第55話 見習い兎
そんなこんなで、積もる話に嬉し涙に鼻水にと盛大に流して喜び合った後の事。
立ち寄った茶屋から出発し、にこにこと満面な笑みを浮かべる桃太郎じいちゃんに連れられ増えた同行者と共に更に賑やかに会話を弾ませながら歩いて行く。
すると、いつの間にか居住区を抜け景色も先程とは一変していた。
光る粒子がふわふわとアチコチに浮遊している。触っても何も感じないし綺麗なだけである。そして、そこいらじゅうでポンッポォンと小気味のいい不思議な音がしている。
何の音だろうかと周囲を見回すと、薄いピンクから濃いピンクへのグラデーションが美しい蓮の花があちこちに咲いているのが見えた。
「桃次郎ちゃん、気が付いたかしら? あれは蓮の花。開く時あんな可愛らしい音を立てるのよ。今日はきっと桃ちゃんとジロちゃんを歓迎しているのね」
不思議そうな顔をしている桃次郎に、ケンさんが音の正体を聞かせてくれた。
「そうじゃな、蓮は美しい。しかし、ケンさんあなたの方がもっと美しいです」
「何言ってんだ色ボケじいちゃん。聞いてくださいケンさん、こんな事言ってますけどね、実は──」
「おーっと! 桃次郎ってば何を言おうと言うのだね!? ゴホン、ケンさん何でもないですじょ! なははは!」
「そんな胡散臭い笑い方ある?」
ジト目で桃太郎を見つめる桃次郎に、桃太郎は目を血走らせながら「ようし、桃次郎! あのアトラクションは凄かったな」と凄い無理やりな話題転換を要求したのであった。
「まぁ、二人は仲がいいのねぇ。子孫と言うより孫とおじいちゃんみたいだわ。それか、友人か」
「いやいやケンさん、そんな事はないですよ」
「ほうじゃ、ケンさんてば~~わしらそんなんじゃないぞーい」
よりによって二人揃って否定するので周囲が笑いに包まれる。
思わぬハモリ方をしてしまった桃太郎と桃次郎は「ちょっと、真似しないでよ」「桃次郎こそ真似するでないじょ!」と互いに言い合いバツが悪そうにあ~~とため息を漏らしつつ頭を掻くなどして更に笑いの輪が広がるのであった。
◇
そこから更に進むと白亜の巨大な建物に辿り着く。
「うはぁ~でっかい」
桃次郎が見上げて感嘆の声を漏らすと、それに追随するように村人らから、
「ほほぁ~見事なもんだ」
「こりゃあたまげたぁ」
「なんてでかさだ」
と似たような反応が上がり、中には尻もちをついてしまう者までいた。
入口の扉の右下に小さな小窓が出現し、ぴょこんぴょこんと何かが飛び出して来た。
「あれは?」
「お、来たか。あれはな」
桃太郎じいちゃんが生命体について説明しようと口を開くが、続くよりも早く、小さな生き物が口を開いた。
『ようこそ~お話聞いておりますのー。皆さま中へどうぞなの』
飛び出して来たのは兎のような生き物。一同の前まで跳ねて来ると、鼻をヒコヒコさせながら器用に後ろ足二本で立ち上がり声を合わせてそう言った。
(か、可愛い!)
桃次郎は脳内に生まれたもう一人の自分がプパッと鼻血を出して悶えたのが解った。きゅるんとつぶらな瞳にモフモフとしたふわふわの体毛で覆われ非常に触り心地の良さそうな見た目をしていたもので、桃次郎の手が無意識のうちに両手共ワキャワキャと怪しい動きをしていた。
「も、桃太郎じいちゃん……この気持ちよさそ……ゲフん。いやいや、この子達は?」
何とかかんとか衝動を抑えて咳ばらいをしてから尋ねる。
「この子らは、見習いさんじゃ。天界ではこの兎さんらはのう、特別な存在でな薬学から整体についてなど医学を中心に様々な事を学ぶのじゃよ。その傍ら、こうした門番や他の雑用もこなすんじゃ」
『はい~、今日は門番さんなの~』
「うむうむありがとうのぅ、それでワシらはどこへ行けばいいかの?」
すると、『ご案内しますなの~』と声を揃えて四足歩行の姿勢に戻る。
「どうやら、付いて行けばいいようじゃ」
「う、うんわかった」
「桃次郎よ、その手は早々に引っ込めて無粋な事はしないように。きちんと生き返らせてもらいたいならの」
横目でジトリと睨んでからフンと小さく鼻を鳴らす。
(くう、お見通しだったか……そんな不埒な事はしない……しないぃ……)
先に行く見習い兎さん達を持ち上げて存分にわしゃわしゃしたいという強い葛藤を何とかこらえ、分かってるよと頷き後に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます