変化

「はあ、本当に大丈夫かな俺」


 明日になったらクラスメートから軽蔑の目で見られるなんて嫌だよ?


「遅かったね」


「え?」


 校門の物陰から出てくる少女。夕日に反射する金髪が風になびく。


「ずっと待ってたの?!」


 星奈ちゃんだ。


「うん。だって毎日一緒に帰る約束してたから」


「も、もう30分は経ったのに?」


 しかも、ちゃんと今日は一人で帰ってと伝えたんだけどな……。


「女の子と体育館裏にいたでしょ」


 拗ねたように言う星奈ちゃん。


「見てたんだ。いや、でも告白とかじゃなくて……」


 何て言おう。流石に本当のことを言うのは恩着せがましいっていうか……。


「ふふ、ごめんね。ふざけた」


 星奈ちゃんが俺に近づいてくる。


 そして、俺の胸に頭を置く。


「……ありがとう」


 呟いたような小さな声はしっかりと俺の耳に届く。


「何が?」


「……皆に無視された時哀しかった。だめだねこんなんじゃ」


「そんなことないよ。星奈ちゃんもまだ子供だ」


 そっと星奈ちゃんの頭を撫でる。


 例え、元トップアイドルであったとしてもステージがなければただの女子高生。

 無理して大人になろうとしなくていいと思う。


「助けられてばかり……」


「え?助けたのは今日が初めてだよ?」


「ありがとう伊織くん」


「まあいっか。いつでも助けるよ」


「……それは私だから?」


「ん?ごめん聞こえなかった」


「何でもない……。よし、帰ろっか」


 顔を上げた星奈ちゃんはいつもの笑顔だった。



◇◆◇◆◇◆



 翌朝。


 あれ?山本さんいないな。


 いつもならこの時間帯にはいるはずなんだけどな。

 やっぱり俺が壁ドンしたから……。


「お、おはよう」


 隣から聞き覚えのある声がした。

 この声は山本さん?

 え?なに?怖い。何で挨拶されてんの?

 とりあえず返そう。


「お、おは……」


 思考が止まった。

 だって一瞬誰なのか分からなかったから。


「山本さんだよな?」


「そ、そうに決まっているでしょ」


「だ、だよな……」


「……」


「……」


「ど、どう?」


「どうって何が?」


「み、見て分かるでしょ!」


 うん。めっちゃ分かる。

 だって金髪が黒髪になってるから。


 どうって感想を言えってことか?

 えっと……


「その、に、似合ってると思います」


 女子の容姿を褒めたことないから恥ずかしいな。本心だからなおさらだ。


「そ、そう。よかったぁ」


 俺に褒められても意味ないんだけどなぁ。


「おはようございます」


 あ、星奈ちゃんが来た。


「おはよう」


 これは、俺じゃない。山本さんだ。

 ちゃんと守ってくれてる。


 クラスメートたちも返してくれてる。


「おはよう星奈ちゃん」


「おはよう伊織くん。山本さんも。何か話していたんですか?」


「い、いや何でもないよ。そ、それじゃあね伊織」


「ぶっ」


 伊織?!


「う、うん、ありがとね山本さん」


 星奈ちゃんに挨拶してくれたことにお礼を言う。


「……」


 え?山本さんがこっちに戻って来た。


由香里ゆかり。由香里って呼んで!」


 それだけ言って去っていった。


「……何だったんだ?」


「これって、もしかしてライバル……?」


 俺と星奈ちゃんの呟きが重なった。

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