逆転
こんなに怒っている星奈ちゃんは見たことがない。
目の前に俺の知らない星奈ちゃんがいる。
「……伊織くんは何もやってない!私は何もされてない!伊織くんは誰よりも優しい人なの!私の大切な人をこれ以上傷つけないで!!」
クラスメートの動きが止まる。
星奈ちゃんの気迫に動けない様子だった。
「全員、そいつが何て言ったか覚えてる?脅されているだっけ。じゃあ聞くよ?星奈は何て脅されたの?」
由香里さんがクラスメートに問いかける。
それに対し、クラスメートは何も言えない。
「そいつが絶対に正しいわけ?」
由香里さんが上石を指差す。
上石はというと星奈ちゃんが怒鳴ったのが予想外だったのか啞然としていて、喋るタイミングを失っている。
「じゃ、じゃあどうして星奈ちゃんがあの陰キャと仲良さそうにしてんだよ!!」
一人の男子が声を上げる。
「……そ、それは、」
星奈ちゃんが頬を赤く染めている。
あ、あれ?星奈ちゃん?
まさか言うの?
「わ、私が伊織くんのことをっ……す、好きだからです……」
「言っちゃった……」
数十秒、いや数分もの間静寂が陥る。
そして、教室が割れる。
教室の俺と星奈ちゃん、由香里さんを除く全員の驚嘆の声によって。
上石も驚いている。
「ご、ごめんなさい!みんなの前で」
星奈ちゃんが俺に頭を下げる。
「いやいいよ。むしろ助けてくれてありがとう。由香里さんも。何もメリットもないのに助けてくれてありがとう」
あの状況を変えるには星奈ちゃんのその言葉が必要だった。
それに、星奈ちゃんも恥ずかしかったよね。
由香里さんは最後までクラスメートへ呼びかけてくれていた。本当に嬉しかった。
「と、当然のことだよ!私のせいでなったんだから!」
「何となく嫌だったのよ」
「理由は何でもいいよ。助かったよ」
あのまま教室から出ていたらもう居場所なんてなかった。
この二人のおかげだ。
「ま、待ってみんな!ほ、星奈さんは言わされているんだよ!今も星奈さんは苦しんでいる!」
教室の喧騒の上から上石がみんなへ問いかける。
「また伊織くんをっ……」
「落ち着いて。これは、たぶん」
悪手だ。
「さっきから一方的に陰キャを悪く言ってるけど本当なの?」
「どうやって脅したんだ?」
「それに星奈ちゃんの顔を見たらね」
冷静さを取り戻したクラスメートが問い返す。
「く……」
たじろぐ上石。
流石に理由までは用意してなかっただろう?
今、必死に頭を回しているだろ?
でも、その間が致命傷になる。
「この状況において上石の居場所はここにはないよ」
二人のおかげでね。
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