 可愛い……ね。萌香は確かに可愛いんだけどな。何か妹って感じなんだよな。そこまで付き合いは長くないんだけど。


「別に欲しいとは思ってないし、気になる人?ではないけど気になる人ができそうだし」


「……え?」


 どうしたんだ?急に動きを止めて。


「っ?!ちょ、お、おい?」


 腰に馬乗りされて肩を手で押さえられる。

 いわゆる押し倒されたってやつ。


 どうして?

 押し倒されたのもそうだけど。

 どうして、そんなに焦った顔をしているんだ?


「伊織先輩っ!!」


 どうしてそんな哀しい声を出してんだ?


 それじゃまるで俺に惚れてるみたいじゃないか。

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