昼食

「伊織くん、昼ごはん食べよう?」


「う、うん」


 互いに机を合わせ弁当を広げる。


「私も一緒していい?」


 そこにあれから復活した由香里さんも入ってくる。


「も、もちろん」


 ……落ち着かない。


 昼休みに入ってから何故だか大勢の人に見られてんだよ。廊下から。

 星奈ちゃんを見てるのかなって思ったんだけど、星奈ちゃんが俺から離れても俺の方を見てるから俺のことだと思う。


 俺の素顔ってそんなに珍しいのかな?頑張って気にしないでおこう。


「それにしても二人とも美味しそうな弁当だよね。もしかして手作りだったりするの?」


 二人の弁当は色鮮やかで健康にも気遣っているのが伝わってくる。


「そうだよ」


「私も一応」


 まさかの二人とも手作りだった。由香里さんも手作りだったのは意外だな。


「……意外って思ったよね今」


 由香里さんが半眼で睨みつける。


「ご、ごめん……。で、でもすごいってのは本当で、綺麗だよ!」


「そ、そういうのは星奈に言って!」


 何か怒られた。褒められたから照れたのかな?


「星奈ちゃんの弁当も綺麗だよ」


「あ、ありがとう……」


 今度は星奈ちゃんが顔を赤くして俯いた。


「こ、これよかったら食べてみて!」


 星奈ちゃんが俺の前に手作りの卵焼きを一切れ差し出す。


「ちょ、これって間接……ん?!」


 口を開いた瞬間に星奈ちゃんが卵焼きを口の中に入れる。

 星奈ちゃんの箸が……。


「ど、どう?」


 星奈ちゃんが上目遣いで聞いてくる。

 顔が真っ赤だ。間接キスって分かっててやったよね。


「お、美味しかったよ」


 嘘だ。正直、味なんて分からなかった。


 ……よし。


「俺だけ貰うのもなんだし俺のもあげるよ」


「え?」


 俺は自分の卵焼きを取って星奈ちゃんの口元に。


「い、いや私は……」


 おりゃ。


 星奈ちゃんの口の中に箸を入れる。


「んっ」


 箸を抜き取る。

 星奈ちゃんは何度か咀嚼してそのまま飲み込む。


「むぅ……」


 星奈ちゃんが上目遣いで睨みつけてくる。目尻には少し涙が。


「ごめんね」


 何かいたずら心が芽生えちゃって。


「……ばか」


「ご、ごほん」


 隣から咳払いが。


「「あ」」


 由香里さんがいるの忘れてた。というかクラスメートがいるのも、廊下から見られているのも忘れてた。


 俺は恥ずかしさを誤魔化すようにおかずを取り口に……


「っ……」


 おかずを持つ箸が目に入る。

 ヤバ、間接キスなんじゃ……


 耳が熱くなる。


 顔を上げると同じように顔を赤くする星奈ちゃんと目が合う。

 それがまた恥ずかしくて勢いよく顔を下げる。


「……そういうのは二人きりのときでやってよ」


 今日の弁当はどこか甘い味がした。

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