拒絶
はあ、負けた。
周りをよく見ている。自分の価値を周りの評価を理解している。頭の機転も。
忌々しい程に、上手い。
「落ち着けって!」
由香里さんが必死になって声を荒げるけど、もはやそんなのは意味をなさない。
クラスメートの目に映る俺は悪。言い訳も許さない。
「……なんだよ」
どうして俺がこんなにも責められているんだ?
星奈ちゃんを助けた……から?
馬鹿野郎!!こんな所で俺が嫌悪している人間に成り下がろうとしてんじゃねぇ!!
最初から勝ち目などなかったんだ。
俺がどれだけ必死になろうとも星奈ちゃんを助けることはできなかった。
腐った言葉が俺を殴りつける。
痛くはない。だけど、やるせない。
「由香里さんありがとう。でも、もういいよ」
「伊織?」
ほら、そんなに声が枯れてしまって。
「この状況は覆らない」
「そんなことっ……」
由香里さんの言葉は途中で空を彷徨う。
由香里さんも理解しているのだろう。
隣にチラッと視線をずらす。
視界の端に一瞬映った項垂れる星奈ちゃん。
「星奈ちゃん、顔を上げて。星奈ちゃんは悪くないよ。俺が勝手にやった結果なんだ。ごめんね」
哀しい思いをさせたくない。
本当に俺が勝手に始めたことなんだ。星奈ちゃんのためだと思っていたのに、実際はそんなことなくて。
「星奈ちゃんに近づくな!」
「可哀想!」
「キモオタ!」
「出ていけ!」
上石がどんな脅しをしたのか聞いていないのに、俺を絶対悪だと決めつけるのか。
「もう、いいや」
星奈ちゃんと由香里さんに背を向け足を動かす。教室の外へ。
「ねえ、待っ――」
「うるさいっ!!!」
……え?
教室に悲鳴にも聞こえる怒声が響き渡る。
教室が静まり返る。
誰の声なのか一瞬分からなかった。
いつもの耳を優しく撫でる柔らかい声じゃなかったから。
殴りつけるような、空気を切り裂くような甲高い声だったから。
足を止め咄嗟に振り返る。
視線の先は声を出した、星奈ちゃん。
肩で息をして、腕は怒りで震えていて、瞳には涙が溜まっている。
視界に映ったのは、そんな初めて見るような星奈ちゃんだった。
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