異常

 太陽が眩しい。

 今まで前髪で目が隠れていたから直接日光が当たらなかったんだ。

 何だか周囲の視線が集まっている気がする。そんなわけないのにな。


「待って誰あのイケメン?!」

「転校生かな?うちのクラスにならないかな……」


 何か悪口も言われてる気がする。さっきから指さされたりとか。

 違うとは思うんだけど。

 髪切ったら安心感がなくなって周りに敏感になるな。

 下向いとこう。



◆◇◆◇◆◇



 教室の前。


 落ち着こう。頑張れ。ただ「おはよう」の一言を言うだけ。

 大丈夫。少なくとも星奈ちゃんと由香里さんは返してくれる。


 変わるんだろ。また昨日みたいなことになるのは嫌だからな。


 よし、行こう。


 扉を勢いよく開く。


「お、おはよう……」


 そっと吐き出した挨拶はとても震えていた。


 教室が静まり返る。

 クラスメートの視線が俺に降り注いでいる。驚いたような視線で見られている。

 そんなに酷い挨拶だったかな?


 ショックを受けながら俺は席に着く。


「お、おはよう伊織くん。そ、そのかっこよくなったね」


 席につくと横から星奈ちゃんが挨拶をしてくれる。


「おはよう星奈ちゃん。星奈ちゃんに言われるとお世辞でも嬉しいよ」


「……お世辞じゃないんだけどなぁ」


「お、おはよう伊織っ」


 今度は前の席からやってきた由香里さんが挨拶をしてくれる。

 でもどうしてだろう。今日はなんかぎこちないな。どこか顔も赤いし。


「おはよう由香里さん」


 ぼふっ


 そんな音が聞こえたような気がした。

 由香里さんの顔が一瞬のうちに真っ赤に染まる。


「え?!だ、大丈夫?!」


 ど、どうしよう?!ほ、保健室か!


「は、反則だよ!」


 由香里さんはそんな変な言葉を残して走り去って行った。


「由香里さん!」


 今走ったら風邪だか何だか知らないけど悪化するよ!


 俺は席を立ち上がり由香里さんを追いかけようと……


「ま、待って伊織くん!オーバーキルだよ!」


 え?!星奈ちゃんまで何言ってるの?!


「な、なあ、お前神宮寺伊織なのか?」


 クラスメートの一人の男子が俺に尋ねてくる。それはクラスメートの代弁だったようで。


「そうだよ?」


 当然でしょ。何言ってんの?


「あ、そうか。今まで目元隠れてたからか」


 誰か分からなかったんだろう。


『えええぇぇぇぇ?!』


 どうしてみんなしてそんなにおどろいるの?

 俺の素顔を見れたのがそんなに珍しいのか?


「……凄いね伊織くん」


 隣から星奈ちゃんが遠い目をして言う。


「……よくわかんないよ」


 どうしてこんな状況になったんだ?


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