掌握

「やあ、神宮寺くん。テストの点数どうだった?」


 昼休みに堂々とやってきた上石。

 何がだ。反吐が出る。


 クラスが静まり返る。隣を見ると由香里さんが必死に笑いを堪えていた。


「ちなみに僕は学年2位だったよ。前回より1つ下がってしまって。勉強不足だったな」


 教室にいる人に聞こえるようにわざわざ大きな声で言っているな。

 表情は取り繕っているけど、瞳から俺を嘲笑っているのが伝わってくる。


「勉強不足か……本当にそうだったな。ほら」


 上石の眼前にプリントを突きつける。

 俺のテストの結果が記されたものだ。


「なっ?!バカな!!」


 勢いよくプリントを奪い取る。


「俺の勝ちだな。約束は守ってもらうぞ?」


「……な、なんのことかな?」


 ここでとぼけるのか?!いや、元々負けたらそうするつもりだったのか!だから、勝負をすることだけを広めて肝心な情報は流さなかった……。


「とぼけるなよ!負けた方が星奈ちゃんに近づかないって決めたじゃないか!!」


 クラスがどよめく。

 知らなきうちにこんな大きい約束をしていたからか?


「何を言っているんだい?だいたい僕が勝負の賭けに人を持ち出すとでも?」


 急に冷静になり、まるで俺が妄言を吐いたかのような声音で言う。


 その声にクラスメートの意思が傾く。

 上石の言葉を信じ、俺を蔑む目に。


 嘘だろ……。これじゃ俺のやったことが無駄に……。また最初からになる。

 しかも、難易度は高くなって……いや、上石はもう俺の言葉に耳を傾けない可能性も。

 というか星奈ちゃんに近づくのも困難になるだろう……。


「待って。話が違うんじゃない、上石颯人」


「そうですよ。伊織くんを悪く言わないでください」


 由香里さん、星奈ちゃん?


「……何を言っているんだい?二人とも」


「はあ、しらばっくれないで。伊織の言葉は全部正しい。そうでしょ?」


「嘘を言わないでください」


 二人の強い言葉にクラスメートが困惑する。

 どっちを信じていいのか分からないみたいな感じだ。


「……これって颯人くんが嘘ついているんじゃ……」

「だよな。星奈ちゃんも嘘じゃないって言ってるし」


 だんだんとクラスメートが上石を疑う目に。


 上石が奥歯を噛み締める。


「……聞いてくれみんな。星奈さんは神宮寺くんに脅されているんだ。僕はそれを助けようとしたんだ!だけど、このザマで……。ごめんね星奈さん」


「ふ、ふざけっ……」


 『ふざけないで!』


 星奈ちゃんがそう叫ぼうとした。だけど、その声はクラスメートたちの怒りの声にかき消される。

 いや、仮に届いても無駄か。

 星奈ちゃんの声が届いたとしても、俺が脅したからという理由で揉み消される。


 まさか、そんな有耶無耶な言葉でこんなことになるなんてな。


「上石っ」


 目の前にいる上石を睨みつける。


「(ばーか)」


 奴は、顔全体に醜悪な笑みを浮かべて、そう口を動かした。

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